虎杖と心を封印した女の子のお話
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細長い和紙に細かく字を刻んでいく。炭と筆を使って、書くのではなく刻む。
コレが相当神経をすり減らさせられるから、1文字30分、そのあと1時間ほど小休憩を挟まないとこちらの呪力が底をついてしまう。それでも全快とまではいかないから、体調次第で日に2〜6文字ほどしか書けない。全てを書き終えると清めを行い、呪物の封印に入る。ぺたりぺたりと1センチずつ丁寧に針とのりで止めていく。
そうして数年かけて仕上がった封印は、全国各地の呪霊が沸きそうな場所に設置されるのだ。
今回、虎杖悠仁が宿儺の指を食べた事件をうけて、上は高専が保有している全ての宿儺の指を回収するように命じた。それはつまり何を意味するかというと、代わりの呪物を設置しなければならないということ。
代わりを用意するのはもちろんみょーじおなまーえだった。そんなわけで彼女は寝る間を惜しんで、6本の指の代わりを作るため、絶賛残業しまくりなのである。
「あの紙書くのそんな大変だったんだ」
虎杖は、アイマスクをしながらソファに項垂れているみょーじを見てちょっと申し訳なさそうにした。
虎杖が食べた指は結界が外れかけていた。包帯のようにぐるぐるに巻かれたソレに「細かい文字が書いてあるなー」とは思ったが、まさかおなまーえが苦労して手書きしているものとは思わなかった。
「全部が全部私が書いたわけじゃない。100年保つものもあれば5年くらいで交換しなくちゃいけないものもある。私が作ったやつも、昔のはもちが悪いし」
「でもソレってみょーじにしかできないんだろ。すげえよ」
目元に蒸気のアイマスクをつけたみょーじは、親指でそれをグイッと持ち上げた。黒い瞳と目が合う。
仙台で会った時はフードを深くかぶっていたから、顔を見るのは初めてだった。予想していたよりはずっと親しみやすそうな顔をしていた。
「……来たのね」
呪術師の世界に。
「え、あぁ、うん。これから部屋を案内してもらうとこ。五条先生は学長と話してる」
「面接は合格したんだ」
「一発合格とはいかなかったけどね」
「そ」
結果だけを確認して、みょーじは目を閉じた。アイマスクを元に戻す。
興味がないと言われてるみたいでちょっと寂しい。
「明日から同クラだろうからさ、よろしく」
「……私高専生じゃないけど」
「え?違うの?歳が近いとか言ってなかったっけ」
「私中学生」
「中学生!?どーりで…」
スカートから覗く足が細いと思った。幼い声にも納得した。
声に出すと変態扱いされるから絶対言わないけど。
「でも、私の方がアンタよりこの世界には詳しいから、馴れ馴れしく年下として見ないでよね」
「…はい!先輩!」
「馴れ馴れしくすんなって言ったでしょ」
年相応の強がりにちょっと嬉しく感じた。どんなに冷たそうに見えても、結局は中学生の女の子なんだと。
その考えが甘いと知ったのは随分と後になってからだった。
「おじいさんの葬式は終わったの」
「あ、うん」
「他の親戚は」
「いない。オレ、じいちゃんに育てられたからさ」
「……そう。宿儺の器になりうる存在を生むなんて、ご両親は余程名のある呪術師かと思ってたんだけど、違うみたいね」
期待が外れて、本当にこちらに興味を無くしたようだった。
再び仰向けに寝転がり、両手を胸元で組んで黙り込んでしまった。
これ以上話すつもりはないという拒否の意を感じたが、手持ち無沙汰な虎杖はなおも話しかける。
「みょーじはここに住んでんのか?学校は?」
「……」
「それとも高専生には必要ないのか。いや、でも中学までは義務教育だから関係ないよな」
「……」
「なぁ返事してくれよ〜」
「馴れ馴れしくしないでって言ったでしょ、ナンパ野郎」
相変わらず冷たい拒絶。でもそれが不思議とちょうど良いと思った。
出会って間もないけど、それが彼女らしいと感じた。
タイミングが良いのか悪いのか、五条先生が戻ってきた。学長との話は終わったみたいだ。
「おや?青い春かい?おなまーえも一歩前進かな」
「先生、もう遅いっすよ〜」
「……」
みょーじは五条先生が来ても特段反応は示さなかった。
「おなまーえはまだむくれてんの?」
「別に。ただアンタのせいで私の責任問題が問われた」
宿儺の指をくすねてオレに食わしたことで、どうやらみょーじに疑いがかけられたらしい。
「僕の責任だってちゃんと弁明したじゃん」
「私の信用問題に関わるって言ってんの。上はただでさえ私のこと信用してないんだから」
「それは僕のせいじゃないでしょ」
「……もういい、アンタと話してると疲れる。まだ封印作業してた方がマシ」
みょーじはアイマスクを外すとドカドカと重たい足音を立ててロビーから出ていく。
本当に五条先生のことが嫌いなようだ。
「昔はもっと可愛かったんだけどね〜」
「みょーじってどんくらい前から封印師やってんの」
「うーん、2年前くらいからかな。呪術師としては3.4年経ってると思うけど」
とすると、11歳ごろから呪霊を退治していることになる。
オレがまだ中学校で何も知らずに過ごしていた頃から、みょーじはバケモノと戦ってきたわけだ。それを考えると伏黒といい、みょーじといい、幼くして死の恐怖と直面してきたのだから、ちょっと見る目が変わってしまう。
ここは普通の生活とは切り離された世界だから、中学校にいかないのも納得した。
「最初から封印師だったわけじゃないんだ」
「………まぁね」
「なに、その妙な間」
「誰にだって抱えてるもんがあるってことさ。あの子はね、前までは悠仁と同じような感じだったんだよ。」
「オレ?」
「彼女はまだ幼いかった。それを理解した上で、自分にできる限り、手の届く範囲でいいから人を助けようと必死だったんだ。」
「……」
正直に言って意外だった。同じ動機、同じ考え。五条先生から語られた昔のみょーじの夢と今の彼女の姿が、どうしても合わなかった。
「おなまーえの能力は戦闘向きじゃない。戦うより守ることに特化してるんだ。封印も得意だから、宿儺の指を含めて重要な呪物はほとんど彼女が管理をしてる。今もそれはやってくれてるけど……あることをきっかけに戦いには出なくなったんだ。」
「あること?」
「うーん、さすがに僕の口から言うのは憚られるからなぁ。そこは本人から聞き出してみて」
「……まぁ誰にも言いたくないことのひとつやふたつあるもんな」
「僕個人としては、キミみたいな子があの子を救うと思ってるよ」
「……どうだろう」
反応に困って適当な返事をする。
救うと言ったって、オレはあの子のことを何一つ知らない。
でも、あの冷酷の仮面を被った人の本当の顔を見てみたいと思う気持ちは少なからずある。
好きが嫌いかと聞かれたら、少なからず好意的な気持ちは抱いている。
(ツンデレが人気あるのってこういうことかな…)
女子のことはよくわかんないけど、漠然と理解した。
うまく言えないが放ってはおけない気持ちになる。
「それより、オレの部屋どこ?」
話を逸らすために本来の目的を先生に伝える。
「ぃよーし、案内しよう!ついてきたまえ!」