第10夜 冥界の歌姫
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第10夜 冥界の
#オリジナル
#sound horizon様の作品をモチーフに書いております。どのシリーズの歌なのか気になる方はお名前付きでコメントしていただければお教え致します。まぁぶっちゃけ歌詞検索すればすぐ出てきます。
ドォンという激しい音とともに、アクマは破壊された。
各々イノセンスをしまい一時休憩をすることにした。
「……やっぱりできないー!」
おなまーえは
形成した瞬間に手を離すと矢はすぐに崩れ落ちてしまうため、全く使い物にならない。
「こらこら、イノセンスは生きているんだから大切に扱いなさい」
ぽいっと投げ捨てればティエドールが苦笑してそれを拾い上げた。
「その分、攻撃系の技はメキメキ上達したじゃないか」
「そうなんですけど、なんか今まで使えてたものが使えないって何かと不便で……」
「うーん」
「シンクロ率の問題じゃないのが悩みどころなんですよねー」
シンクロ率が問題なら第二解放、即ち
だがアタック系の技は問題なく使える。
事はそう単純な事ではないようで、原因不明の不調におなまーえは頭を悩ませていた。
こんな時、いつもおなまーえを励ましてくれるのはデイシャだった。
デイシャならきっと『お前のイノセンス反抗期じゃん!』などと言ってバカにしてくるのだろう。
そして言い返せず頬を膨らませるおなまーえをみてゲラゲラと笑う。
想像しただけでクスリと笑ってしまった。
(…って、もう居ない人のこと考えてもしょうがないか)
おなまーえは少し伸びた髪を鬱陶しそうにかきあげた。
今一行はアメリカ大陸の西側に向かって進んでいる。
ティエドールの持つイノセンスがこちらに反応を示したからである。
一行は、アメリカ大陸西部の港から船で日本に向かうことにしたのであった。
そろそろ夜が更けてくる。
海側からの湿気った風が強くなってきた。
「潮の匂いが濃くなってきましたね」
「今夜は嵐になりそうです。早めに泊まるところを見つけた方が良いかと。」
鈍色の雲が空を覆っている。
マリの言う通り雨が降りそうな気配だ。
晴れの日ならば野宿することもやぶさかではないが、この天気だと宿に泊まった方が良いだろう。
「お、あそこに家があるよ」
ちょうどよく一行の視界に大きなお屋敷が見えてきた。
だがいかにもというような、おどろおどろしい雰囲気が漂っている。
ガラスは割れ、蔦が無数に絡まっている。
壁のレンガも所々落ちているようだ。
とても人が住んでいるとは思えない。
「…え?師匠、流石にここはやめません??」
幽霊などが苦手というわけではないが、特段好んでいるというわけでもない。
どちらかといえば、関わりたくない部類である。
「んー…誰かいる様子もないしねぇ。まぁここに家があるってことは、近くに街もあるってことだよ。」
「微かですが、丘の向こうから人の声が聞こえます」
「ならさっさと行くぞ」
特に気になることもないため、一行はそのまま屋敷を通り過ぎようとした。
だがその時。
『たす…けて…』
「!?」
バッとおなまーえは屋敷の方を見つめた。
かすれて聞き取れなかったが、確かに女性の声がした。
だが気配を探るが、このあたりに一行以外の存在は確認できない。
彼女の只ならぬ形相に、神田は思わず声をかける。
「どうした」
「今…声が……」
「声?」
「私には何も聞こえなかったが…」
「幽霊とかかな?」
「くだらない」
彼女は微かに声が聞こえたと言ったが、マリですら何も聞いていないという。
幻聴か、はたまた気のせいだったのだろうか。
「……なんでもない」
少し気になったが、わざわざ屋敷を捜索するまでもないだろう。
気のせいだと自身に言い聞かせて、彼女は一行の一番後ろについた。
****
程なくしてティエドール部隊は港町に辿り着いた。
ポツポツと小雨も降ってきている。
大通りはさびれた看板や戸をたててある店が多いが、かつては繁栄した街であるということが見て取れる。
「なんか、寂しい街ですね」
「ほとんどの人が屋内にこもっているようです」
マリがヘッドホンで耳を澄ませる。
彼のヘッドホンは特別なものでできており、遠く離れた場所の音を聞き分けることができる。と言うのも彼は目が見えない。
視覚を補うために聴覚を敏感にさせているのである。
今も宿屋らしき場所を探してくれている。
「……こっちですね」
彼の案内についていくと、宿屋が一軒みつかった。
扉を開けるとカランカランと錆びたベルが鳴る。
綿埃が床を転がった。
「すみませーん」
ティエドールが呼びかけると奥から年老いた男性が出てきた。
心なしか、どこか鬱陶しそうにこちらを見ている。
「旅の人か」
「はい。一晩お借りしたいと思いまして。」
「悪いことは言わん。早くこの街を去れ。」
「なんだと?」
神田が訝しげに眉を顰めた。
「どうせ太平洋を越えるために来たのだろう。なら無駄足だ。もうこの街からは船は出ない。」
「…詳しく話を聞いても?」
人当たりの悪い神田に変わって、ティエドールが前に出た。
どう言っても立ち去る気のない一行に、宿屋の主人は折れてしぶしぶと重い口を開いた。
「…呪われてるんだ、この街は。お前たちも東から来たなら見ただろう、あの廃墟を。」
「丘の向こうの大きな屋敷のことだね」
聞けば屋敷には、5年前までこの辺りを治める、地主の家族が住んでいたそうだ。
その娘は歌が上手いことで有名であった。
容姿淡麗で器量もよく、街の人からも愛されていた。
だがある日、一家は何者かの手によって屋敷で殺害された。
娘だけはなんとか家から逃げ出したものの、崖から転落し海に沈んでいってしまったという。
「それからだ。海から唸り声が聞こえてくるようになったのは。」
夜な夜な死んだはずの娘の声が海から聞こえてくる。
最初はまだ成仏できていないのかと人々は同情した。
哀れな少女のために、わざわざ聖職者を招いたりもした。
「だが唸り声はおさまらねぇ。しかも沖合にはおっかねぇ化け物が出てくるようになっちまった。」
「化け物?」
「大砲みたいなのから光線が出てくるんだ。卵型で空に浮いてて、どんな武器でも太刀打ちできねぇ。」
一行は顔を見合わせた。
聞いた化け物の特徴はまさにアクマと一致している。
看過できることではない。
「それが何年も続いて、とうとう呪われた海って噂がたっちまった。この街は宿屋と漁で食い繋いでたから、もうお終めぇだ。」
漁業と旅人の休息地として栄えていたこの街は、アクマによる攻撃と風評被害によりやがて衰退していったという。
「あの声が、化け物を呼び集めたんだ」
「……どうして唸り声がアクマを呼び寄せると?」
おなまーえは素直な疑問を口にした。
すると男は激高して答える。
「娘が死んでからだ!それまでは普通に暮らしてたんだぞ!?あいつ以外に原因があるか!?」
「お、落ち着いて…」
「落ち着いていられるか!そのせいで妻も子供も出て行っちまった。オレは貯金を食いつぶして、ただ酒を煽る毎日。その酒も水で薄めて飲んでんだ。…これ以上の仕打ちがあるか?」
「………」
相当堪えているようで、男はぐったりとカウンターに項垂れた。
アルコールの匂いが微かにする。
やけ酒でもしていたのだろう。
雨が建物を強く打ち付ける音がする。
風も強く、入り口の戸がガタガタと鳴った。
「…今夜は嵐になるから泊まっていけ。ただ、明日になったら早くここから離れろ。それがお前たちの為にもなる。」
男はそう言うとシーツをカウンターに出して奥へと引っ込んでいった。