第10夜 冥界の歌姫
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部屋は少し埃っぽかった。
客があまり来ない上、この宿屋はどうやら主人だけのようなので、ろくに掃除もできていないのだろう。
換気をしようと窓に手をかけ、嵐であることを思い出す。
おなまーえは湿っぽいカーテンを閉めて近くの椅子に腰をかけた。
「さて、君たちはどう思う?」
ベットにティエドール、椅子におなまーえとマリが腰をかけ、神田は扉の横に寄りかかった。
まず最初に口を開いたのは神田であった。
「声は夜聞こえると言っていたな。マリ。」
「ああ。ただ先程から試してはいるが、雨音が強くて今夜はダメそうだ。」
マリの鋭い聴覚は雨音を強く拾ってしまうようで、残念ながら今夜は声の正体を突き止めることができなさそうだ。
「ご主人以外の人の話も聞きたいですよね。そもそも本当のことを言ってるのかってのもわからないし。」
「酒が入っていたのでわかりにくかったが、嘘をついている様子は感じられなかった」
「そっか…」
マリであれば心音からその人の心理状態を少し探ることができる。
どうやら唸り声が聞こえると言うのは嘘ではないらしい。
「じゃあ結論は出たかな」
「はい」
歌が海から聞こえるという摩訶不思議な現象が事実なのだとしたら。
ティエドールが皆を代表して結論を出した。
「まぁ、あるだろうねぇ、イノセンス」
かつて亡くなった娘の霊が5年経っても叫び続けている、それはすでに人知を超えた現象である。
奇怪現象あるところにイノセンスあり。
全員の長年の勘が十中八九当たりだと言っていた。
「問題はどこにあるかですね…」
「おそらく、そのご令嬢にゆかりのある場所が可能性が高いだろう」
とするならば可能性は二つ。
「海か、屋敷か」
神田の言葉におなまーえはピクリと反応した。
「…屋敷、私行ってもいいですか?」
「どうしてだい?」
「ちょっと気になることがありまして…」
「まぁ構わないが、1人で大丈夫か?」
マリが心配そうにこちらを覗いた。
「大丈夫。ほら、来るときあの辺りのアクマは一掃したし。」
「それはそうだが…」
「オレもいく」
「神田?」
「じゃあユーくんとおなまーえちゃんにお願いしようかな」
屋敷に行くのは神田とおなまーえで決定した。
となると必然、海に行くのはマリとティエドールになる。
人当たりがいい元帥と、アクマのノイズを聞き取れるマリならば、情報収集中に襲われても退治できるだろう。
「と言ってもこっちも船がないことにはどうしようもないよねぇ」
「漁業関係者にもあたってみましょう」
「そうだね。とりあえず明日はこのメンバーで。」
「「「わかりました」」」
方向性が纏まったことで、今夜は一時解散となった。
各々与えられた部屋に向かう。
「………」
「………」
おなまーえと神田は互いに無言のまま背を向けて自室に入って行った。
マリがそれを複雑な表情で見つめていた。
****
翌朝。
昨晩の嵐が嘘だったかのように空は快晴であった。
話し合った通り、一行は二手に分かれた。
歩いて数歩でギブアップをあげたくなる空気に耐えつつ、おなまーえと神田は屋敷の道のりを歩いた。
状況が状況で仕方ないとはいえ、2人きりになるのは久々だったため非常に気まずい。
丘を一つ越え、昨日素通りした屋敷に辿り着く。
辺りには不気味な静寂が漂っている。
神田はキィッと門を開け、中に入った。
「どなたかおりますかー?」
「…先客だ」
玄関の前で立ちふさがるように浮かんでいるLv.1のアクマ。
アクマはこちらを認識すると、ガタンと音を立ててキャノン砲を向けた。
また周囲に散らばっていた個体も集まりだした。
ざっと数えて前に20体、後ろに30体ほどはいるだろうか。
「私後ろやります」
「やれるか?」
確かに広範囲を得意としているおなまーえが前方を担当するすれば、建物を破壊しかねない。
だが、あえて多い方を買って出たおなまーえに神田は鋭い視線を向ける。
「大丈夫、最近アタック系は調子いいので」
誇張表現なしにそれは事実であった。
ティエドールからのお墨付きも頂いている。
「無理はするな」
「…それは実力不足って言いたいんですか?」
「………」
「いいんです。わかってますから。」
自らを嘲笑うように頬と目元の筋肉が動いた。
自分は弱い。
アタック系が上達しているとはいえ、神田には到底及ばなかった。
(…だめだ。こんな態度じゃ仲直りも何もできない。)
素直に謝りたいのに謝れない。
そんな自分にさらに嫌気がさした。
「
「…六幻、発動」
2人のイノセンスが光った。
「
「界蟲『一幻』!」
光の雨と蟲がアクマに襲いかかる。
雨を避けたアクマを神田が切り刻んでいく。
彼では届かないほど上空にいるものは、おなまーえが一体一体射抜いていった。
神田が目の前に迫った一体を撃破した。
その背後から別のアクマが彼に襲いかかったのを、おなまーえは視界の端で捉えた。
「あっ!」
どうやら神田は気づいていない様子だ。
急いでそちらに照準を定める。
アクマのキャノン砲が発射されるのが先か、おなまーえの放った矢がアクマを破壊するのが先か。
――ギュオン
音速すらをも超える速さで矢が風を切った。
――ズドドン
「はっ」
神田が気づいて振り返った時には、もうすでにアクマは地に落ちていた。
かつてのおなまーえでは出せなかったその威力と風圧に呆気にとられる。
「背中、ガラ空きでしたよ…"先輩"」
神田は言葉をかけようとして口を噤んだ。
今はアクマに囲まれている状況。
余計な思考は命取りとなる。
「…助かった」
迷った末、彼はそう短く答えた。
互いに背を預けてイノセンスを構える。
神田の肩甲骨がおなまーえの後頭部にコツンと当たった。
2人は声は掛け合わずとも、互いに連携しあってアクマを駆逐していった。