第11章 東京国
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おなまーえはすかさず小狼の足を覗く。痛々しくも矢の先端が突き刺さっている。
「小狼くん、足の矢平気?」
「っ…大丈夫…です」
汗をかいている彼はきっと我慢をしているのだろう。
「痛いだろうけど、抜いちゃ駄目だよ」
「はい…」
小狼の顔は若干青ざめている。
だが今抜いたら出血多量で気絶する可能性がある。ここには医療設備どころかゆっくり休む場所すらない。彼には酷だがこのまま耐えてもらうしかないのだ。
「肩、捕まって」
「ありがとうございます」
ふたりはひょこひょこと表に出て行き、状況を察する。
この建物は都庁、訪問者はタワーと呼ばれる領分があるらしい。タワー側が都庁側に何かしらの要求をしてきた様子だが、少し戦闘をするとあっさりと帰っていってしまった。
神威は立ち去るタワーを見送ると、踵を返して歩き出した。そしておなまーえと小狼と黒鋼の横を、なんの警戒も無しに通り過ぎる。
「…てめぇ、素通りかよ」
「任せる。隠れてる2人も」
「「!?」」
彼はファイとサクラの存在すら気づいていたようだ。ファイがひょこっと顔を出す。
「あはは、見つかっちゃったねぇ。ふたりともまた怪我してるー」
バレていたとはいえ、こちらに危害を加えてこないのであれば問題はない。
よろめく小狼を黒鋼に渡して、おなまーえは腕の治療に専念する。
「しかし地下に何があるんだ」
「宝物庫とかでしょうか」
黒鋼とおなまーえの疑問に、逆にタワーの人たちが首を傾げる。
「何言ってるの?」
「とぼけてるにしちゃ、本気っぽいな」
「決まってるじゃない、水だよ」
「水…?」
小狼が聞き返し、おなまーえは首をかしげる。やはりタワーの人たちも怪訝そうな顔をする。
「どういうこと?」
「水を取りに来たんじゃないのか?」
「その割にはよくわかってないって感じだね」
「泥棒にしてはぼーっとしてるよ」
人一倍にこやかで人当たりの良いファイが明るい声を出す。
「オレ達ここに着いたばっかりなんですよー」
「どうやって?」
「防具服はどうした?」
「どこから来たのかな?」
「えっと…」
だが平穏な国ならともかく、ディストピアと化しているこの国ではその人当たりの良さは通じなかった。さらなる不審な目が一行に向けられる。
「あのねあのね」
「「「!?」」」
モコナが口を開いたことで相手がおののいた。
「モコナ達、すごく遠いところからきたの。この国のこと全然わからないの。だから泥棒さんじゃないよ」
一生懸命身振り手振りで説明するモコナに、敵意も失せたのだろう。こちらの事情も大方理解はしてもらえたようだ。
「…さて、どうするかな遊人」
「神威は任せるって言ってたけど…」
「神威が殺さなかったということは、その必要はないって感じたということでしょう」
「地下にあるものを守る為には、手心は一切加えないからな、神威は」
「ってことは、無理に始末することもねぇな」
「でも…」
「表の死体を無駄に増やすこともないでしょう?」
「…わかりました」
「決まったな。行っていいぜ」
見逃してもらえることはだいぶありがたいのだが、問題は行く当てがなく、用があるのはこの都庁の地下である。小狼とサクラをいつまでもこのままにしておくこともできないため、なんとしてでもここに留まらなくてはならない。
「……」
「あのー、色々大変な時に申し訳ないんですけどー」
大人組がアイコンタクトを交わし、ファイが声をあげた。
「あ、この子小狼くんって言うんですけど、このままだとちょっとつらいんで、治療っぽいことお願いできませんかねー」
「…薬が勿体無い」
「得体が知れない連中は早急にここから出した方が良いのでは?」
「でも泥棒でもないのに撃っちゃったしねぇ、神威が」
「……」
反発する意見もある中、一部理解のある人もいるようだ。向こう側にも一悶着あったが、最終的に治療という名目で留まることに成功した。
**********
建物内を案内されている間、一行は好奇の目で見られていた。中にはたくさんの人がいたが、お互いの顔を覚えられる程度の人数。彼らにとって一行は得体も知れない連中だ。仲良くするつもりもないので都合がいい。
外の雨は酸性雨だという。ここ15年振り続けていて、地上の水は汚染されて飲めなくなり、地下水だけが唯一飲料として使える水。この建物はなぜか酸性雨の被害を受けず残っているから汚染もされないため、水取り合戦の渦中なのだそうだ。
夜。
小狼を治療してもらい、サクラと共に休ませる。一行は使っていない会議室にまとめて入れられ、外から監視されている。
――こくん
舟を漕ぐ。ゆらゆらと。4限に限って退屈な先生の授業のように。この体に睡眠は本来必要ないけれど、レコルト国からずっと落ち着かなかったから疲労は蓄積されている。
一度意識をリセットしたい。けれどいつ襲われるかわからないから、まだ起きてなきゃいけない。
その葛藤に見兼ねて、ファイが声をかけた。
「おなまーえちゃん寝てていいよー」
「…でも、見張ってないと」
「それはオレと黒様に任せてー。女の子が夜更かしなんてするもんじゃないよ」
「ん…」
今にも眼を閉じそうなおなまーえの頭を、ファイが優しく撫でる。髪の一本一本をそっと解すように。心地よいこの感覚が、大好きだ。永遠にこの時が続けば良いと思う。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
安心感から脱力していく。次第にまぶたは半分も開かなくなっていた。
「ゆっくり休んで」
「おやすみなさい」
「はい、おやすみー」
視界が傾く。
硬いコンクリートに心ばかりの布を引いて、決して寝心地の良くない床に身を預ける。
もう間も無く誘われるだろう。悪夢の世界へと。