第6夜 千年の騎士
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「リナリーさーん!」
「ペドロさん!無事だったんですね!」
「大丈夫でしたか」
駆け寄ってきたのは探索部隊のペドロ。
岩の間を走り息を整える彼にアレンは問いかけた。
「ええ、私はなんとか」
「おなまーえはいないんですか?」
「おなまーえさんならあそこに」
ペドロが闘技場の観客席の上の方を指差した。2人はつられて顔を上に向ける。
「いた!あそこだ!」
彼女はまるでVIP席のように窪んだところに腰をかけていた。
まるで試合観戦する貴族のような振る舞いである。
「なんであんなところに?」
「おなまーえさんは、今イノセンスに魅了されてしまっているのです」
「イノセンスに魅了??」
聞きなれない現象にアレンは首を傾げた。
「ええ。詳しいことは後ほどお話ししますが、ビットリオのイノセンスがおなまーえさんを操っているのです。」
「なんでそんなことに!?」
「恐らくビットリオがそう望んだのでしょう……」
「ビットリオからイノセンスが離れればおなまーえも元に戻るのかしら」
「神田さんもそう考えて、今戦っておられるのです」
ペドロは当時の様子を細かく説明した。
この闘技場に来てすぐ、おなまーえは顔色が悪くなったという。
時折頭を抑えてしゃがみこんでいたが、心配かけまいと「寝不足」と言い張っていたらしい。
おなまーえを気遣い、早めに切り上げようとしたところでビットリオが現れた。
彼の姿を見た瞬間、おなまーえは表情を失い、スクッと立ち上がると、観客席を駆け上がりあそこに鎮座した。
ペドロがどんなに話しかけても彼女は動かなかった。
イノセンスにおなまーえが惑わされていると神田も推測したらしく、彼とビットリオは3日間戦い続けた。
だがアクマがやってきてこの場は混乱し、ビットリオはおなまーえと共にいつの間にか消えていってしまった。
追いかけようとした神田は疲労のため倒れ、今日までの丸2日間寝ていたという。
神田とビットリオは互いに引けを取らずに、刃物と己の身体のみで戦っている。
「2人ともイノセンスの力は使わないのね」
「剣の使い手としてのプライドでしょうか。2日目の戦いから使っておりません。」
アレンは対アクマ武器がないと戦えない。
故に神田は手を出すなと命じたのだ。
思い斬撃が神田を襲う。
見た目に反して、意外にもビットリオは俊敏に動いた。
それこそ、神田ですら受けるのが精一杯なほど。
一度離れ、距離をとる。
睨み合いながらゆっくりと距離を近づけていき、間合いに入った瞬間、2人の剣が交錯した。
腕は震え、額から汗が滴り落ちる。
次の瞬間、神田が一瞬刀をもつ腕を緩め、ビットリオが怯んだ隙に彼の首元に六幻を落とした。
「ぐあぁぁ!!」
首の付け根から胸までざっくりと切り込みが入る。
恐らく動脈を切ったのだろう。
血飛沫が激しく舞い、ビットリオの生存は絶望的であった。
「やった!」
「いえ…」
リナリーの喜びの声に、ペドロは首を振った。
ビットリオの体が一瞬鈍く光ったかと思うと、みるみる傷が治っていく。
鎧に付着した血飛沫までもが跡形もなく消えてしまう。
人知の域を超えた力、即ちイノセンスの力だ。
――ザクゥ
次の瞬間、ビットリオの大剣が神田の脇腹に食い込んだ。
彼が避ける余地もないほど大振り、かつ俊敏な動きだった。
「カハッ…!」
幸い普段から鍛えていたため、胴体が真っ二つになることは避けられたが、それでも致命傷には代わりなかった。
神田の右半身には血が飛び散り、足元に血が流れていく。
「そんなっ!」
リナリーは悲鳴に近い叫び声をあげ、思わずおなまーえの方を見上げる。
だが彼女は変わらず冷めた目でそれを見ていた。
何事にも動じず、恐ろしいほどまでに凛とした佇まい。
あれはおなまーえの姿をした別の何かだと思わざるを得なかった。
神田が膝をつく。
このままではビットリオから追い討ちを食らってしまう。
「神田!」
それを防ぐためにアレンが飛び出した。
イノセンスを発動させた彼は、何の考えもなしにビットリオに襲いかかる。
ビットリオはアレンの気配に気づき、大剣を大きく振るった。
ただそれだけなのに凄まじい風圧がアレンを巻き込み、彼は床に激しく打ち付けられてしまった。
「………」
ビットリオはターゲットを神田からアレンへと切り替えた。
気力だけで体勢を維持していた神田は力なく倒れこむ。
「無事!?」
リナリーが彼に駆け寄った。
身体を起こし、心音を確かめる。
トクントクンと規則正しい音が聞こえた。
「生きてる……よかった…」
「ったりめぇだ」
掠れた声ではあるが、いつもの調子で返す神田にホッと胸をなでおろした。
「あいつは…?」
「おなまーえ?まだあそこに座ってるみたい」
「そぉか」
神田はそれだけ言うと、悔しそうに顔を歪め意識を手放した。
今無防備なおなまーえだが、幸か不幸かビットリオが彼女を守っているため、アクマには襲われていない。
彼はおなまーえを捉えてどうするつもりなのか、リナリーには分からなかった。