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♦︎冨岡義勇夢の没案です。なんで没になったかというと、3巻のラストと4巻の冒頭で推しが変わったからです。
♦︎がっつり長編書く予定だったので設定は凝ってます。この設定はのちの善逸夢でも再利用します。
♦︎よく考えたら義勇さん一言も発してない。ごめんなさい。
【設定】
みょーじおなまーえ
・スレンダー
ペチャパイ。美人。
・若干S属性
他人(鬼)が苦痛に歪んでいる顔とか耐えている顔とか大好き。
・神経障害
幼い頃鬼に襲われたことがあり、その際に神経障害を患って、痛覚や触覚が人より鈍い。
傷つけられても気がつかないことも。
・氷の呼吸
水から派生した呼吸。
師であった
刀身は浅葱色。
【以下本編】
空は快晴。
地平線の奥の方に雲が寄り集まっているのが見える。
見晴らしの良い田んぼ道。
微かに見える狭霧山の頂上。
仄かに香る土の匂い。
――タッタッタッ
女は軽い足取りで、山までの道を歩いていた。
久方ぶりに会う人物に早く会いたくて。
はじめて会う少年に早く会いたくて。
「いいお天気…」
頬を綻ばせながら、女は中天に差し掛かった太陽に手をかざした。
++++++
その人物の家は狭霧山の麓にあった。
遠目からでも特徴的な赤い天狗の面を見つけることができ、女は声を張る。
「鱗滝さーん!」
「…む」
小さく手を振れば、あちらも同様に手を振って返してくれた。
見た目によらず、相変わらず優しいお人だ。
女――みょーじおなまーえの師であった、
彼女は、生前蕗ヶ原が懇意にしていた、この鱗滝という人物を今では第二の師として敬愛している。
…いや、懇意にしていたという言い方は誤解を招くかもしれない。
正確には、彼らがまだ現役の頃、蕗ヶ原が鱗滝に一方的にライバル意識を持っていたのである。
蕗ヶ原は鱗滝に粘着質なまでに強く憧れ、故についぞ彼を超えることはできなかった。
鱗滝に追いつけ追い越せ。
鱗滝の弟子に追いつけ追い越せ。
みょーじおなまーえは幼い頃からそのように教えを叩き込まれた。
教育の成果は得られたようで、みょーじおなまーえは鱗滝の弟子にはたいそう興味を持つようになった。
――そして師と同じように、鱗滝の弟子にゾッコンになった。
「お久しぶりです。そちらが義勇が紹介したという男の子ですか?」
サラサラのボブヘアを耳にかき上げながら、女は鱗滝に問いかけた。
「ああ。間接的にお前のライバルといったところか。」
「それじゃあ私追い越されちゃいますよ」
みょーじおなまーえはクスクスと笑い、鱗滝に扱かれているであろう少年に正対した。
「はじめまして。君が竈門炭治郎くんで間違いないですか?」
「は、はい!」
「私はみょーじおなまーえ。よろしくお願いします。」
炭治郎少年にとって、鱗滝の元へ来てから人と会うのははじめてだった。
肩につかないくらいの黒い髪。
キリリとした、それでいて主張の薄い眉。
パッチリとした赤い瞳。
細い首。
線の細い体。
中性的な声色。
「……女の人?」
少年は自信なさげに首を傾げた。
振る舞いも女性にしてはたくましいし、男性にしてはしなやか過ぎる。
女性ならば気品のある両家のお嬢様、男性ならば紳士的な優男にも見える。
この手の質問には慣れているのか、突如現れた謎の人物は口角をあげた。
「さぁ、どちらでしょう?確率は二分の一ですよ」
「当たり前だろう。炭治郎、休憩にする。」
鱗滝は稽古を中断させて、小屋の中に入っていく。
茶でも用意してくれるのだろう。
「…それで?どちらだと思いますか?」
「うぇ!」
にこにこと楽しそうにおなまーえは炭治郎に詰め寄る。
少年が困惑しているのを、悪気ゼロで心から楽しんでいる表情であった。
後ずさりした炭治郎は考える。
この半年と少しで嗅覚はかなり研ぎ澄まされてきた。
故に、目の前の人物が自分より遥かに強い剣士だということ、そしてつい先ほどまで鬼を退治していたということは分かったものの、性別に関してはとんとわからなかった。
みょーじおなまーえは道場の家系に生まれ、後継になるため男と同じように育てられた。
立ち振る舞いから話し方に至るまで、男性的に育てられたため、どっちつかずの中途半端な匂いを纏う羽目になったのである。
(でも、その…)
自信は相当なかったが、ほんのりと男より膨らみ、女より控えめな胸元を見て、炭治郎は顔を赤くしながら答えを出した。
「じょ、女性ですよね…?」
「ふふ」
みょーじおなまーえはにっこりと笑い、彼の頭を撫でた。
「正解です。炭治郎は賢い子ですね。」
「!」
その手が母の手のように細くて繊細で、だが父のようなたくましさを感じさせ、炭治郎はふと家族のことを思い出した。
「…っ」
泣くな。
まだ修行は終わっていない。
まだ俺は鬼殺隊に入ってすらいない。
溢れそうになった涙をこらえ、少年はぐっと下唇を噛んだ。
++++++
炭治郎の経緯はあらかた知っている。
家族を鬼に殺され、妹を鬼にされ、打ちのめされているところに冨岡義勇が追い打ちをかけたという話も聞いている。
家族を殺した鬼を退治したいという本人たっての希望ため、義勇は鱗滝の元に炭治郎を導いた。
度胸があり、機転が聞き、何より嗅覚が優れているらしい。
「見込みはありそうですね…」
「教えを理解するのは早い」
「頭では。まだ身についてはいないようで。」
外で素振りをしている炭治郎を見ながら、おなまーえと鱗滝は茶をすする。
「あ、鱗滝さん、土産の団子です」
「かたじけない」
少し離れた村で買っておいた三色団子を広げて鱗滝に勧める。
甘味が好きかどうかは知らないが、今までこの手の土産で断られたことはないのでいつも似たようなものを持参している。
団子を頬張りながら、おなまーえは再び炭治郎に目を向ける。
彼の素振りは、型は綺麗だ。
剣道であれば十分通用する程の力は備えている。
だがスポーツと実戦とでは力の入れ具合が大きく異なる。
端的に言ってしまえば、腹に力が入っていない。
力が入っていないから呼吸もまだまだ使いこなせていない。
――全集中の呼吸。
著しく増強させた心肺を使って、一度に大量の酸素を血中に取り込むことで、瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸法。
有り体に言うと、火事場の馬鹿力をいつでも出せるようにコントロールする技術である。
人が、人よりもはるかに優れた筋力を持つ鬼と戦う際には欠かせない技法だ。
「997…998…999……せーん!!」
「あと500回」
「ヒィイ!」
鱗滝は楽しそうに炭治郎に声をかける。
久方ぶりの教え子に心底嬉しいようだ。
炭治郎は悲鳴をあげながらも言われた通りにまた一から素振りを開始する。
もう手もボロボロで鉛のように重いだろうに。
(…義勇が気にかけただけはある)
素直でまっすぐな心根の持ち主だ。
ただひたすらに優しい。
鬼にまで慈悲をかけるほどには優しく、芯の通った子だ。
(……彼も死なないといいけれど)
おなまーえはお茶をずずっと飲み干した。
「……」
「……」
夕日に照らされた炭治郎を2人はじっと見つめる。
彼の黒髪が宍色に輝いていたから、その姿が別の誰かと重なる。
「……」
「……」
「……怖いですか?また教え子を喪うのは」
「……」
彼は答えなかった。
鱗滝左近次という男は、育手の中でも特に多くの教え子を亡くしている。
多くの夢を育て、それが潰えるのを目の当たりにしてきた。
『もう子供が死ぬのを見たくない』
みょーじおなまーえの同期である、義勇と錆兎を育て終えた後、彼はそのように零していた。
無理もない。
私だって、共に切磋琢磨してきた錆兎が死んだ時は辛かったのだから。
おなまーえは暗い気持ちを振り払うように、パッと立ち上がった。
「……大丈夫です。彼は大物になります。」
「何故そう思う?」
「女の勘です」
彼女は頬を綻ばせた。
もうそろそろ日が沈む。
日が山を越えてしまえば、ここは一気に真っ暗になる。
足元がはっきり見えるうちに次の仕事場に向かおう。
「行くのか」
「はい。義勇にもたまには顔出すように言っておきますね。」
「期待はせん」
「じゃあ今度無理やり連れてきます」
羽織に腕を通し、おなまーえは外に出た。
「炭治郎くん」
「はい!あ、もう行かれるのですか?」
「はい、もう行きます」
彼はキラキラした目でおなまーえを見つめる。
こんな線の細い女性でも、鬼殺隊として自分よりはるかに多くの鬼を退治してきたのだ。
羨望の眼差しを向けられて、彼女は苦笑いをする。
「まだ先のことですが、あなたが最終試験に合格することを、私は心から祈っております。絶対に、何が何でも生きて帰ってきてくださいね。」
「はい、そのつもりです」
「…絶対にですよ。鱗滝さんや禰豆子ちゃんを悲しませることはないように。」
「は、はい…?」
彼は困惑したように、再度力強く頷く。
「手」
「はい?」
「手だして」
豆だらけで傷だらけの手を、炭治郎は差し出した。
おなまーえはそれを受け取るや否や、一気に時計回りに腕をひねる。
「いっ!!いだいいだいいだいっ!痛いです!!」
顔を歪めて握られている腕をバンバンと叩く。
痛くて痛くてたまらない。
というか、握手するのかと思って手を出したのにいきなり捻るとかちょっとひどいんじゃないのか。
「……ふふ」
おなまーえはいい笑顔でその手を離した。
悪意の匂いなんて一切しない、純粋そのものの笑顔で。
「なかなかいい声。鬼殺の隊士になったら是非私のところに来てください。喜んで虐めて…あ違った、鍛えて差し上げますから。」
「今虐めるって言いましたよね!?」
「気のせいですよ、気のせい」
袖の中に手を入れる。
ここからこの近くの藤の家までは3里ほど。
もう白い月がぼんやりと東の夜空に浮かんでいる。
「約束ですからね。私待ってますから。」
タンッと地面を蹴った。
身軽ゆえの俊敏な動きで、みょーじおなまーえは狭霧山を後にする。
「お、お気をつけてー!!」
後ろから炭治郎がかけた声が山びこのように響いた。
「ふふ」
それに答えるように彼女は大きく手を振る。
竈門炭治郎、14歳の秋。
少年は中性的な匂いのする不思議な女と、初の会偶を果たした。
彼女が氷の呼吸使いだということも、鬼殺隊の乙の位だということも、幼い頃鬼に襲われて感覚障害を患っていることも、実は超がつくほどのドSであることも、まだ少年は知るよしもない。
逆に、この少年を中心に世界が回り始め、後に本当に大物になることも、女はまだ知らない。
++++++
けっして大きいとは言えない門の戸を、みょーじおなまーえは慣れた手つきで開けた。
辺りはシンと静まり返っている。
「ただいま」
返事は返ってこなかった。
鎹鴉からの伝言は入っていないので、彼はまだ家にいるはず。
彼女は目星をつけて足を進める。
塀で覆われているとはいえ、この家には道場と最低限の生活機能を兼ね備えた小屋しかない。
この家の家主はいつも通り道場の方にいるのだろう。
彼女は迷わず一番大きな建物に向かう。
――ガラ
「ただいま」
戸を引くと、黒髪を束ねた青年が座禅を組んでいた。
彼はピクリとも動かずに精神統一をしている。
ほっと胸をなでおろす。
未だこちらに顔を向ける気配もなく、気に留めることなく、自身の羽織を脱いで胸元を緩めた。
「3日前に鱗滝さんのところに行ってきたよ」
「……」
「炭治郎くん元気にしてた。鱗滝さんも生き生きしてて、義勇は師匠孝行したんだなって思ったよ」
「……」
「炭治郎くんはちょっと動きにクセがあるけれど、根が素直な子だしぐんぐん吸収して成長するタイプだと思う」
「……」
「将来は大物になるかな。私また鱗滝さんの弟子に負けちゃったりして。」
「……」
返事がない。
集中していて自分の声が耳に入っていないのか。
彼女はしゃがみこみ、彼の顔を覗く。
そこでおなまーえは彼の様子にようやく気がつく。
「……もしかして、義勇寝てない?」
「……」
カクンと首が落ちた。
「義勇?義勇さーん?」
「……」
寝ている。
これは確実に寝ている。
珍しい。
彼も居眠りするだなんて人間らしいところもあったのか。
いつも無口かつ真面目で大人ぶっているから、つい自分と同い年だと忘れてしまうこともある。
その彼が居眠り。
可愛らしいところもあったものだ。
これが西洋の言葉で言うところのギャップというやつなのか。
――コクリ
また首が落ちた。
どうやら冨岡義勇殿はまだ目覚めない御様子。
昨夜よほど鍛錬していたのだろうか。
とはいえ、おなまーえが入ってきても目覚めないなんて、いくら昼間だからといっても気を抜きすぎだ。
これが鬼だったらどうするのか。
鬼殺の隊士として、それらをまとめ上げる柱として、もう少し緊張感を持ってもらわなければ。
――ニマリ
彼女は怪しげに口角を上げた。
【以上本編】
没ネタなのでここまでです。
お付き合いいただきありがとうございます。
こちらの作品は続きを書きません。
マンガを買ってから善逸に落ちてしまったからです。
実は善逸夢は絶賛執筆中です。
仕事の合間を縫って、なおかつ筆が乗るときに書いているのでまだまだお見せできるものではないのですが、夏のうちにはお披露目できたらいいなと思います。
2019/06/12 少女S
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