第10夜 冥界の歌姫
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「ラスト!」
ズドォンという激しい音と共に最後のアクマは地面に落ちていった。
辺りは本来の静寂に包まれた。
シュワっと
柔らかい風が丘の方へ抜けていった。
「お怪我は?」
「ない。お前は?」
「大丈夫です」
街を出た時の、あのギスギスした空気はもうなく、以前と同じとは言わないまでも、わだかまりは少し溶けいた。
小一時間程かけて全ての敵を倒した2人は、早速屋敷の中に入っていく。
うすら暗い室内は、外の明かりでかろうじて見えるほどである。
「屋敷の中にはいないようだな」
「ですね。ちょっと灯りになりそうなもの探します。」
ロビーを少し歩き回ると、マッチと燭台を二本発見した。
少々心もとないが、ないよりはマシだろうと火をつけて神田に一つ渡した。
「アクマがいたということは、本格的にイノセンスの可能性が高いな」
「だとしたらこの広い屋敷から探さなくちゃなりません」
神田は少し溜めてぼそっと呟いた。
「…やるなら徹底的に、だったか?」
「は?」
一瞬なんのことを言っているのかわからなかった。
先日のカラクリ屋敷で、床が抜けるほど屋敷を破壊した彼を、ティエドールはまだまだと言った。
おそらくそのことをまだ引きずっているのだろう。
「え、だめですよ??人の家なんですからね?」
「…………」
おなまーえを気遣って、慣れない冗談を言ってくれたのだとすぐにわかった。
そのどうしようもなく不器用な優しさに思わず頬が緩む。
「ふふ。さ、手分けして探しましょう!」
「なんでオレが」
「私二階探すので、先輩一階お願いしますね」
「…チッ」
有無を言わさず役割を押し付けると、舌打ちをしながらも彼は広い屋敷の一階を捜索しに行ってくれた。
その後ろ姿を見ながら彼女は小さく零す。
「……後でちゃんと謝らなきゃ」
なんとなく、以前と同じように接してはくれているが、きちんと謝罪したわけではない。
おそらく神田は気にもしていないだろうが、それではおなまーえの気が済まない。
彼の姿が見えなくなると、おなまーえも階段に足をかけた。
キィッと床が軋み、手すりに捕まれば木製のそれは崩れ落ちてしまう。
5年経ったにしても崩壊と腐敗が激しかった。
おそらくこの家は何度もアクマに襲われていたのだろう。
二階は個人の部屋が多いようだ。
家族の写真もあり、皆各々楽器を持っていることからも裕福な家庭だったことがわかる。
「ここはピアノ室…」
地主である父親はどうやら作曲家だったようで、地面に楽譜が散らばっていた。
なんの気もなしにおなまーえは楽譜を一つ手に取る。
「……〜♪」
声に出してメロディーを読み上げる。
2段目に入ったところで彼女は確信した。
「…頑張れば少し弾けるかも?」
おなまーえのイノセンスはもともとハープだったものを改良したもの。
また、自宅が楽器屋だったということもあり、ある程度の知識はあった。
なんとなく惹かれるものがあり、彼女はその楽譜を折りたたんで胸ポケットにしまった。
その後たっぷり3時間程探索したが、イノセンスらしき物質は発見できなかった。
一階を捜索した神田も同様に収穫がなかったようで少しイライラしている。
もうあと2.3時間で夕方だ。
そろそろ街に戻った方が良いと2人は屋敷を後にした。