虎杖と心を封印した女の子のお話
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どっと息を吐く。
戦いに勝利したことより、体から血が流れていることより、虎杖に借りたハイネックに穴を開けてしまったとか、悟に後で臨時給料を請求しようとか、そういうことに頭が回る。大金ぶんどって、今度こそ気ままなひとり温泉旅をしようと一人決心をする。
「……すげえ」
虎杖はただただ感嘆の声を漏らしていた。
「私は弱いから三級呪霊しか祓えない。でもそれ以上の呪霊も、封印したり拘束したりすることはできるの。相手が弱っていること前提だけどね。だから、虎杖がいてくれなかったら私危なかった」
謙遜とか誇張表現なしに、虎杖がいてくれて助かった。伏黒でも釘崎さんでもダメだった。ただパンチが強いこの男でないと、私の純粋な呪力を纏うことはできなかった。
「それに、虎杖の声で目が覚めた」
「こいつの能力か?何されてたんだ?」
虎杖はボールサイズになった呪霊を持ち上げる。
この場で祓うことは私も虎杖もできないから持って帰るしかない。適当なビニール袋に包み、ポケット奥深くにしまう。
「…夢を見させられてたの」
どうしようもない悪夢のような現実を。
「でも私は心を封印してたから、どうやら呪霊も奥までは入ってこれなかったみたい。普通の呪術師なら廃人になってたでしょうね」
「みょーじ…」
虎杖が背負い投げした地面はクレーターのように抉れている。これをリカバリするのは厳しいからさっさととんずらこいた方がいいだろう。
「被害も最小限で済んだし」
「……みょーじ」
この場からは早く離れた方がいい。もうここは安全だから大丈夫。
虎杖の手を取って歩き出す。
「本当、相性が良かったよ。虎杖とも呪霊とも」
「みょーじ」
早くここから離れたい。早く、早く。
「虎杖も今後ああいう敵には気をつけ…」
ぽろりと何かが落ちた。
熱い。顔が熱い。視界も悪いし、呪力を使いすぎただろうか。直書きはエネルギー消耗が激しいし、常時とは比べられないほどの集中力がいる。久しぶりすぎて脳が摩耗したのだ。きっとそうだ。
「……あ、れ」
だからこれは違う。きっと雨なんだ。ポロポロと頬を伝うこれはなんだ。
「……みょーじ、無理すんなって」
「わ、私、無理なんて」
なんで今更になって涙なんて出るんだ。母が死んだ時も泣かなかった。ひとりで封印師を目指すと決めた時も泣かなかった。だっていうのに。
「……精神攻撃、受けてたのかな」
「……」
「あれ…あれ…」
泣かずに生きてきた私がどうして今になってべそべそしてるんだ。
頭がぼうっとして思考がまとまらない。私はただ困惑するしかなかった。
**********
みょーじの様子がおかしくなったのは夢を見させられていたと告げた後からだった。
突然泣き出すからギョッとしたけど、まるでそれに気がついていないかのようにテキパキと片付けをする彼女が異常で、驚く気持ちなんてどっかに行ってしまった。
普段冷静沈着な彼女はどうして涙が止まらないか訳がわからない様子。
見させられた夢が何であるかは知らない。でも推測はできる。
「…本当は心の封印、突破されてんじゃないのか?」
「……そんなわけないよ」
みょーじは服の裾で目尻を拭いながら否定する。
「私はあの人たちへの憎しみを封印したんだよ。今だってなんとも思ってない。だから突破なんてされてない…」
「……」
「っ、おかしいな…なんで今になって…」
「……一旦オレんち行こう」
昨日と同様に彼女にパーカーを被せる。
小さく震えるみょーじが可哀想に思えて、だがそれ以上に守りたいと本能的に感じた。
実家に戻ると、みょーじをそっと縁側に座らせる。埃っぽい室内よりはいくらかマシだろう。
泣いてる女子を慰めるなんてあんまりやったことないから、正直これでいいのかわからない。気の利いた言葉のひとつでもかけられれば良かったのに、いま何を言っても薄っぺらいような気がした。
「……」
被せたフードを外させると、みょーじは目尻を下げてこちらを見上げてきた。潤んだその瞳を可愛いと思ってしまうのは男としての本能だ。
「……落ち着いた?」
結局迷った末にかけた言葉はありきたりなセリフ。
みょーじはコクリと首を縦に振った。
「……何があったか聞かないの」
「聞かねぇよ。だって言いたくないんだろ」
「……言いたくはないよ。でもアンタは昔の私に似てるから、聞いてほしい」
五条先生が言ってた。封印師になる前のみょーじは、手の届く範囲で人を助けようとしていたって。
「虎杖が高専にきた理由って何」
「……人を助けるため。オレにはその力があるから、手の届く範囲でいいから人を助けろっていう…じいちゃんの遺言」
手の届く範囲という単語に、みょーじは少し悲しそうな顔をした。
「私もね、前までおんなじこと考えてたんだよ。…いや、本当は受け売りなんだけどさ、まだ自分でものを考えることもできないくらい小さい時から、言われてきたんだ」
先程呪霊を封印したペンを取り出す。なんの変哲もない、文具屋にありそうな筆ペンだ。
「これはね、私たちみたいな呪力を使う人間が欠かせないアイテムなの。戦場で墨をするわけにはいかないからね」
「……」
「でも私に取ってこれは…形見なんだ」