霧雨が降る森
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「それでは佐久間は家まで連れて帰るので。」
「………」
「お願いします。ほんと、佐久間ちゃんも懲りないねぇ。」
「……ふん」
佐久間はむすっとした顔でそっぽを向いた。それに対して望月巡査が嗜める。
「はぁ、まったく何度目だ?ここの管理人の須賀くんもおなまーえちゃんだって迷惑してるし、親御さんも心配してるぞ。」
「1人で帰る。別に望月巡査にまで迷惑かける気はない。」
「そんなこと言っとらんだろう。少しは反省しなさい!」
「はは、でも資料館に来てくれるのは素直に嬉しいので…」
「………」
須賀はチラリと横目でおなまーえを見た。
「いいじゃない、本来なら憩いの場であるべきなんだから。」
「あの……」
これまでずっと静かに話を見ていた女性が声をかけた。
「あぁ、そうだ。2人とも、この子はここに用があって訪ねてきたんだそうだ。」
「こんなところに?」
「遠方から来たみたいでな、駅からここまで俺が送って来たんだが……話は?」
「話なんてしてるわけないでしょ!?お姉さんは怖くてそれどころじゃないよ。ほんとここの管理の仕方わけわかんないよ。」
「あはは……」
おなまーえは苦笑して、須賀は静かに目を閉じる。
望月巡査が「佐久間!」と厳しく叱る。
「あ、すみません。まだ話してないのは確かなんですけど、知りたいことは大体わかったので……」
「まさか資料庫はともかく、寝室までのぞいたりはしてないわよね?」
「えっ……と……」
言い淀んだあたりから、彼女は割と好き勝手にこの屋敷を散策したのだろう。
「はぁ……」
呆れたように溜息をつくおなまーえの肩を須賀がそっと支えた。
「そのことについては謝ります。すみません。えっとその、実は私ここの家にもともと住んでいた神崎敬一郎の孫の、神崎シオリといいます。色々と事情があって、それを確かめるためにここまで来ました。」
「!」
神崎シオリという名前を聞いた、おなまーえの隣にいる須賀が大きく反応した。
「コウ……?」
おなまーえの言葉を無視して彼はメモ帳にボールペンを走らせる。
望月巡査と佐久間が目を丸くする。
「驚いた。それで君はこんな田舎まで来たのか。」
「この家に血の繋がった人なんていたの?」
「うーん、私が来た頃には須賀と敬一郎さんしか……」
おなまーえの両親が他界して、この屋敷でお世話になる頃には須賀以外の人はここに住んでいなかった。敬一郎からもそんな話は聞いたことがなかったためまさに寝耳に水である。
須賀は険しい顔でメモをシオリに見せた。
なんとなく内容の予想がついているおなまーえは困ったような顔で2人を見つめる。
「あ、いえ、今日はどこか近くに泊まって、もしよければ明日から資料館を見せて欲しいと思っているんです。」
「泊まるって……」
おなまーえと佐久間と望月が顔を見合わせる。
須賀は険しい顔つきのまま再びメモをシオリに見せる。
「厚かましいとはおもいます。もちろんこの屋敷を欲しいだなんて考えてません。た、ただ……」
彼女の震える声を遮って須賀は再度メモを出す。
「………」
とうとうシオリは黙り込んでしまった。
なぜ彼はここまで執拗にシオリを帰らせたがるのか、そしてなぜ彼女も頑なに帰ろうとはしないのだろうか。