第9夜 奇妙な館
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夕日が涙を流すティエドールを照らす。
アクマを退治してから今までずっと泣き腫らしていたのである。
「あんなにも素晴らしかった建築物が失われるとは……なんと悲しいことだ」
「自分でやっておいて、何を言ってるんだか」
「ほんっとにそれ」
「師匠らしいといえば、らしいがな」
弟子3人は冷めた目でそれを見つめる。
おなまーえは先ほどの心音がまだ胸に残っていた。
幾分か落ち着いてはきたが、好きな人に抱えられ、抱きつくなど初めての経験である。
「……おなまーえ」
マリはその音にもちろん気づいていた。
「なに、マリ?」
「少し話したいことがある」
「どうぞ」
「神田は少し下がっていてくれると助かる」
「あ?」
「大した用ではない」
マリはおなまーえを背をそっと押して、神田から少し距離をとった。
彼の視線を感じるが、マリが大きな体でそれを隠す。
「おなまーえ、そろそろ神田と仲直りしたらどうだ?」
なんとなく、いつかは言われるだろうと思っていたことを言われた。
素直に答えられずおなまーえはツンケンとした態度をとる。
「別に喧嘩したわけじゃないです」
「好きなんだろう?」
ビクッとおなまーえの体が跳ねた。
しばらく考え込み、そして合点がいったと手を打った。
「……ああ、そっか。マリにはわかっちゃうのか、コレ。」
「確信を得たのはさっきだがな」
「いい趣味してる」
ふっと笑うと、意外にも彼女は朗らかな笑顔を見せた。
「フラれたんです、私」
「フラれたって、まさか神田にか?」
「この流れで他に誰がいるの」
「いや…」
あの神田が?おなまーえをフった?
あり得ない。
こんなにも彼女を大切にしている男は他にいないというのに。
「ただの同僚って言われちゃったから、なんか悔しくて……だからもう先輩って呼ばないようにしてるんです。時々出ちゃうけど。」
「ならもう諦めて、元の呼び方にしてやれ。あいつも辛そうだ。」
「む…」
あの男もなかなか頑固だが、おなまーえも負けず劣らずの頑固者らしい。
「神田のことはお前がよく知ってるだろう」
「それは…そうだけど……」
長年一緒に過ごしてきたため、彼の優しさはよく知っている。
ぶっきらぼうなところも、責任感の強いところも、勿論よく知っている。
(……それら全部を含めて好きになった)
頭の中でぐるぐると悩んでいたことが、意外にも単純な答えで済むことに気がつく。
(……ごめん、ジェリー。ジェリーの言ってた『新しい恋』は見つけられそうにないみたい。)
それほどまでに彼のことが好きなのだと再認識する。
ダメだダメだと自分に言い聞かせるほどもっともっと好きになる。
「……ねぇ、マリ」
少し眉を寄せて、おなまーえは困ったように問いかけた。
「すっごくバカなこと聞いていい?」
「ああ」
「エクソシストでも、恋ってしていいと、思いますか?」
「……なんだ、そんなことか」
覚悟をして損したという顔でマリも笑った。
「当たり前だ。いくらでもすればいいさ。」
「…ありがとう」
夕日に照らされた彼女の顔は、しかしほんのりと色づいていた。
《第9夜 終》
2018/11/19 少女S