第8夜 呵々大笑
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「災厄招来、界蟲『一幻』!!」
――ズパンッ
「ギャアアアアアア!!」
おなまーえの祈りが神に届いたのか、見知らぬ男が刀で悪魔に斬りかかった。
眼前に迫っていた悪魔は傷口を抑え、苦痛の声を上げる。
「エクゾ、ジズドォォオオ!?!?」
「ふんっ」
さも不愉快だと言わんばかりの顔で、男は悪魔にさらに追い打ちを立てる。
「ギャアァァァ!!」
輝く刀芯、揺れる黒髪、しなやかな動き。
悪魔はなす術もなく、ただ切り刻まれていく。
「これで終いだ」
「このォォぉおお!!」
最後の悪あがきで悪魔はおなまーえに向かって走ってきた。
道連れにしようという魂胆なのだろう。
「ッ…!」
鉤爪のような鋭い指がおなまーえの顔に届くまであと数センチ。
恐怖で腰が抜けた彼女は動けない。
――ピシィ
指先がおなまーえの頬に当たった瞬間、悪魔の体が固まる。
徐々に灰色になっていくその体は、パリンッという音とともに、砕け散っていく。
「はっ、はっ、はっ……」
心音が収まらない。
おなまーえの頬に一筋の赤い血が流れる。
助けてくれたのか。
男は刀を一振りして鞘に収めると、こちらを見下した。
その無表情は水面に浮く花のように静かで、まるで姉を見ているようでおなまーえは少し落ち着いた。
「あーもー。ユー君、女の子の顔に傷がついちゃったじゃない。」
「っ!?」
「………」
どこかからか聞こえてきた声に、おなまーえは怯えきった様子で周囲を見渡す。
あれだけ燃え盛っていた炎は少しずつ沈静化していた。
その代わりに、白い茎のようなものが其処彼処に絡まっている。
「こ、今度は何…!?」
次から次へと起こる、人知を超えた現象に彼女は混乱する。
「驚かせてすまないね。無事かい?」
最早木とおなじ太さの白い茎からひょっこりと顔を覗かせたのは、白髪でちょび髭の生えた眼鏡のおじさんだった。
無表情の黒髪の男とは対照的に見える。
「ぁ…」
「怪我はないようだね。ごめんね、もうちょっと早ければみんな助けられたんだけどねぇ。」
そう言い、あたりを見渡す男の目は慈愛と悲しみに満ちていた。
ふと、男の目がある一点でとまる。
おなまーえの家で代々守ってきたハープだった。
彼はそれに歩み寄る。
「奴らの狙いはこれだったんだろうね」
ポロンと弦に触ると優しい音がした。
あの大火事や、悪魔のような奴らの襲撃にも耐え、ハープは美しい音色を奏でる。
「これはお嬢さんのものかい?」
「……父と、母のものでした」
「そうか」
男は切なそうに目を細めた。
ハープが一層強く光る。
何故だか、ハープに名を呼ばれたような気がした。
おなまーえは取り憑かれたようにそれを凝視する。
「この子は君を主人としたいそうだ」
「……物の声がわかるんですか?」
「いいや。これはね、神が創造した特別な武器、イノセンスというものなんだよ。」
「イノセンス…?」
ハンカチを取り出し、白髪の男はおなまーえの頬を拭った。
「君の街を襲ったのはアクマと呼ばれる兵器だ。世界はアクマで満ち溢れている。」
「そ、んな…」
あんなのが世界中にゴロゴロいるというのか。
どうしようもないほどの絶望感が彼女を襲う。
「イノセンスとは、そういうモノと闘うためにあるものだ」
白髪の男がしゃがんでこちらに視線を合わせた。
その後ろに黒髪の男が控える。
「君は選ばれし者。僕らと一緒に、来てくれるかい?」
****
「……夢か」
おなまーえは自身のイノセンスをそっと撫でた。
ここはスペインに向かう電車の中。
乗客は疎らで、彼女の独り言に気づく者もいない。
ふと窓の外を見上げる。
その晩は三日月が嫌に笑っているように見えた。