第9夜 奇妙な館
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
神田を先頭に、一行は屋敷の中に入った。
中は薄暗く、外の明かりだけが頼りである。
だがそれだけでもわかるほど、そこは狭い密室であった。
「……行き止まり?」
入り口から入ってすぐに行き止まりなどおかしい。
神田は正面の壁に駆け寄った。
おなまーえもヒンヤリとする壁に手を当てて聞き耳をたてる。
「んー、これかな」
ティエドールは近くにあった紐を一本引っ張った。
すると次の瞬間、おなまーえと神田の立っていた足場が抜ける。
「うぉ!?」
「キャ!?」
2人の悲鳴が響く。
とっさに伸ばした手は神田の髪を掴んだ。
「ッテェ!」
「あ、ごめ」
床の下は滑り台のようになっていて、どのくらいの長さかは見当が付かない。
2人は密着しながら落下していく。
(まって、近い近い近い近い……!)
と、すぐに2人は外に放り出された。
「ふぎゅ!!」
おなまーえは別のことに気を取られていたため、受け身を一切取らずに顔面を強打する。
対して神田はシュタッと軽く降り立ち、すぐさま六幻を抜いて警戒モードに入る。
また別のスライダーからマリとティエドールが現れた。
「そんなに用心しなくても、まだ敵は出てこないよ」
マリもおなまーえ同様、床に伸びている。
敵がいないという言葉はどうやら本当のようで、神田も六幻を鞘に収めた。
「クラウスが言ってたじゃないか。ここは楽しむための建物。ヤーンがその持てる遊び心をめいっぱいに詰め込んだ屋敷なんだよ。」
一種のからくり屋敷のようなものなのだろうか。
ティエドールの話もろくに聞かず、遊び心とは無縁な神田は近くの扉に手をかけると――
――ドタンッ
「イッ…!」
ドアノブを回した瞬間、扉が勢いよく手前に開いた。
当然開けようとした神田は額を強打する。
「ぶっ…」
吹き出しそうになったおなまーえは咄嗟に口元をおさえた。
だが頬は緩みきってしまっている。
「ドアも床も一筋縄じゃいかないよ、ここじゃ」
神田は、相当痛いのか片手でスリスリと額を撫でた。
眉間にはさらにシワが寄る。
完全にこのヤーンの屋敷に翻弄されている彼が、どうしようもなくおかしかった。
普段クールな人がこの屋敷に入るとこうも滑稽になるのかと、とうとう彼女は我慢できずに笑い出す。
「っ、あははははっ!!」
明るい笑い声に、一同は彼女に振り向いた。
「おなまーえちゃんも気に入ったかい?」
「ふふっ、はいっ…くふっ……」
こんなに心から笑ったおなまーえを見たのはいつぶりだろうかと神田は考える。
ローマでは彼女を傷つけて無理な笑顔をさせてしまった。
デイシャが死んでからは寂しそうな微笑みくらいしか見ていない。
実に1ヶ月ぶりの彼女の笑顔は、まるで大輪の花のようであった。
こんなくだらない屋敷でも、彼女の気分転換になったのならよかった―――と思ったのも束の間だった。
この屋敷は起きること全てが奇想天外過ぎた。
階段を降りればエレベーターのように突然動き出したり、廊下の石像からは水が噴き出したり、動物の剥製に噛まれたり。
「あはははっ!!」
その度におなまーえはいちいち笑い転げる。
楽しそうに、薄っすらと涙も出てくるくらい爆笑する。
「やー奇妙奇天烈!予想以上におもしろいね、こりゃ」
おなまーえの反応の良さにティエドールも気分を良くし、次々と仕掛けを作動させていく。
それに翻弄される神田とマリ。
彼の不機嫌に拍車がかかった。
一行は書庫のような部屋に入る。
一見なんの害もない部屋に見えるが、おそらくここにも仕掛けがたくさんあるのだろう。
ティエドールは近くの本棚に触れる。
分厚い背表紙の本に手をかけた。
「元帥、不用意に物に触れるのは――」
「何か言った?」
カチッと何かスイッチの入った音がした。
もうこの屋敷では聞きなれた、仕掛けの作動する音だ。
すると天井がガラリと開き、Lv.1のアクマがこちらを覗いていた。
屋敷に翻弄されていたエクソシスト3人はここで改めて気を引き締める。
おなまーえはティエドールを安全な本の陰に移動させ、マリと神田は向かってきたアクマを容赦なく破壊した。
レベルも低かったこともあり、ものの十分で呆気なくアクマは破壊された。
「終わったかい?」
「はい」
「じゃあ先に進もうか」
ティエドールはすぐ近くにあった扉のドアノブに手をかけた。
だが神田がそれを止める。
「俺がやります」
また突然扉が勢いよく開くかもしれない。
万が一にでも元帥に怪我をさせるわけにはいかないと、神田は自ら提案した。
だが神田が押しても引いても、そのドアは開かなかった。
「せんぱ…神田さん、それ多分違います」
「あ?」
「相変わらず頭が硬いね、君は。ドアは押すか引くものと決めてかかってる。ここは…」
神田に代わってティエドールがドアノブをぐっと横に引いた。
これは扉と言うよりは引き戸だったのだ。
「ほ~ら開いた。物事はもっと柔軟に考えないと」
「元帥」
刀を構える神田。
マリもおなまーえも続いて臨戦態勢をとった。
ドアの向こうにはアクマがたんまりと詰め込まれていた。
もはや建物が傷つくことなど考えてはいられない。
神田は容赦なく刀を振り回し、マリは曲を奏でる。
おなまーえは後方から2人の援護を担当した。
激しい音を立ててヤーンの屋敷は少しずつ破壊されていった。