第10章 レコルト国
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モコナとともに図書館に戻り、皆で情報を整理する。羽根に関する情報を何も得られなかったおなまーえとは異なり、ファイとサクラ、そして小狼は確実に羽根への手掛かりを手に入れていた。
「『記憶の本』?」
「って呼ばれてるんだってー」
「手にした者の記憶を写し取って、次に開いた者にそれを見せる本」
「それで黒鋼さんの過去を小狼くんが見てしまって、倒れたと?」
「はい…」
小狼はチラリと黒鋼に視線を向ける。
「…なんだ?」
「…いえ」
いつも通りの黒鋼に小狼は安心したようだ。その2人をみて、ファイも安心したように笑う。
「……」
「…なんだよ」
「んーなんでも」
「いかにもありそうに言うな」
ファイは先程小狼が見たという記憶の本の模写を差し出した。表紙にはサクラの羽根に似ている模様が描かれている。
「これが小狼くんの読んだ本なんだけど、複製なんだってー」
「これが複製となった元の本みたいです」
サクラはもう一枚、紙を差し出した。複製元となった本の表紙にはサクラの記憶の羽根がそのまま標本にされていた。
なるほど、これは確かに歴史的にも文学的にも価値のある書物として、複製がなされるのもよくわかる。
「どこにあるんですか!?」
「ん。それも調べてきたよー」
「中央図書館だそうです」
「それはさっきの図書館とは…」
「違うみたいです」
「この国で一番大きい図書館でね。ちょっと大変な感じなんだよー」
「遠いんですか?」
「乗り物に乗って移動しなきゃいけないんですって」
「何日もかかるような場所にでもあるんですか?」
「そんな事はないみたいなんだけど…」
「だったら何が大変なんだよ」
はっきりと言わないファイとサクラに黒鋼が苛立つ。
「なんかね、貴重な本ばっかりある図書館でー、盗もうとするのとかもいるんだって。だから悪い人が悪いことしないように」
「すごい番犬さんがいるんですって」
「……」
「……」
「……それって、黒鋼さん?」
「誰が犬だ!!」
情報整理してから初めてのおなまーえの発言は、黒鋼に盛大にツッコミを頂いた。
**********
今日はお金がないからということで、皆で一つの部屋を借りてまとめて寝ることになった。
各々床につくころ、おなまーえはそっと部屋を出ようとする。
「…どこにいく」
どうせ起きているだろうとは思っていた。
自身の腕を枕に横になった黒鋼は目を閉じたままこちらに問いかける。
今起きているのは三人。おなまーえと黒鋼と、それから話しかけるそぶりすら見せないファイ。そのくらい、気配でわかる。
「少し外の空気を。眠れないので」
眠る必要がないので。
血が通い、嘘みたいに心臓が鳴っているのに、私の体は睡眠を必要としない。休息も栄養も、私にとっては必要のないもの。
「……あまり遠くには行くなよ」
「はい」
黒鋼は察しはいいが魔術には詳しくない。きっと私の悩みなんてこれっぽっちもわかっていないだろう。それが好都合だ。
小狼もサクラも自分たちのことでいっぱいだから私のことは気にかけない。モコナもこんな悲しいことには気がつかない。
ただひとり、ファイだけは、私の体のことに気がついているかどうかわからないのだが。
屋上から外に出る。
植物園のようになっていて、見たこともない不思議な植物がそこかしこに生えている。これも魔法の植物なのだろうか。
おあつらえむきのベンチがあるので腰をかけて夜空を見上げる。
「……はぁ」
ため息が出るくらい綺麗だと思った。
どれ一つをとっても数億年の歴史があって、それがより集まってこの景色が見える。ただの恒星の集合体といえばそれまでだが、太古から星は羅針盤の役割も果たしていた。羅針盤とは方角を指し示すもの。未来を導くもの。
であれば教えて欲しい。私はどうするべきか。
神様がいるのなら教えて欲しい。私はもう助かる術はないのか。
「…おなまーえちゃん」
「!」
追いかけてくるとは思っていなかったから少しびっくりした。
ファイはいつもの笑顔で笑いかけてくれる。
「眠れないの?」
「はい。ピッフル国でたくさん寝てきてしまったので。ファイは?」
「オレも似たような感じー。隣良い?」
「どうぞ」
丁寧にブランケットまで持ってきてくれて、私を普通の女の子扱いしてくれる彼がどうしようもなく嬉しかった。
「初めて会った日の夜に似てるねー」
「阪神共和国でも屋上でこうして話をしましたもんね」
「でもあの時とはいろいろ変わったよねー。黒様ももっとツンツンしてたし、小狼くんは全然笑わなかったし、サクラちゃんはちょっと危なかったしー」
「ファイは変わりませんね」
「そう?この前黒様に変わったって言われたんだけどー」
「……変わりませんよ」
「……」
「未だに、何考えてるのかわからないです」
「……」
何を考えているのか、どうしてそんな笑顔を貼り付けているのか、私にはわからない。他に構ってる暇なんてない私は、それを暴くつもりはないけれど。ただ好きだというだけで、それ以上踏み込む度胸がなかったのだ。
だから私は別の話題をふる。
「…そういえば昼間、魔法教えてくれるって言いましたよね」
「ちょっとだけど基礎くらいなら教えてあげられるよー」
「お願いします!」
屈託のない笑みを向ける。
「攻撃魔法の基礎は炎系でー、まず…」
夜はまだ続く。
少女の心も青年の秘めた想いも包み隠したまま。
刹那の安らぎは舞い落ちる花弁のように。