ジャーファルと使用人のお話
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またパラパラとページをめくった。
『ジャーファル様、忙しすぎて過労死しないかな。大丈夫かな……。』
『会いたい、けど我慢我慢。』
『どうしてもジャーファル様と過ごす時間が作れない。でもあの人は国のナンバー2なんだから、忙しいのは仕方ない。』
『ピスティにありえないって言われてしまった。付き合って半年経つのにキスしかしてないなんてって。キスも一回しかしたことないけど。』
『ピスティの可愛さが羨ましい。ヤムライハのスタイルが羨ましい。……私平凡すぎるよなぁ。』
『ジャーファル様は私のこと好きじゃなくなったのかな。仮眠を起こすのも、コーヒーを淹れるのも、私じゃない方がいいんじゃないのかな。』
『ちょっとだけ、寂しいかも』
『ジャーファル様はお忙しいんだから。きっと今の仕事に区切りがついたらまた昔みたいにたくさんお話ししてくるから。あと少しの辛抱だよ、おなまーえ。』
『………私たちって本当に付き合っているのだろうか』
それはおなまーえの赤裸々な心の内だった。だというのに、自身の至らなさを反省する文ばかりでジャーファルを責めるような内容はない。むしろ常にジャーファルのことを心配してくれている。
(いっそ責めてくれればよかったのに)
こんなに純真な気持ちで自分と向き合ってくれていたなんて、今の今まで知らなかった。知ろうともしなかった。
ここまではおなまーえがシンドリアを飛び出したその日までの日記。ここから先はジュダルの魔術に操られている状態の彼女だ。ジャーファルはページをめくった。
『何が起きているかわからない。私の中にへんなものがいる。』
『この黒いのは何?私なんでこんなのが見えるの?』
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!私人を殺したくない……!』
『気がついたら私じゃない誰かに乗っ取られている。助けて。誰か助けて。』
『いや!いや!!もうやめて!!』
『お願い、ジャーファル様。助けて。ジャーファル様。』
『助けて助けて助けて』
『もうだめかもしれない』
『私を、殺して』
それまでの丁寧な字とは異なり、書き殴った文字。これ以上先は文字として判読できなかった。
「………ははっ」
乾いた笑い声が出た。おなまーえはこんなにも助けを求めていたというのに、自分は恋人の変化に気づけなかった。
「何をやっていたんだんだ、私は……」
この仕事が片付いたらおなまーえをデートに誘おう。区切りが良くなったら食事にでも行こう。そう思っていたのが、今となっては言い訳に過ぎない。海も山も街も、何一つ彼女とみた景色が思い出さない。
「一体何を見ていたんだっ……!」
彼女の私服も、彼女の好きな食べ物も、彼女の趣味もわからない。この日記を書いていたことすらも知らなかった。
「………よくも…」
爪が手のひらに食い込み血が滲む。それだけでは物足りず、彼は拳を強く打ち付けた。何度も何度も、後悔の数だけ強く。
「よくも彼女が大事だなんて言えたもんだ」
足にピキリと痛みが走った。見ると先日おなまーえに傷つけられた足から血が滲んでいた。
「…………」
彼は足を取り出すと塞がりかけていた傷口をかきむしる。まだ足りないと、飢え乾く亡者のように。
本が床に落ち、ページの隙間からカサッと何かが出てきた。
ジャーファルは手を止めて出てきたものを手に取る。それは便箋だった。血のついた手で彼は封を開ける。
『ジャーファル様へ。お仕事お忙しいと思うのでお手紙を書きました。』
ゾワっと背筋が凍りつく。一体いつ書いたものなのか、日付が無いので判断しかねるがかなり前に書いたもののようだ。
『ジャーファル様は甘いものはお好きでしょうか。先日ピスティとヤムライハとともに訪れたケーキ屋さんがとても美味しかったので、ぜひジャーファル様と一緒に行きたいと思っております。差し支えなければご都合の良い日を教えていただけますでしょうか。』
なんて事のない、ただのデートの誘いだ。だがジャーファルは一度だっておなまーえからケーキの話を聞いたことはない。ましてや誘いなど受けたこともない。
手紙にはまだ続きがあった。
『あまりご迷惑はかけないようには致します。ただたまには恋人らしいことをしてみたいのです。お返事お待ちしております。』
書いて、何度も読み返したのだろう。折り目は一つではなかった。
「………大切にしてあげられなくて、ごめんなさい……」
告白した時のくしゃっとした彼女の顔が忘れられない。
『私も…私も、お慕いしております…!』
「これが、全部全部夢ならいいのに……」
彼は静かに涙を流した。
fin
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おっも。くっら。
実はこれ、前半部分は私の実体験をもとに書いています。私ずっと恋に憧れを持っていたんですけど、元彼さんは多忙な人だったのであんなこと考えていました。恋人ってのに、小さい頃から夢を抱いていたので、過去の自分の期待を叶えてあげられなくてごめん、と。
心情がすこぶるかきやすかった笑
2018/10/04 少女S
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