第1夜 黒の教団
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おなまーえは辺りを飛んでいるゴーレムを見上げる。
きっとリナリー含め、科学班の面々があの書類だらけの山から手紙を探しているのだろう。
どれほど待っただろうか。
「んえ!?あ、あけるの!?」
門番に内蔵されているゴーレムに連絡があった。
どうやらシロのようだ。
「……かっ、開門んん~!」
『入場を許可しまーす、アレン・ウォーカーくん』
重々しい音を立てて門が開く。
だが3人の間の妙な緊張感はいまだ解けない。
「……」
『待って待って、神田くん』
「コムイか。どういうことだ?」
『ごめんねー!早とちり!その子クロス元帥の弟子だった。ほら謝ってリーバー班長!』
『…俺のせいですか?』
ゴーレムの向こうからリーバー班長の苦しげな声が聞こえる。
おなまーえは呆れたように息を吐いた。科学班の心労と多忙さは理解しているから、文句をいう気にもならない。
金色のゴーレムがフワフワと飛んでアレンの頭に乗る。
『ティムキャンピーが付いてるのが何よりの証拠だよ。彼はボクらの仲間だ』
「そ、そそそそう!そう!」
アレンの疑いは晴れた。
おなまーえはイノセンスを止めて結界を解除する。
だが神田だけは、アレンに向けた刀を下ろさない。
「先輩、コムイさんのミスみたいだし、私たちは戻りましょうよ」
「……」
「先輩」
「……」
「もう…」
しびれを切らしたおなまーえは、ツカツカと歩いて六幻の切先の反っている方を手で掴む。アレンの首筋から引き剥がすように力を込め、彼に手を差し伸べた。
「立てますか?」
「あ、はい…」
「医務室があるので、首のところ後で手当してもらってね」
アレンは右の温かい手で私の手を掴み立ち上がる。
普通の人間の手だった。ちょっと呪われてて、左手が寄生型のイノセンスの不思議な青年。
「ありがとうございます」
「いつまでもこんなところいてもあれだし、中入りましょ」
実のところ、内心結構嬉しかったりする。
長いこと在籍しているが、この教団においてエクソシストの新入りは珍しいことであり、歓迎すべき喜ばしいことだ。
「おい」
だというのに、神田は相変わらず睨みを効かせている。
立ち上がったアレンを追いかけるように、六幻の先が彼の鼻先を掠った。
すかさずおなまーえが間に割ってはいる。
「先輩?さっきのコムイさんの話聞いてましたよね?」
「邪魔だ、どけ」
「退きません」
どうも不機嫌というだけではないようだ。多分神田はアレンのことが嫌いだ。それを庇おうとする私のことも、きっと面白くないのだろう。
えも言えぬ緊張感が流れる中、慌てた様子のアレンがおなまーえの細腕を掴んだ。
「えっ」
ぐいっと後ろにひかれる感覚によろめく。
かと思うと、目の前には白い大きな手が立ち塞がっていた。
どうやらアレンの背中に回ったらしい。
「大丈夫です、レディ。危ないので下がっていてください」
「レ…!?」
アレンの容姿は決して悪くない。多少童顔なのがおそらくコンプレックスだろうが、それを含めて整った顔立ちをしている。
そんな彼に紳士的な扱いをされ、あまつさえレディなどと言われれば、頬が赤くなるのも必然だった。
ふわりとした甘いにおいがアレンから香り、耳がカァッと熱くなる。
おなまーえのアレンに対する好感度がぐぐっと上がる一方で、神田からしてみれば、この状況はより一層面白くない。
絆されやがって、とさえ思っている。
さらに空気は緊迫したものになった。
「……やめなさいって言ってるで、しょ!」
それを打ち破ったのは神田の背後から現れたリナリーだった。
彼女は持っていたバインダーで神田の頭をパコンと殴る。
いつまで経っても門を潜らない3人に、痺れを切らした科学班が派遣したのだろう。
「何おなまーえに六幻向けてるの!早く入らないと、門閉めちゃうわよ」
ツインテールのリナリーは頬を膨らませてホームを指差す。
「入りなさい」
「……」
「はーい」
こう着状態だった3人はリナリーに従い、素直に門の中に入る。
最後にアレンがくぐった瞬間、門はものすごい音を立てて厳重に閉まった。
▲▼
「私は室長助手のリナリー。よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
テキパキとリナリーが自己紹介を終えるより先に、神田はツカツカと反対方向へと向かう。どうやら食堂に向かうようだ。おなまーえも先程食べ損なった朝食を食べるために、神田と同じ方向に足を踏み出す。
振り返りざまにリナリーに手を振る。
「じゃあ後はよろしく、リナリー!」
「あ、カンダ、おなまーえ…」
「…あ?」
アレンの自信のなさそうな声が神田の足を止めた。おなまーえも続けて足を止める。
「…って、名前でしたよね?よろしく」
そう言い、彼は右手を差し出した。呪われていない方の温かい手。
まだ出会って間ないが、きっとアレンは礼儀正しい人なんだと思う。所作のひとつひとつから思いやりを感じる。きっと義を重んじ、他人のために戦えるような人なのだろう。
神田も顔に出さないだけで、律儀な性格をしている。実のところこの二人は似たもの同士なんじゃないか、と思ったところで――
「呪われてるやつなんかと、握手するかよ」
「え…」
彼は冷たくその手をあしらった。
これはあれだ。同族嫌悪というやつだ。
団服の裾をひるがえして、神田は今度こそツカツカとその場を立ち去っていく。
「あー、その…気にしないでくださいね、アレン。誰にでもあんな感じなの」
「いえ、大丈夫です。その、おなまーえは平気なんですか?」
「まぁ長い付き合いだからね」
これまでの苦労を思い返して苦笑する。
神田をNG指定するファインダーは数知れず、現地でも子どもには絶対好かれない。一方、容姿は整っているから妙齢のマダムたちには好かれて、何度こちらがとばっちりをくらったことか。
そんな彼と普通に接することができるのは、無口なところがほんの少し姉に似ているからかも知れない。
先程も握った右手を両手で包み、歓迎の意を伝える。
「きっとこれから……特にコムイさんのところに行ったあと、大変なことが起きると思うけど、頑張ろうね」
「え。それどういう…」
「じゃ。また任務で会おう!」
アレンに詮索されるより早く、おなまーえは身軽な足で駆け出した。
走ればまだ神田に追いつきそうだ。
このあとアレンに襲いかかる苦難というのは、具体的にいうと、ヘブラスカに体を弄られまくる。それはもうめちゃくちゃに。ヘブラスカにも悪意がないことは承知しているが、あればっかりは人間の扱いをされてないと思っている。
加えて、アレンのイノセンスは神田によって大きく傷つけられている。左手の甲に縦に入った線は、コムイでないと直せないだろう。寄生型だったことが運の尽きだ。
「もう!廊下は走らないで!……って、もう聞こえてないわね」
脱兎の如く小さくなっていくおなまーえの背中。
リナリーの小言はアレンにしか聞こえなかった。
「あの二人は兄弟なんですか?」
「髪の色が同じだからそう思われがちだけど、国籍も違うわよ。元帥が同じだから、兄弟子と弟弟子って関係」
「ああ、だから『先輩』なんですね」
「んー…それ以外にも理由はあるみたいだけど。まぁ本人たちから聞くのが一番いいわ」
そう言ってリナリーはアレンを連れて室長室へと向かうのだった。