ジョゼフと語り部のお話
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【Side J】
好意を寄せられていることはわかっていた。
けれどそれに応えようとするたびに、吐き気がするほどの悪寒と、ほんの少しの嫉妬がこの身を焼き尽くすのだ。
キミが近づいてくるたびに、空気がまずく感じられた。
澄んだ目で見つめられるたびに、それを抉り出したくなった。
言葉を綴られるたびに、己の耳を引きちぎりたくなるほどの雑音に苛まれた。
それほどまでに、私はあなたに依存していたのだ。
なのにどうして。
どうしてあなたの目には私が映らないのだろう。
キミが求めているのは「生存」ではないことくらい、ボクはとうに気がついていた。
だから応えたくなかった。
だから視界に入れたくなかった。
だから彼女の話を聞きたくなかった。
それなのにあんなに甘えた声で擦り寄るから。
それでいてこちらの領域に必要以上に入り込んでくるから。
――私は、彼女を自分だけのものにした。
「写真家さん」
「……庭師が何の用だ」
試合後、ロビーからまっすぐ自室に帰ろうとしたところで小娘に話しかけられた。
邪魔をするな。
ボクとあの女の。
私とあの人の。
「邪魔をするな」
「っ!語り部さん、どこに行ったのか写真家さんなら知ってるかもしれないって聞いたの!」
「…どいつから?」
「リッパーさんなの」
「…あいつか」
余計なことを。
荘園の主人は「語り部は願いを叶えたから退場した」と通達した。
もちろんハンターだけではなく、サバイバーにもそれは行き渡っているが、この小娘はどうにも納得していないらしい。
「あの女は自らの望みを叶えた。それで十分だろう」
「語り部さんの願いは『生きながらえること』って聞いたの!語り部さん大丈夫なの?辛い思いしてないの?」
「心配せずともあの女は…」
だってあの女は願いを叶えたのだから。
恍惚の表情を浮かべるあの語り部の願いは。
「王のもとで安らかに眠っているとも」
「…王さま?」
「……」
写真家はそれ以上は庭師に取り合わない。
だって己の自室に彼女が待っている。
語り部の望みは『生きながらえること』ではない。
彼女の望みは『王の支配のもとで生きながらえること』。
そして、その王は――
(――きっと誰でも良かったんだ)
fin...