第7夜 旅立ち
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第7夜 旅立ち
『そうか、目が覚めてよかった』
病院の電話を借りて神田の目覚めを報告した。
受話器越しのコムイの声はどことなく沈んでいた。
それが読み取れないほどおなまーえも鈍くはない。
「……コムイさん、何かありましたか?」
『……うん。だけどおなまーえちゃんには本部に戻ってから知らせるよ。任務に直接いってもらおうかとも思ったんだけど、ミランダの様子を見てもらいたいからね。』
おなまーえはミランダの師を請け負っている。
彼女の成長は凄まじいもので、エクソシストになって早1ヶ月で、もう
「……わかりました」
自分は今サポート系能力が使えない状態である。
このままミランダとどう向き合えばいいのかわからなかったが、途中で指導を投げ出すようなことはしたくない。
おなまーえのその複雑な心境をコムイは感じ取った。
『……何かあったのかい?』
「いえ…」
おなまーえは言い淀む。
自身の唯一自慢できる能力が使えないなどと、仕事の多いコムイに相談はできなかった。
しばらくは攻撃系の技でカバーして、この問題は自分自身で解決しなければならない。
「なにも、ないです」
『……そっか』
コムイは無理やり声を明るくした。
『神田くんには退院したら連絡するように言っておいて。おなまーえちゃんはもう帰還していいよ。』
「わかりました」
『あ、そうだ!リナリーは――』
「もう次の任務行きました」
ガチャリと受話器を置いた。
コムイのシスコンには付き合ってられない。
「……でもリナリーは愛されてるんだね」
彼女には無条件で自身を愛してくれる兄がいる。
それがおなまーえにとっては羨ましかった。
(……だめだ、たかだかフラれたくらいで何陰気になってるの)
優先しなければならない悩みは沢山ある。
彼女はふるふると頭を振った。
「……早く帰ろ」
なんとなく神田から離れたくて、おなまーえはさっさと身支度を済ませた。
帰り際に彼の病室を覗き込む。
彼は先ほどの体勢のまま天井を見上げていた。
「……コムイさんが、退院したら連絡するように言ってました」
「あぁ」
「では私はお先に」
「………」
最後まで彼はおなまーえの顔を見てくれなかった。
グッと泣きそうなのを堪え、彼女は部屋を後にした。
****
黒の教団本部は地下水路が入り口になっている。
迎えに来てくれた探索班の小舟に乗り、おなまーえはボーッと遠くを眺める。
水平線の向こうにランタンの灯りが見えた。
目を凝らすと久しぶりに見る顔ぶれが乗っていた。
「おーい!おなまーえー!」
「ラビ…ブックマンも…」
2人はこれから任務なのだろう。
探索班に小舟のスピードを緩めてもらうように頼む。
「おかえりなのさー!」
「ただいま」
「あり?どうしたおなまーえ、元気ないさ?」
「少し、疲れただけ」
ブックマンの観察眼をもってしてみれば、それが嘘だということはすぐに見抜けてしまったのだろう。
ラビは頭の後ろで腕を組んでニマァと笑った。
「ははーん、さてはユウと何かあったさ?」
――ビクッ
図星。
この男は変なところで感がいい。
「ラビ」
隣のブックマンが嗜めるが、ラビは口を閉じない。
「大丈夫さー、あの朴念仁のいうことなんて気にする必要ないさ」
「………」
「なんたってユウはおなまーえにぞっこんだからなぁ」
「ラビ」
「教団では異色のカップルーなんて言われて――」
「……こぉんのバカチンがっ!!」
だんだん暗くなっていくおなまーえの表情に気づいたブックマンが、とうとうラビの頭をひっぱたいた。
ラビはおなまーえを元気付けるために話していたのだが、今の彼女に神田の話、ましてや恋愛の話はNGであった。
「イッて!!何するんさジジイ!!」
「未熟者めが」
抗議の声を上げるラビとそれを足蹴にするブックマン。
いつもの2人のやりとりを見て、おなまーえはどこか安心した。
「すまんな、おなまーえ嬢。こいつにはキツく灸を据えておく故。」
「いえ、大丈夫です。ちょっと元気出ました。」
小舟はすでにすれ違い、互いに振り返って話している状態。
おなまーえはヘリにつかまると大きな声で激励の言葉を送った。
「気をつけてね!いってらっしゃい!」
「おう、行ってくるさ!」
2人を乗せた小舟が見えなくなるまでおなまーえは手を振り続けた。