虎杖と心を封印した女の子のお話
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ごとりと呪物を机の上に並べる。全部で6つ。もちろん封印済みだけど、溢れ出る呪力は魔除けの効果をもたらす。
宿儺の指の代わりを果たすこれらを各地に設置しなければならない。しかも今回、上層部はみょーじおなまーえ本人に設置を指示した。いつもは手の空いている呪術師がこなす任務だが、繁忙期ということで今はどの呪術師も手が空いていない。
「ってなわけでー、中学三年生のおなまーえに同行してくれる人募集中ー!」
「……ひとりでもいける」
てなわけもどういうわけもあったもんじゃない。
私の目の前にいるのは今年入学したてのほやほや一年生3人。馴れ馴れしく肩を掴むのは大っ嫌いな五条悟だ。
呪霊を祓ったり人助けをしたりするわけではないから私一人でも十分だというのに、無理矢理にでも高専一年生を連れて行かせようとしている。正直邪魔だ。
「僕は別任務あるからさ、引率してあげられないんだけど、ちょっとした校外学習してきて欲しいんだよねー」
「……」
「……めっちゃ迷惑そうだけど、その子」
釘崎野薔薇が嫌そうに顔を顰める私を見て助け舟を出す。伏黒恵も心なしか同情の目を向けている。
「この子は戦うことができないけど、唯一無二の能力を持ってる。万が一襲われたりしたら大変だ。だから君たちがついていってあげてほしい」
「いい。私ひとりの方が自由に動けるから」
「言ってしまえばフレッシャーズキャンプ!!」
「聞いてないな、この天才は」
バカと天才は紙一重とよく言ったものだ。決して褒めてはいない。
「高専一年生たるみんなと時期高専生のおなまーえで交流を深める。来年に向けて連携力を高め、尚且つ各地のご当地グルメを食べ歩きし放題!二泊三日の小旅行で温泉付き宿もプレゼントしよう!」
「いや、だから私はひとりで…」
「「行く!!」」
途端乗り気になってしまったのは釘崎と虎杖。
ひとりで行けば一泊程度で済むはずだが、夢が膨らみ無駄にプランが豪華になっていく。夜行バスとカプセルホテルで済まそうと思っていたのに。
「もちろん新幹線よね!何もないど田舎はちゃっちゃと済ませて温泉あるとこでゆっくりするわよ!」
「オレ海鮮丼食いたい!」
「今度こそ回らない寿司にいくわよ!」
「……オレついてく意味あります?」
「それをいうならもう二人に任せて良いかなって思ってるんだけど、私」
ノリノリで修学旅行のプランを立てる二人をよそに、伏黒恵とみょーじおなまーえは冷めている。
当たり前だ。呪霊の湧きやすいところを巡るのだから、当然戦闘も考慮に入れないとならない。手放しで観光なんてしてられないのだ。
「とはいえ、観光するなら六箇所も回ってられないわよね」
「逆だからね?釘崎さん。六箇所回る方がメインだからね?」
「まぁでも、釘崎の言うことも一理ある。4人で六箇所回るのは効率が悪い。せめて二手に分けたいが。みょーじ、設置場所はどの辺りだ」
「3人が行くのは決定なの?」
今更反論する気も失せた。悟もニコニコと見てて気持ち悪い。暇ならさっさと任務に行けばいいのに。
日本地図を広げて目的地をなぞっていく。
「……西から、金沢・浜松・横浜・宇都宮・福島・仙台。バラけてるから、素直に東ルートと西ルートに分けた方がいいと思う」
「賛成だ。西チームが金沢・浜松・横浜。東チームが宇都宮・福島・仙台。順番は各チームに任せるとして、メンツだな」
「私西ルート!どうみたってその中で一番観光しがいのあるのは金沢だから!」
「失礼だな、オレの地元だって観光しがいはあるからな」
「じゃあ言ってみなさいよ、仙台の観光地」
「…せ、仙台城跡」
「跡だけでしょ!城があるわけじゃないっての知ってるわよ」
「ぐ…」
非常にどうでもいい。それと浜松と横浜と宇都宮と福島の人に謝ってほしい。各々観光地は沢山ある。多分。知らないけど。
「……釘崎が西ルートなのは確定として。オレとみょーじは別の方が良いな」
「なんで?」
「オレもみょーじも、呪霊に関してはお前らよりは少し詳しい。詳しいやつ同士が一緒にいてもどうにもなんないだろ」
「ちょっと癪なんだけど。じゃあ女子と男子で分けるのは?」
「それも悪くはないが、戦力的にバランスが悪い。虎杖はその気になれば宿儺の力を使える。協力してくれるかどうかは別としてもな」
「真面目か」
伏黒が全部仕切ってくれるからこちらとしては気が楽だ。
「とういうことでだ、オレと釘崎が西ルート、虎杖とみょーじが東ルートで異論ないな」
「おう」
「部屋は別々にしなさいよね」
「っていうかやっぱ私ひとりじゃだめなの?」
「まとまったー?」
暇を持て余していた五条悟がニンマリと笑う。マジで仕事しろよ。
「まぁおなまーえはその気になれば、指を2本食べたくらいの宿儺なら拘束できると思うし、妥当な配分だろうね」
「いつ行くの」
「明日から」
「っしゃー!観光ガイド買いに行くぞ!」
「だから観光はおまけだかんな」
ズンズンと虎杖悠仁と伏黒恵の服の襟をつかみ、釘崎野薔薇は廊下を大股で歩いていく。遠ざかる三人の姿を見て、明日からのプランを練らなければと頭を抱えた。
「ってゆーか、余計なことしないでくれる」
残されたみょーじおなまーえは五条悟に蹴りを入れる。もちろん無限を纏っている彼には当たらない。わかってたけど、それでも蹴りの一つくらい入れてやりたかった。
「今更なんなわけ。馴れ合いはしない、人間は嫌い。私言ったよね?」
「嫌いでも、人と関わることを恐れちゃいけないよ。お母さんもそれは望んでいないはずだ」
「知ったような口を聞かないで」
「……」
悟がとんっと私の胸の真ん中を突く。
痛い。指先から伝わってくる無限が痛い。
「心、まだ封じてるの」
「……私はあの日のことを忘れない」
「そういう頑固なところもお母さん似だ」
私はあの日、心と記憶を封じた。この感情を忘れまいと自分の中で閉じ込めた。
非術師は私にとって救うべき対象ではない。でもこの世界は母の形見だから、不本意でも守らなくてはならないのだ。たとえ均衡が崩れてきているのだとしても。
――ぐいっ
悟の指先が沈む。
こじ開けようとしているのだ。私が鍵をかけた部分を。
五条悟が本気を出したらそれも可能かもしれないが、もしやったとしたら私の心は100%壊れる。自身に課した縛りは、自分自身でないと解く意味がないから。
「明日からの小旅行、悠仁をよろしくね」
「足手まといになったら即刻帰らせる」
「……」
五条悟は目を細める。
そこで見捨てない辺り、みょーじおなまーえはどこまで堕ちたとしてもあの頃と同じ志を持っているのだ。かつて、手の届く範囲で一人でも多くの人を救おうとしていた少女は、今はその手の範囲を小さくしているだけなのだ。