第10章 レコルト国
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――ビ――ッ
――ビ――ッ
――ビ――ッ
警報が鳴る。けたたましい音は空高くから鳴り響き、まもなくここに警備員がくることだろう。
――どろり
暗闇が溶けて、目の前にサクラとファイが現れた。
「「!!」」
「え?なんで二人がここに…!?」
「穴に見えたのは穴じゃなかったってことか」
大穴に飛び込んだとき、地面に打ち付けられる感覚はしなかった。幻覚の類だったということだ。
「小狼くん!」
「っ!」
その声に小狼はハッと正気に戻る。
「サクラ姫…」
近づいてくるサクラに羽根を差し出すと、いつものようにそれはサクラの胸に溶け込んで行った。
「小狼、手当しなきゃ!」
「その前に早く次の世界へ移動を!」
先ほどの怖い目つきの小狼はここにはいない。黒鋼は怪訝そうに顔をしかめる。
「言わない方が良さそうですね、アレは」
「……」
「黒様?おなまーえちゃん?」
「……」
「……」
2人の様子にファイは真剣な顔で問いかけるが、2人は返事をしなかった。
地下から出たとはいえ、相変わらず警報は鳴り止まない。休んでいる暇はなさそうだ。
「図書館の人たちが来る!早く!」
小狼はモコナを急かした。
「あれ?」
モコナは頬をモニュモニュと動かす。いつものようにモコナは翼を広げるが、時空移動が起こらない。それどころか魔法陣も浮かび上がらない。
「だめ!魔法陣が出ない!!」
「図書館から本を盗んで逃げたり出来ないように、移動魔法に対する防除魔術が働いているんだ」
「なんて面倒な!」
「行くぞ。本を盗んだのはとっくにバレてる。白饅頭が移動出来る所まで逃げるしかねぇだろ」
黒鋼は眠ってしまったサクラを担ぎ、走り出した。元来た道を駆け戻る。そして最初に魔法壁があったところ、図書館との連絡口に戻ってきた。
「「!!」」
「やっぱ待ってたか、ぴゅー」
本棚に前脚をかけ、こちらを見下ろす番犬。先ほどおなまーえと小狼はが対峙したのは二匹。図書館の番犬は三匹いる。目の前にいるのが最後の一匹だ。
番犬は一行に向かって口から炎を吐き出した。黒鋼と小狼は難なく避けたが、ファイが一瞬動きに反応できなかった。
「ファイ!!」
おなまーえは咄嗟に彼を突き飛ばす。炎は彼女に直撃した。
「おなまーえさん!!」
「おなまーえちゃん!!」
小狼とファイが同時に叫ぶ。
「大丈夫」
炎の中、おなまーえはひらひらと手を振る。痛覚と温度の遮断。やってみればできるものだ。グッと足に力を入れて空中に飛び立つ。もちろん焼け焦げた姿なんて見せたくないから、すぐに身体の修復を行う。
――ゴォッ
番犬がもう一度炎をはきだす。本棚を足場に、するりと避ける。どうやらあの番犬の炎は本を燃やすことはないらしい。逃げつつ、図書館を見渡した。
「出口はあっち!」
おなまーえが指をさして誘導する。小狼は番犬の脚に蹴りを入れ、相手が怯んだ隙に一斉に走り出す。
「!」
上空に魔導師らしき人影が見えた。空飛ぶ箒に乗ってこちらを狙っている。
攻撃されるよりも早くおなまーえは糸の塊を投げつけ、その全員を糸で包み、手足の自由を奪っていく。
一行が出口から出たことを確認し、おなまーえは出入口に防御結界を張って自身も外に出た。これで少しは時間稼ぎになるだろう。
だが先頭を走っていた小狼は足を止めた。
「!」
「道が海みたくなっちゃってる!」
ここにきたとき列車から降りた場所はすでに水の下だ。潮の満ち引きがあるような場所ではなかったはずだから、これも侵入者を逃さない罠の一つなのだろう。
「飛び込むぞ」
「駄目だよ」
海へ飛び込もうとする黒鋼を、ファイが止める。彼は被っていた帽子を海へ放り投げた。
――ジュワッ
帽子は波に触れた瞬間蒸発した。
「溶けた!」
「これも防除魔術だよ」
「私にもっと力があれば…」
ここから反対岸まで橋をかけるのは、可能ではあるが難しい。第一、橋の上で襲われたらひとたまりもない。
おなまーえは悔しさに唇を噛む。
――バサァ
影が降りる。一同は上空を見上げた。
「「「「!!」」」」
「もう破ったの!?」
入口は封鎖してきたはずなのに、もう番犬がここまで追いついている。長くは保たないと思っていたが、ここまで早いともう手も足も出ない。
番犬が大きく口を開ける。その中にはとびきり大きい炎の塊が見える。
「っ!!」
空に向かい、防御魔術を張る。
――ゴォォ
――パリン
空間に蜘蛛の巣のように張り巡らせた三重の結界は、ひとつまたひとつと割れていく。例えるならば、金槌と薄氷のようなもの。一撃は凌げても、次はもう役に立たない。
「くっ」
番犬はすでに2撃目の準備をしている。こちらは先の戦いのせいで、そろそろ魔力が枯渇してきた。持久戦になれば圧倒的に不利だ。
「小娘は下がってろ!」
「黒鋼さんは魔法使えないじゃないですか!」
「……」
もう一度結界を張ろうとナイフを構えた時、ファイがおなまーえの肩をぽんっと叩いた。
「ピーー、ピューー」
小鳥が鳴くかのような繊細な音。こんなときでなければもっと聞いていたいほど心地の良い余韻だ。
でもいつものように口笛の練習に付き合っている暇はない。
「ファ、ファイ、今それどころじゃ…」
ただの口笛の練習だと思ったのだ。
だってこの人は自分の命の危機に瀕しても絶対に魔法を使わなかったから、こんな状況でもきっと使うことはないと思っていた。
――ピューーっ
清廉な口笛は天高く響き渡る。
空間を裂くかのような鋭い音は風を巻き起こし、一行の周りを覆い囲んだ。
「「「!?」」」
次々と絡みあがるツタ。それが魔力で編み上げられているものであることはすぐに分かった。ドーム状に張られた結界は番犬の炎を容易く防ぐ。
魔法を習ったおなまーえは、この魔法がどれほど高水準なものかはすぐにわかった。
「なんで…」
「….モコナ、次元移動を」
「でも、魔法陣が…」
「この中なら大丈夫だよー」
モコナは一瞬躊躇するが、先ほどと同様に翼を広げた。先程とは異なり、魔法陣もきっちり浮かんでいる。
「でたよ、魔法陣!」
防御魔術を打ち消すほどの結界。そんなもの、ただの魔術師にできる芸当ではない。
そのままモコナの口の中に一行は吸い込まれる。3人は信じられない物を見るような顔つきでファイを見ていた。
《第10章 終》
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