第12章 三滝原
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とある一行の御茶会議。
「っ!」
ぱっと深く深い奇妙で苦い夢から覚める。頬を伝う汗、気分が良いとはとても言えない。
夢の中の私はお姫様で、一人でアプリコットティーの入ったティーカップをただ眺めていて、レモンキャンディもクランベリースコーンもブルーベリージャムも、まるでインクのように机の上に散乱しているけど、どれも手を出せなかった。
でももう、そんなエンドレスループな悪夢は終わった。
アプリコットティーのお話し。
目の前には誰よりも優しい
「心配しないで。大丈夫だよ、もう誰も彼も傷つけたりだなんてねしないから」
角砂糖2つカップに投げ入れくるくる廻す。安心した、世界は今日も廻ってる。
ファイにはとても迷惑をかけた。私の想いは、きっと彼にとって負担になってしまったに違いない。
「私のこと嫌いになった?」
「……」
柔らかい手で、ただただ頭を撫でられた。
レモンキャンディーのお話。
目の前には反抗モードの
「心配してくれるの?大丈夫だよ、もう誰も彼も陥れたりだなんてしないから」
角砂糖3つカップに投げ入れくるくる廻す 。安心した、世界は今日も廻ってる。
黒鋼にはとても心配をかけてしまった。曲がったことが嫌いだから、きっと彼には気に食わなかったに違いない。
「私のこと嫌いになった?」
「…ハッ」
鋭い目で見下したように、鼻で笑われた。
クランベリースコーンのお話し。
目の前には几帳面な
「心配させたかな。大丈夫だよ、もう誰も彼も恨んだり呪ったりしないから」
角砂糖4つカップに投げ入れくるくる廻す。安心した、世界は今日も廻ってる。
小狼にはとても面倒をかけてしまった。何事も正面から取り組む彼だから、きっと私の逃げは心情がよくなかったに違いない。
「私のこと嫌いになった?」
「…!」
甘茶色の髪と共に、大きく首を振られた。
ブルーベリージャムのお話し。
目の前には清く正しい
「心配いらないよ。大丈夫だよ、もう誰も彼も羨んだりなんてねしないから」
角砂糖5つカップに投げ入れくるくる廻す。安心した、世界は今日も廻ってる。
サクラにはとても嫌な思いをさせてしまった。醜い嫉妬をしていただなんて、きっと呆れられているに違いない。
「私のこと嫌いになった?」
「……ほっ」
安心しきった表情で溜め息つかれた。間髪入れずに「あーあ」と微笑まれる。
大好きだった。今もまだ大好きなんだ。私はこの仲間が好きで好きでしかたないんだ。だから嫌われたくなかった。聞く勇気がなかったから、ひとりで塞ぎ込んで、ひとりで絶望していた。
あまりの嬉しさに、角砂糖6つドボドボ入れて啜ったら、アプリコットティーは目を丸くした。
「そんなに入れたら体に悪いよーぅ」
「っ…」
お姫様は心底幸せそうに笑った。
**********
「こんにちは」
次の瞬間、何もない空間で突然話しかけられた。真っ白な空間。呼吸の音さえ聞こえてきそうな、どこまでも続く無の空間。
振り向くと、ピンク色の髪の少女がそこに立っていた。
「あなたは、一体…」
「私は鹿目まどか。よろしくね。えっと、お名前は?」
「…おなまーえ」
「うん!おなまーえちゃん!」
彼女は明るい笑顔で握手をしてきた。呆気にとられなすがままにされているが、ここは一体どこで彼女はなんの目的があって話しかけてきたのだろうか。
「あのね、おなまーえちゃんにお願いがあるんだ。聞いてもらってもいい?」
「え、えぇ」
どもりながらも彼女は頷いた。まどかは優しい微笑みで話を始める。
「私ね、魔女を滅ぼす概念として神さまになったんだ。だから今ならどんな世界だって見ることができるんだけど…ある人がね、全ての時空を手に入れようとしているの」
「!」
おなまーえはその人物に心当たりがあった。
―――飛王・リード。
「その人が時空を手に入れちゃうと、せっかく私が作ったこの世界も壊されちゃうんだよ。だからね、その人をやっつけに行ってほしいの」
「……私なんかでいいの?」
「おなまーえちゃんだから頼むんだよ。他の誰でもない、たくさんいろんな世界を見てきたあなただから」
まどかがおなまーえの顔を除きこむ。
飛王・リードを倒すということは時空を渡る旅をするということ。目的は『小狼』たちと同じ。いずれまた会える。優しさが目尻に似合うあの人たちに、また会える。
「でもそうすると、おなまーえちゃんも私の一部になっちゃうんだけど、それでもお願いできないかな?」
あぁ、この少女は本当に優しい心の持ち主なのだ。例え自身の存在が無かったことになっても、終わりのない宇宙を彷徨うことになっても、この子は根をあげたりしないのだろう。
「うん…うん……わかったよ」
「…よかった」
彼らとまた共に旅することができる。おなまーえは嬉し涙を流しながら頷いた。まどかは笑顔になる。
「ありがとう。おなまーえちゃんは杏子ちゃんから聞いてた通りだね」
「…杏子を知ってるの?」
「うん。心配してたよ。ずっとずっと待ってるって」
「……」
旅の最初の目的は、杏子のいるこの世界に帰ってくることだった。色々と遠回りをしてしまったから、目的はだんだんと変わってしまったけれど。でも杏子にはもう二度と会うことはできない。「ただいま」を伝えることももうできない。
「何か伝えたいことはある?」
「……いいえ、何も。何も言わなくて大丈夫」
私たちに言葉はいらない。強いものが生き残り、弱いものは淘汰される。杏子もそれはわかっているだろうから、余計な言葉はいらない。
「辛い役割を押しつけてごめんね」
「…これは私が望んだことだから、気にしないで」
ふと思いついて、見よう見まねでまどかの手を掴む。
彼女はキョトンとした顔をしている。
その手を自身の唇の元に持っていくと、おなまーえは小さく呟き口づけをした。
「我が唯一の姫君――ヴィ・ラ・プリンシア」
「!」
まどかは小さく微笑むと「大げさだよ」と笑った。
**********
「それじゃあ私、そろそろいくよ」
一通り情報の共有を済ませると、おなまーえは決意に満ちた目でまどかに宣言した。時間は有限だから、早く行動するに越したことはない。
「次元の魔女さんのところまで送るね」
「……そんなことまでできるんだ。流石神様」
「えへへ」
照れたように笑う彼女はこれからいろんな魔法少女を救っていく。希望を抱いた少女の結末が絶望で終わるなんて間違っていると。
――パァアアア
おなまーえの足元が光り輝き、ゆっくりと溶けていく。パステルカラーの光がが優しく包み込む。
「幸せになってね、おなまーえちゃん」
「あなたもね、まどか」
もう二度と会うことのない、私の女神様。
――シュルン
《第12章 終》
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