第9夜 奇妙な館
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中年の男はこの辺りを通りかかる馬車を待っていたようで、4人もそれに同行させてもらうことになった。
干し草を乗せた馬車がゆらゆらと揺れる。
荷台の後ろに、一行はお邪魔させて頂いた。
ティエドールはこの絵描きと意気投合したようで、彼の書いた絵をじっくりと見る。
「うん、なかなかいい絵だ。建物の絵が多いね。」
「僕、プラハの大学で建築の勉強をしてるんです」
「なるほど、こっちが本業というわけか」
そこでおなまーえは男の名前を聞いていないことに気づく。
「あの、失礼ですがお名前は?」
「ああ、こちらこそ。アルフォンス・クラウスです。」
「私はフロワ・ティエドールだ」
ティエドールとクラウスは手を取って固く握手をした。
「で、こっちは楽しい旅のお供。おなまーえと神田とマリだ。」
「よろしくお願いします」
「…………」
おなまーえも手を差し出して握手をする。
流れでクラウスは神田にも手を出したが、彼はふいっとそっぽを向いてしまった。
「すまないね、彼はシャイなんだ。許してやってくれ。」
「はぁ…」
無愛想な神田の態度をティエドールがフォローし、クラウスも納得してくれたようだ。
「プラハからわざわざいらっしゃったんですね」
「こんな山の中に来たのはやっぱりヤーンの屋敷かい?」
「はい!ご存知ですか?」
「噂話くらいはね」
聞きなれない単語に、マリがティエドールに問いかけた。
「なんですか?ヤーンの屋敷とは」
「お、ぜひ私から説明させてください」
クラウスが大きな肩掛けカバンから一冊の絵本を取り出した。
タイトルは『ヤーンの屋敷』である。
昔この先の街にはヤーン・ノワークという変わり者の男がいたという。
ヤーンは雑貨屋を営んでいて、店はとても繁盛していた。
ところがある日、ヤーンは突然店を閉めてしまった。
彼は財産の全てをつぎ込んで、自分の手で家を建て始めたのである。
周りになんと言われようと、ヤーンはただひたすら自身の思い描いていた家を作るために働いた。
やがて40年の歳月が過ぎ、とうとう彼は一軒の屋敷を完成させたのであった。
「それがヤーンの屋敷です。僕は子供の頃、このヤーンの話を読んで建築家を目指すようになったんです。」
そう語るクラウスは熱意に満ちていた。
本当に彼がこの作品を好きなのだとよく伝わってくる。
「そして、いつか自分の目でヤーンの建てた屋敷を見たいと思っていたんです」
「…素敵ですね」
それはおなまーえの本心からの言葉であった。
だが芸術に理解のない隣の男は違う。
「くだらん」
ぼそっと吐き捨てるようにつぶやく。
「あれぇ?話聞いてたんだ」
「っ…悪いですか?」
「興味ないのかと思ったよ」
「興味はありません」
ティエドールは慣れたように神田をなじった。
いつもならそれはおなまーえの役割なのだが、今2人は不仲である。
くだらないという神田の言葉にムッときたクラウスは彼に詰め寄る。
「ヤーンの屋敷は家を楽しむという観点から建築の在り方を見つめ直した芸術作品なんです!既成概念にとらわれないその発想は当時の建築家たちを驚かせ、多くの画家や作家までもを虜にしたんです!」
彼の力説におなまーえは苦笑いした。
「あれこそ人類が永遠に残すべき遺産です!!」
「その通り」
「あ」
そこでやっとクラウスは平静を取り戻したようだ。
恥ずかしそうに頬を染め、静々と座った。
「まぁ君のような朴念仁にはわからないだろうがねぇ」
「っ…」
相手が元帥ということで神田も強くは言い返せない。
ただストレスと額の青筋だけが増えていく。
「な、なんだぁ!?ありゃあ!?」
突然馬車を操っていた老人が叫び出した。
ただごとならぬ気配に、一同は臨戦態勢をとる。
正面を覗くとLv.1のアクマが10体ほど浮かんでいた。
「どけ」
ちょうど良いストレス発散が来たと神田は立ち上がり、荷台から降りて走り出す。
アクマのキャノン砲が彼と馬車を襲う。
おなまーえは干し草をよじ登り、キャノン砲を一つ一つ弓で打ち返す。
マリも馬車の前に立ち、守りの態勢は万全だった。
「お、降りてくれ!!」
「へ?」
だが馬車を操っていた御者に、おなまーえとティエドールとクラウスは無理やり降ろされる。
「ちょ、ちょっと」
「あんたらには関わりたくねぇ!すまねぇが降りてくれ!」
「おやおや」
一般人に手をあげるわけにもいかず、3人は抵抗せずに馬車から降りた。
正面では神田とマリが戦っていてくれたが、どうやら何体かに逃げられたようである。
「チッ、追うぞマリ!!」
「ああ。元帥!」
「あの、2人とも…」
振り返った2人が見たものは、来た道を猛スピードで帰っていく馬車の荷台と、ポツンと残された3人の姿だった。