霧雨が降る森
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【バットエンドコース】
先程は使わなかったバイクにまたがり一気に発進する。須賀がそれを追いかけようと外に出てきたが、おなまーえは振り返らずに麓への道を駆け下りた。
(バカだな、私。逃げてもどこにも行く当てなんてないのに。)
幼い頃からこの屋敷で育った彼女に、逃げれる場所などなかった。
おなまーえのバイクは通い慣れた街へと続く道を下っていく。
雨は既にやんでいるが、パラパラと斜面から小石や砂が降ってくる。
ブチ
ブチ
何かが引きちぎれるような不穏な音がする。
ズシィーン
次の瞬間、上空で何かが崩れるような大きな音がした。
顔を上げたおなまーえは驚きで目を見開く。
「土砂崩れ!?」
おなまーえは逃げる間も無く、滑り落ちてくる土に巻き込まれた。
(あぁ、ごめんね、コウ。こんなお別れの仕方で……)
意識がなくなる瞬間、愛しい声に名前を呼ばれた気がした。それだけで心が温かくなり、夢主はそのまま身を預けた。
****
Another side
おなまーえが資料館を出ていった。
「須賀くん!追いかけなきゃ!」
「う、うん」
なぜ彼女が出ていったのかわからないが、ただならぬ気配を感じた。須賀は急いで玄関を出る。
激しいエンジン音を立てて、バイクに跨ったおなまーえが敷地から出ていった。
慌てて彼もそれを追い掛ける。
走ることには自信があったが、流石にバイクには追いつけない。あっという間に距離ができるがかろうじておなまーえの後ろ姿はまだ見えていた。
パラパラと小石が落ちてくる。
雨上がり、小石が降ってくる現象、それらは彼に嫌な記憶を思い出させた。
須賀の父親はこんな天気の日に、土砂崩れに巻き込まれて亡くなった。
「………っ!!」
次の瞬間、その記憶が目の前で再現された。
斜面を駆け下りて行く、土や木。その真下には水色のバイクを走らせる大切な人。
ドシァーン
彼女も自分に降り注ぐそれに気付いたようだが、逃げる間も無く巻き込まれていった。
「おなまーえ………!!!」
走る速度を速めて土の山に近づく。必死に土を掻き分け、大切な人の名を呼び続けた。
****
あれから数日経った。
シオリもすでに帰宅し、静かになった資料館に一人分の足音が響く。
土砂崩れが起こった直後、必死に手で土を掘る須賀にシオリが制止の声をかけ、消防やら警察やらに連絡をして彼女の捜索が行われた。
結論から言うと、彼女は発見された。
霊安室に横たわるおなまーえを見て、現実を受け止めきれず涙すら出なかった。ただただ、信じたくなかった。
静かにうなだれる須賀に、シオリもかける声が見当たらなかった。 もうなにも喋らない彼女の顔は、苦しみから解放されてとても穏やかだった。
遺品、とは呼びたくはないが彼女の荷物を整理しなくてはならないと思い、須賀は自室の端にある、おなまーえ専用の棚を開けた。わずかな衣類と書類を引っ張り出し、一つ一つ確認して行く。
ふと、リボンがかけられているノートに目が止まった。何気なくぱらっと開いてみると、幼い頃の写真の他に文書が書き込まれていて、日記のようであった。
[今日から日記を書いてみる。敬一郎さんがこっそりくれた。]
[コウが初めて夜光石を加工した。とても綺麗だけど、すぐに壊れてしまった。]
[敬一郎さんが亡くなった。これからコウと2人で生きて行く。できる限り、コウを支えたい。]
[アルバイトを始める。昼間コウを1人残すのは辛いけれど、生活費の足しになればと思う。]
[コウがナイフをプレゼントしてくれた。嬉しい!]
[コウが泣いていた。絵本の描き方の本、今度買ってこよう。]
[コウが辛そう。どうすれば私は彼を救える?どうすれば……]
[誕生日!奮発してケーキ買っちゃった。コウは覚えてなかったけど、仕方ないかな。]
[私は幸せ者だ。好きな人と一緒に暮らせるなんて。この生活がずっと続きますように。]
[シオリさんがきた。2人はもともと知り合いらしい?]
[コウの様子がおかしい。]
[コウが幸せならば、私はそれを甘んじて受け入れよう。]
最後の方の書き込みは、ここ数日のものだった。
どこをめくっても、彼女の綺麗な字は須賀のことを綴っていた。こんなにも自分は大切にされていたのかと、須賀は再び涙する。
「………っ!!おなまーえ………!!」
1人の男の悲痛な声が、空っぽの屋敷に響いた。
bat end fin...