第8夜 呵々大笑
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朝日が柱の影を作り、おなまーえに覆いかぶさる。
彼女は目を見開いてただソレを見つめていた。
「……なんで……」
自分の無力さを久々に痛感する。
「……イヤ……」
唇を血が出るほど噛みしめる。
まだ足りない。こんな痛みじゃ。
「どうして……!!」
早朝の爽やかすぎる風がおなまーえを包み込む。
地面にしゃがみこみ、涙を流す少女の前には、逆さ吊りにされたデイシャが見るも無残な姿で縛り付けられていた。
まるで神への反逆を示すかのように、逆十字の形に。
「おなまーえ!」
先ほど無線でおなまーえは声にならない叫びを2人に送ってしまった。
意図的ではなく、スイッチを入れっぱなしにしていただけなのだが、それが不幸中の幸いだった。
マリの声が遠くない場所から聞こえる。
足音が2つ聞こえることから、神田も無事なのだろう。
「「っ!!」」
そして2人は広場に足を踏み入れ、おなまーえの前にぶら下がる彼の姿を見つける。
どこからどう見てもデイシャは亡くなっていた。
おなまーえは地面に膝をつき、縋るような目で2人を見る。
「……何があった」
神田がぶっきらぼうに尋ねた。
「……アクマの援軍がきて……」
「…………」
「二手に分かれよって話して……」
「戻ったらこうなっていたんだな」
「…っ、うん」
日が昇り始めた頃、自分の方に来た全て駆逐したおなまーえは、デイシャのゴーレムを探知し、それを頼りに戻った。
『デイシャー?そろそろ夜明けだよー』
この辺りにいるはずなのだが、物音1つしないし、返事も返ってこないことを不審に思った。
嫌な予感が胸をざわつかせる。
彼女はゴーレムの案内で、広場になっているようなところに足を踏み入れた。
『みんな待ってるよー……っ!?デイシャっ!?』
そして吊るされたデイシャを見つけた。
「っ、Lv.1ばかりだった……デイシャがそう簡単にやられるわけがない」
マリがおなまーえの肩をそっと抱く。
これ以上辛い光景を見せないように大きな体で覆い隠してくれた。
「……外傷は殆どないな」
「早く下ろしてやろう。このままだと、こいつも辛いだろう。」
「うん」
後悔が押し寄せる。
あの時二手に分かれなければ。
デイシャに守護ノ矢をかけられていれば。
だがどんなに後悔しても、彼の命はこの世に戻らない。
戻してはいけない。
降ろされたデイシャの顔を隠すようにマリは布をかけた。
彼は探索部隊に引き渡され、教団に帰るのだろう。
サァッと風が吹き、おなまーえの髪と赤いリボンをさらった。
仲間の死を目の当たりにしても、立ち止まってはいられない。
今この瞬間でももしかしたら元帥に魔の手が伸びているかもしれない。
「……デイシャ、ゆっくり休んでね」
おなまーえの涙がポツリと石畳に染みていった。
****
スペインから西へ西へと進み、一行はポルトガルに入った。
余程すれ違っていなければ元帥はこのヨーロッパ最西端の街にいるはず。
その予想は的中して、スケッチブックを手に景色を眺める白髪の男性を3人は見つけることができた。
「元帥」
マリが緊張気味に声をかける。
「あれ!久しぶりーん☆」
砕けた挨拶をする元帥はまだ弟子の死を知らない。
だが3人の顔を見て、只ならぬ様子を感じ取ったらしい。
「……何かあった?」
「……はい、実は…」
一度こちらをちらりと見てからマリは事の顛末を包み隠さず伝えた。
気を遣ってくれたのだろう。だがおなまーえはもう泣かないと決めていた。
ノアが現れハートに繋がるイノセンス、間接的に元帥が狙われていること。
現にイェーガー元帥が殺されたこと。
そのために世界各地からエクソシストがかき集められ、4分割されていること。
そしてティエドール部隊に配属された彼の弟子、デイシャが殺されたこと。
マリはシンプルかつ的確に状況を説明した。
デイシャの話が出ると、ティエドールはポロポロと大粒の涙をこぼした。
「ひっく……そうか、デイシャが死んでしまったか……悲しいことだ……」
元帥クラスになれど、人の死に慣れることはない。
彼にとって弟子は息子と大差ないと言っていた。
子供を失くして悲しまない親がどこにいるだろうか。
「よく
「……ふふ、それいい子って言うんですか、師匠」
ハンカチを差し出しながらおなまーえは寂しそうに笑った。
ティエドールは謝罪の言葉を述べ、それでチーンと鼻をかむ。
……そのハンカチはもう返さなくていい。
「遺体は昨日、本部へ輸送されたそうです」
「
神田は奪われたという言い方をしたが、おそらくもう既に破壊され、この世に存在しないだろう。
ノアが出現した今、元帥が1人で放浪しているのは危険である。
「ティエドール元帥、一度我々とともに帰還を」
「……デイシャの故郷は確かボルドムだったかな?」
ところが彼は神田の言葉をスルーしてデイシャについて尋ねた。
ボルドムとはトルコにある都市の名前だ。
「え、あ、はい」
「美しいエーゲ海の街だ」
それだけ言うとティエドールはスケッチブックを開き、黒鉛を走らせる。
シャッシャッという軽快な音が響く。
いつものことだが予想外の反応に一同は困惑する。
「元帥、敵はアンタとアンタの所持してるイノセンスを狙ってるんです」
神田がイライラした口調で声をかける。
だが相変わらずティエドールはマイペースに線を紡ぎ、やがて一枚の絵を描きあげた。
「…エーゲ海ですか」
「ああ。私が見た記憶の映像だから少し違うかもしれないが。」
完成したばかりの絵をびりっとスケッチブックから切り離すと、彼はおもむろにライターを取り出す。
「デイシャ、絵で申し訳ないが君の故郷を送ってやろう」
カチッと火をつけると紙はみるみるうちに燃え上がった。
「どうか心安らかに」
おなまーえも胸の前に手を組んで、彼の冥福を祈った。
パチパチと音を立てて紙は燃え尽きた。
ティエドールはこちらを振り返らず、青い空を見上げながら口を開く。
「……私は帰らん。今は戦争中なんだ。元帥の任務を全うする。」
空には綿菓子のような大きい雲が1つ浮かんでいる。
こちらを振り向いた彼は優しく微笑んだ。
「それに、新しいエクソシストを探さないと。神が私たちを見捨ててなければまた新しい使徒を送り込んでくださるだろう。」
「……そういうと思ったぜ」
「そうだな、師匠らしい」
「だから私たち、師匠のこと好きなんですよ」
「俺は好きじゃねぇ」
3人は顔を見合わせて苦笑した。
「「「お伴します、ティエドール元帥」」」
《第8夜 終》
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少女Sです。
今回はデイシャとの絡みをさせたく、このお話を書きました。
彼、地味に好きでした。
今後についてなのですが、ティエドール部隊ってあまり詳細書かれてないんです。
ティエドール元帥がいたところは、(背景の建物や景色から)ポルトガルでほぼ間違いないんですけど、ヨーロッパ最西端からアジア大陸渡ってきたとは考えにくいんですよね。
そこでもうほぼ私の独断と推測なのですが、ポルトガルから大西洋を渡って、アメリカ大陸、太平洋、江戸という流れにしようかと思っております。(この時代にどういう地名だったとかそこまで世界史考えるとキリ無いので現代の国境で。)
実際に原作者様の頭の中でどういうルートだったのかはわかりませんが、このサイトでは西ルートということで進めさせていただきます!
よろしくお願い致します!
2018/11/10 少女S