第9章 ピッフル国
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やぁ、君とは初めましてかな。
ボクの名前はキュゥべえ。よろしくね。
おなまーえのことが心配だと思うけど、彼女なら大丈夫。
魔法少女はそんなヤワな造りはしていないからね。
え?どう言う意味かだって?
簡単なことだよ。
魔法少女の役割は魔女を倒すこと。ただの人間と同じ壊れやすい身体のままで、魔女と戦ってくれなんて、とてもお願い出来ないよ。
魔法少女にとって元の身体なんていうのは、いわば外付けのハードウェアでしかないんだ。心臓が破れても、ありったけの血を抜かれても、その身体は魔力で修理すればすぐまた動くようになる。
だから魔法少女になる子は、みなソウルジェムを大事にして戦ってるんだよ。
無駄話が過ぎたね。
挨拶だけで終わらせようと思っていたんだ。ほんとだよ。
ボクの想定よりも随分と時間がかかったけれど、おなまーえはもうすぐ風見野に帰ってくる。ボクは嘘はつかないからね。
じゃあまたね。
**********
「あちゃー…」
地面に落下したときの衝撃で腕の骨が折れた気がする。というか、確実に折れている。麻痺しているのかはわからないが、痛みはほとんどない。でも腕が変な方向に曲がっているから、きっとこれは骨折。
(……心配かけたくないから)
幸い、まだエンジンから吹き出ている黒煙のおかげで私の腕は誰にも見られていない。
おなまーえはポケットにしまったコンパクトにそっと魔力を注いだ。淡い光と共に、腕はみるみるうちに治っていく。
「……」
これが魔法少女の特性。どんな怪我でも魔力を注げばすぐに治る、便利な体。
幼い頃から魔女と戦ってきたおなまーえは、その程度の認識でしかなかった。彼女はまだ、ソウルジェムの正体を知らない。
**********
救出され、医務室で検査をされ、問題ないと開放されるまではわずか10分ほどだったのに、その間にレースは目まぐるしく展開していく。
ファイはうねるチューブが暴走し、それに巻き込まれて落下。幸いチューブが柔らかい素材だったため、怪我はなかったようだ。
小狼も別のドラゴンフライの事故の破片に当たり落下。本当は避けられたように見えたけど、後続のドラゴンフライに気を遣ったようだった。
「ファイー、小狼くーん」
「おなまーえさん!」
「おなまーえちゃん怪我はー?」
「なんともないですよ、運が良かったみたいです」
「……」
小さじいっぱいの嘘。
私の運はそんなに良くはないし、魔法が使えるのもあと少しだけな気がする。まだ目視はしていないけれど、ソウルジェムの濁り具合は想像に難くない。
「テレビで全部見てました。あとは黒鋼さんとサクラちゃん次第ですね」
――ゴォオ
「「「!?」」」
サクラと黒鋼を見守る三人だけでなく、選手、そして全視聴者が顔を強張らせた。
――ザバーン
太い水の柱。
突如湧き上がったそれに、サクラは反応ができなかった。それまではどんな間欠泉も持ち前の直感で易々と躱していたのに、それだけは避けることができなかった。
それを見た黒鋼は咄嗟に『庇う』という行動に出たのだ。
『もう間欠泉地帯は抜けたはずですが、いきなり噴き上げて来ました!直撃した黒たん号、大丈夫でしょうか!?』
黒鋼の乗るドラゴンフライは見るも無残に砕かれ、水面に破片が浮かんでいる。皆が見守るなか、水面からぷはっと黒鋼が顔を出した。本人曰く、怪我はないようだ。
一同はほっと胸を撫で下ろした。
『予選第1位の黒たん号、残念ながらゴール間近でリタイアです!』
「黒鋼さん…」
ロビー内のざわめきが止まらない。やはり彼が優勝すると考えていた者も多かったようだ。
――カタン
ファイが席を立った。
「黒様もここにくるでしょー?だからちょっと行ってくるよー」
「なんでですか?」
「んー、ちゃんとお医者さんに診てもらわないでしょ、黒りんはー」
「え、でも今怪我はしていないって…」
「意地っ張りなんだよー、お父さんは」
「……」
私も腕骨折したのだけれど。
ファイは私のことは心配してくれないの?
心配かけまいとして魔法で治したけれど、やっぱりちゃんと治療してもらったほうがよかったかな、なんて意地の悪いことを考える。
「サクラちゃん応援してあげて。オレと黒たんの分まで」
彼はロビーを出て行ってしまった。言われた通り、小狼はモニターに映るサクラを真剣に見つめていた。
**********
レースは終盤。
最後の滝の試練に突っ込み、見事ゴールテープを切ったのはサクラだった。
『ゴォォ――ル!!初出場のウィング・エッグ号、優勝です―――!!!』
「やったぁーー!!!」
ロビーが大きな賑わいをみせる。おなまーえも両手を上げて喜んだ。
「サクラちゃんすごいね!」
「うん、本当にすごい」
画面を見守る小狼は、まるで自分のことのように誇らしい顔をした。おなまーえはそれを暖かい目で見守る。
今回、自分はなんの成績も残せてないけれど、こうしてサクラと小狼の笑顔が見れただけでも嬉しい。
『本当ワタシってば、役立たずね』
「え?」
不意に声が聞こえた気がして振り返る。
「どうしました?おなまーえさん」
「今、誰かに話しかけられたような…」
しかしみんながサクラの優勝を讃える中、おなまーえに話しかけたものはいない。
「何か声が聞こえなかった?」
「すみません、おれは聞こえなかったです」
「……気のせいかな」
幻聴まで聞こえるなんて、相当疲れてるのだ。きっと夜更かしして慣れない練習なんてしたからだ。
賑やかな声が少し耳障りだ。心なしかめまいもする。だからきっと、これは疲れてるだけ。
私は役立たずなんかじゃない。