第9章 ピッフル国
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――プロローッ
小狼たちが帰って来る音がした。朝から仮眠をとり、だいぶ頭痛も引いたのでおなまーえは外に出る。
「おっかえりー」
「おかえりなさい」
ドラゴンフライの整備をしていた黒鋼とファイは手を止めて小狼の方をみた。
「ん?何かあった?ここんとこぎゅーってまたなってるよ、小狼君」
ファイが自身の眉間を指差して教える。たしかに、何か考えているような表情だ。
「マーケットで会った人が…」
小狼が口をひらき、話し始めた時。
――めきょっ
突如モコナの目が見開かれ、額からまばゆい光を放つ。
「「「「「!?」」」」」
空間に投影されたのは一度会ったことのある彼女だった。
「「「次元の魔女!?」」」
「侑子!!」
突然の侑子の登場に一同は驚く。モコナはとても嬉しそうだ。
「どうしたの、侑子!」
「ちょっと用があったの」
「用ですか?」
素直に聞き返す小狼に対して、黒鋼はとても警戒している。
「…服は?」
「あぁ!?」
「元いた国での服はどうしたの?」
「紗羅ノ国に置いてきてしまったんです」
小狼が丁寧に返す。
「白饅頭が無理矢理別の国に連れて来やがって」
「戻ってもそのまま、すぐこのピッフル国に移動しちゃったからねぇ」
「まぁ無くても困らないけど、アイデンティティ的にちょっと物足りませんよね」
侑子が画面端に寄る。奥には一行の服を丁寧にハンガーにかける少女が2人いた。
「「!」」
「私の服!」
サクラが叫ぶ。
「紗羅ノ国から回収しておいたわ」
「侑子すごいー!!」
「ありがとうございます」
小狼が頭を下げる一方、黒鋼が乱暴にそれを要求した。
「さっさと寄越せ」
「だめよ」
「え?」
「なに?」
「これは一度、貴方達の手を離れて今はあたしの元にある。返して欲しいならば対価がいるわ」
「なんだと!?屁理屈こねやがってー!」
「まーまー、お父さん」
「だからソレやめろ!!」
黒鋼の不信感は怒りに変わる。怒っていてもツッコミは健在らしい。
「そもそももう取りに戻れないって思ってたとこじゃないですか。チャンスがあるだけまだマシですよ、黒鋼さん」
「何をお渡しすればいいですか」
小狼が問いかける。
「…この服に見合うものを」
「「見合うもの…」」
つまりそれは送り主のセンスも問われるということで、なかなかに難しい課題だ。小狼とサクラは真剣に見合うものを考え始めた。おなまーえも考えるが、彼女がもらって嬉しそうなものが思いつかない。
「考えついたらモコナに言ってあたしを呼び出しなさい。それまで預かっておくわ」
「はい!」
「保管期限はどのくらいですか」
おなまーえが問いかける。
「特には設けてないけど、でもあんまり長く待たせると流しちゃうかもね。質流れみたいに」
「え!?」
「質草かよ!?」
「やっぱり…」
「「質流れ?」」
サクラとファイは意味が分からず首をかしげる。
「要件は終わったわ」と言って通信を切ろうとする侑子をサクラが呼び止めた。
「あ、あの!」
「…何かしら?」
「最初の時は私眠ってて、高麗国の時はまだ半分夢の中みたいで。だからお会い出来たらお礼を伝えたいって考えたんです。モコちゃんを貸して下さって有り難うございました」
サクラは一生懸命に気持ちを伝え、頭を下げた。侑子は優しい笑みを浮かべてそれを聞いている。
「……旅はどう?」
「一人だったらきっと辛かったと思います。でも…」
サクラが振り返って一同を見渡す。
「一緒だから」
満面の笑みを浮かべた後、恥ずかしそうに肩をすくませ、彼女は続けた。
「でも、まだいっぱい眠っちゃって役に立ててないんですけど」
「……」
小狼はそれを見守るように優しい目でサクラを見る。
――バタンバタバタ
「……来たわね。じゃあまたね」
画面の向こうが慌ただしくなる。きっと店にお客さんでもきたのだろう。
「そうそうホワイトデーも。あんまり遅いと刀とイレズミも質に入れちゃうから」
そう言い残すと、今度こそ侑子は通話を切った。
「んだとー!?」
「モノがあるだけいいじゃないですか。私のグリーフシードはもう帰ってこないんですよ」
怒る黒鋼を宥める。
「楽しそうですわね」
「あ?」
「お空から声がするー?」
不意に上空から声がした。一行は顔を上に向ける。
「「「わあ!!」」」
そこにはピッフルGOに乗る知世がいた。
一行は作業の手を休め、ティータイムに入った。サクラとファイが作ったシフォンケーキに、おなまーえが淹れた紅茶を添えて、皆でテーブルを囲む。
知世がシフォンケーキを一口食べる。
「美味しいですわ」
「それはサクラも一緒に作ったんだよ」
「素晴らしいですわ」
知世が褒めたので、サクラは少し照れる。
「サクラちゃん、最近料理の腕前、急上昇中なんだよねー」
「ファイさんとおなまーえちゃんが分かりやすく教えてくれるから」
「ほとんどファイだよ」
ファイの「サクラちゃん呼び」を聞いた知世は、紅茶を置いて尋ねた。
「私もサクラちゃんとお呼びしてよろしいですか?」
「もちろん。私も知世ちゃんって呼んでもいいですか?」
「はい。もちろんですわ」
可愛らしく、それでいて周りを和ませるような笑顔を浮かべる2人。それを少し離れて見ていたファイとおなまーえはそれぞれ感想を漏らす。
「いいねー可愛い女の子が笑顔全開でー。んーお花畑?」
「尊いですよね」
「モコナも笑顔全開ー。ほらほらーモコナもかわいいー」
「はいはい、そうだね」
おなまーえはモコナの頭を撫でる。
「おなまーえちゃんは混ざらなくていいのー?」
「私は遠慮します。私は…姫って柄じゃないし」
そうなりたいと願った幼少期があったけど、そんな経済力も器量も美貌も持ち合わせてはいない。あくまでお伽話の中での憧れだ。ただの普通の女の子でしかない私は、それ以上にもそれ以下にもならない。
小狼たちの方に目を向けると、予選レースでの事故について話をしていた。
「予選レースに不正があったというのは事実なんでしょうか?」
「残念ながら」
「何かお手伝い出来る事はありますか?」
「ありがとうございます。でも不正を防げなかったのは我が社、ひいては社長である私の責任。現在我が社の調査部がレース出場者及び関係者の調査に入っています。誰があんな事をしたのか突き止めて、必ず捜し出しますわ」
彼女はテーブルの上で手を組み、真剣な表情で告げた。
「……知世は今日はそのお話で来たの?」
ファイの肩の上にいるモコナが問いかける。
「いいえ、実は…」
知世はすくっと立ち上がった。そのまま前のめりになり、サクラの両手を挟み込むように掴む。
「…サクラさん!本選では何をお召しになりますの!?」
「え?」
シリアスな話から一転、いつもの知世ちゃんに戻る。その変わりように、サクラはきょとんとしている。おなまーえは苦笑した。
「もう決めてしまわれました?」
「ま、まだだけど…」
「でしたら是非是非!私に作らせて下さいな!超絶可愛いサクラちゃんにぴったりなレースコスチュームを考えましたの!」
キラキラとした目で話す知世は年相応に見える。
「私の作ったコスチュームを着て、颯爽と空を駆けるサクラちゃん!素晴らしいですわー!」
「モコナも欲しいー」
「お任せ下さいな!」
お花を撒き散らしながら話す知世は本当に楽しそうだ。サクラの同意を得ると、知世は今度はおなまーえの方にくるりと振り向き、ツカツカと歩いてきた。
「おなまーえさん!!」
「は、はい!?」
その迫力に思わずおなまーえは仰け反る。
「貴女のお召し物も考えましたの!」
「えっと」
「是非着て頂きたいのですわ!!」
手を握られ逃げられない。横からファイが声をかけた。
「オレからお願いするよー。この子すっごくシャイだからー、かわいーやつお願い」
「ファイ!!」
「かしこまりましたわ!おなまーえさんの人気は凄まじいですもの!」
「え?え?なんの話!?」
「あら、ご存知ありませんの?おなまーえさんは予選後のトレンドでナンバーワンを獲得されてますのよ」
「はあぁ!?」
あれよあれよと言う間に知世は最高の笑顔で採寸をし、嵐のように去っていった。
ぐったりとしたおなまーえは目を白黒にさせて、うわ言のようにファイに恨み辛みを聞かせていた。