第10章 レコルト国
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翌日。一行は羽根の生えた汽車のようなものに乗って中央図書館に向かっていた。
「うわー、お空飛んでるー!」
モコナが窓に張り付いて、大はしゃぎしている。
「これも魔術で飛んでるんだねぇ」
「すごいです!」
「線路もないのにどうやってるんでしょうか」
六人席のコンパートメント。窓際に座ったおなまーえとサクラは、身を乗り出さん勢いで外の景色に釘付けだ。
風を切る列車は飛行機のようにぐんぐんと高度を上げる。一体どんな造りになっているのだろうか。
「おなまーえちゃん、そんなに真下見たら落っこちちゃうよー」
「あ、すみません」
車輪を覗き込むように窓から身を乗り出していたから、ファイがちょんちょんと肩を叩いて引き留めた。
「おなまーえちゃんって意外と魔法に興味津々だよねー」
「魔法ってものが私の世界ではお伽話なので」
魔法少女の存在も一般の人は知らない。魔女によって引き起こされる災厄は、大抵が事故か災害として扱われる。
馴染みがない分、空想でしか見たことのない魔法に興味をそそられないわけがなかった。
「列車の中には魔法で広くしている席とかもあるらしいですよ」
「空間を大きくしてるってこと?とても気になりますね」
小狼とおなまーえは嬉々として情報交換をする。それを温かい目で見守るサクラとファイ。
「小狼とおなまーえ夢中ー」
「ふたりのためにももっと良い席にしたかったんだけど、お金あんまりないからー」
「あ、いやそんなつもりはなくて…」
「『ごめんねぇ、おとーさん甲斐性がなくてー。その上飲んだくれだくれでー』」
「…うわー、オレの声とそっくりー」
話しているのはファイの声真似をしたモコナだ。気を良くしたモコナはサクラの膝に乗り移る。
「『お酒ばっかり飲んでて全然働かないけどお父さんはいいひとよ、ファイかーさん!』」
「私の声…」
「『いいの、サクラ。私が働けば、ケホッケホッ』」
「私病弱設定なの?」
「『おなまーえねーさんは休んでて!ファイかーさん、俺決めた。中学卒業したらねーさんの分まで働く!』」
「オレそっくりだ」
モコナが小狼の頭の上によじ登り、ビシッとポーズを決めた。
「『黒鋼とーさんの分まで!!』」
「……」
一同は呆気に取られる。モコナの一人芝居はなかなか迫真の演技である。
「ほう…」
当然黒鋼は黙っておらず、モコナをガシッと掴む。狭い列車内なので大して暴れられないが、小柄なモコナはひょいひょいと逃げまわった。
「危ないよモコナ」
「きゃーーー!」
「待てコラ!」
**********
「ここかよ」
「ビブリオって都市らしいよ、黒ぽん」
「…大きい」
「あれが、中央図書館」
例えるならば妖精のお城のような可愛らしい建物。だがどこか歴史の重みを感じる荘厳な造りだった。
「…感じる、微かだけどサクラの羽根の感じ」
「微かってことは、また結界か何かで隠されてるんですかね」
その時、一陣の風が吹いた。
――ビュウッ
「「「「「!?」」」」」
瞬きのうちに、目の前に大きな獣が3体立ちはだかっていた。グルルルルと唸るその獣は、狼のような体つきで背中に大きな翼が生えている。まさに番犬と呼ぶのにふさわしい出立だった。
肉食獣のような鋭い目つきが突き刺さる。
「……」
「さー、中入ろっかー」
「そう!本借りなきゃねー」
「そうですね」
此処は図書館。あれらの生き物は警備のようなもので、こちらが普通にしていれば手出しはしてこないらしい。確かに来る人来る人に噛みついていたら、図書館の役割は果たせないだろう。
少し階段を進んだ先で黒鋼が口を開く。
「あれが番犬とやらか」
「やー、なんか怖かったねぇ」
「なんだか怒ってたような…」
「……分かっちゃったんじゃないかな」
「「!?」」
モコナが腕を組み真剣な表情で告げるので、小狼とサクラもどきりとする。羽根は国宝。それを取り返しにきた私たちは、いわば盗賊と同じようなものだ。後ろめたさがないわけではない。
「黒鋼が悪いヒトだって♡顔だけで」
「え!?」
「はぁ」
「……っとに…さっきからいい度胸だなぁ!?」
黒鋼は先程の怒りも相まって、モコナを全力で追いかけはじめた。
「うおおおおお!!」
「きゃーーーっ♡」
「図書館では静かにねー」
「これで出禁になったら元も子もないですよ」
残された一同も、早足で階段を登った。
**********
「貸し出し禁止!?」
「『記憶の本』の原本はレコルト国の国宝書に指定されていますので、この中央図書館から持ち出す事は出来ません。」
「まぁそうですよね。ちなみにどうやって保管してるんですか?」
「お教えできません」
記憶の本の貸し出しを希望したが、受付にキッパリと断られた。そしてやはりサクラの羽根は、一般の目に触れられない場所に保管してある。
めげずに小狼が口を開く。
「では、閲覧させて下さい」
「…閲覧っていってそのまま羽根だけ取り出しちゃうつもりだよ、きっと」
背後でモコナが小声で呟く。それを知ってか知らずか、受付の女性は閲覧についても拒否を示した。
「『記憶の本』には強い魔力があります。過去に国外へ持ち出そうとした者も何人もいました。入り口の番犬をはじめとする中央図書館の守衛機能が全て捕まえましたが」
「と言う事で、レコルト記・三千四年より『記憶の本』原本は閲覧禁止です。勿論、複本はありますのでそちらをどうぞ」
おなまーえは小狼の耳に小声で話しかける。
「ダメだよ小狼くん、ちょっと武が悪い。出直そう」
「…ありがとうございました」
これ以上の質問は怪しまれるし、ここまで厳重だと情報を引き出すことも難しいだろう。正攻法がダメならば、別の方法を当るべきだ。
一同は建物を出て噴水の周りに集まり、今後の方針について話し合う。
「見せてもらう事も出来ないなんて」
「国宝なら仕方ないですよ」
「困ったねぇ」
「どうするの?小狼」
モコナは小狼に問いかける。ここまできて引き下がれない。
「それでも取り戻します」
「どうやって?」
黒鋼の問いかけに、小狼は躊躇せず答えた。
「盗みます」
「「「!」」」
呆気からんとした、なんとも短絡的な回答。正攻法がダメであれば盗んでしまった方が早い。何も間違えてはいないのだが。
黒鋼とファイとモコナが嬉しそうな顔をし、おなまーえが呆れたように頭を抱える。サクラは目を点にしていた。
**********
本が日焼けしてしまわないように、図書館は適度な日差しが入り込んでいた。ポカポカとする綺麗な室内で本を読む。なんて贅沢なのだろう。
「すごーい、ここは本が読めるフレンズの集まりなんですねー」
「ふれんず??」
「なんか面白そうな本ないかなー」
「そ、そうですね」
「嘘くせぇ」
『記憶の本』のありかを探すため、一行は図書館を歩き回っていた。おなまーえとファイのわざとらしい声に、黒鋼は鬱陶しそうに返す。
「「どこがー?」」
「お前らの顔がだよ」
2人して同時に振り返り、黒鋼はふいっとそっぽを向く。
「えー、満面笑顔なのにー」
「……」
そっぽを向いた黒鋼にファイはぐいぐいと顔を近づける。
「ほら、黒たんも笑顔笑顔」
「仏頂面だとまた番犬に怪しまれますよ」
「……」
そして彼は黒鋼の頬をみょーんと引っ張った。
「わー、嘘くさーい」
「ちょっと笑顔とは言えませんねー」
「……っ」
黒鋼の額には明らかに青筋が浮かんでいる。
「白饅頭、刀出せ」
「……」
しかしモコナは動かない。
「だめだよー、刀なんか振り回したら図書館から追い出されちゃう」
「黒鋼さん、暴力で解決しようとするのは良くないですよ」
「だったら余計な茶々入れんな!!」
隣でサクラが不安そうな顔で口を開いた。
「でもまだ図書館が開いてる時間なのに良いのかな…」
「夜のほうがもっと警備が厳しくなるでしょう。開館中ならあちこち歩いても怪しまれません」
「まぁ理にかなってますね」
「まずい所に入っちゃっても『迷ったんです』とか言えるしねー」
そんな時、モコナが何かを感じ取ったらしく声をだした。
「…小狼、右行って」
「うん」
羽根の気配を察知したのだろう。モコナは余計なことは一切言わず真剣に方向を指示する。
「次左…」
「……」
「止まって」
モコナの言葉に一行は足を進めて止めた。
「うん、この辺りが一番強い。サクラの羽根の波動」
「何もねぇぞ」
「壁よ、モコちゃん」
「…?」
黒鋼とサクラの言う通り、ただの壁だ。
おなまーえは皆より少し前に出て、壁にピトッと手と頬を当てる。触った感じもただの壁。向こう側に空洞があるわけでもなさそうだ。
「何も感じないし、向こうに空間があるわけでもなさそうです」
「でも、ここから感じる」
モコナは目を開けて正面を見据える。
「ちょっといいー?」
ファイも壁をぺたりと触る。
この手のことはファイの方がずっと詳しい。
「あー、これ魔法壁だよ」
「結界の一種みたいなものですか?」
「うん、黒っちこの本棚をこっちに動かしてー」
「ああ?何で俺が、めんどくせー」
「『お願いー、おとーさん』」
「『しょうがないなぁ、ファイかーさんの頼みなら』」
「……っ」
モコナの声真似は黒鋼には効果絶大のようで、拳を握り震えていた。怒りで震えるなんて本当にあるのか、と他人事にそれを眺める。
「ささ、その怒りを本棚にー」
「くっそー!」
黒鋼は本棚に八つ当たりした。びっしり本が詰まっているのでかなりの重量のはずなのに、本棚は少しずつ動く。
――ズズズッ
本棚が動くと、それがスイッチになっていたかのように奥へと続く道が現れる。中は洞窟のようになっていて少し薄暗い。
「道が…」
「この本棚とこの本棚で魔法壁をつくってたんだよー。だから位置を動かすと魔法がズレて壁の向こうが現れる」
「すごいです、ファイさん!」
「どうやって見破ったんですか?」
「んー、このくらいはちょっと魔法の勉強したことあればわかるよー」
「……」
黒鋼は訝しげにファイを見た。
「けど動かしたのが感知されたらソルダートとやらが来ちゃうかも」
「急いだ方がいいですね」
小狼が頭の上にいるモコナに確認をとった。
「モコナ」
「うん、サクラの羽根こっちにあるよ」
一行は奥へと歩み始めた。