第9章 ピッフル国
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『更にスピードを上げる先頭集団!それぞれ見事にドラゴンフライを操っています!』
自分の機体に変な名前をつけられた黒鋼の怒りはレースに向き、彼のスピードがそのストレスを表している。
『って、いきなり後ろからぶっちぎりだー!強引に飛び出したのは「黒たん号」ー!!』
「だからその名前は呼ぶな!!」
しかし活躍すればするほど、彼のストレスは溜まる一方のようだ。
「黒たんが道作ってくれるから楽だねぇ」
「そうですねー」
黒鋼が雲を掻き分け、風をきってくれているため、後ろのおなまーえとファイは快適に進むことができる。
「そういえばおなまーえちゃん、毎晩黒たんとドラゴンフライの練習してたよね」
「え、な、なんのことですか」
黒鋼がファイに知られたくないと言っていたため、しらを切る。
「オレよく窓から見てたんだよー?」
「え!」
とても恥ずかしい。何度も転んでいたのを見られていたとは。
「…オレのこと頼ってくれてもよかったのにね」
「え?なにかいいました?」
彼の呟きは風の音にかき消されてよく聞こえない。
「なんでもないよー。そろそろ黒様見失っちゃうからスピード上げるよ」
ファイはふにゃんと笑い誤魔化した。宣言通りスピードを上げて前進する。
「ちょっとなんなんですか!」
おなまーえもそれについていくようにスピードを上げた。
**********
『そろそろ先頭集団はーー!?』
おなまーえは多少遅れはとっているものの、先頭集団にくっついていた。
『ゴールです!!』
黒たん号がゴールした姿が見えた。おなまーえもこのままいけば無事予選は通過できるだろう。最後の直線距離。彼女はスピードを維持したまま、難なくゴールに入り込んだ。
『上位20位までが本戦に出場出来ます!今8位まで決まりましたー!!残り12人ー!』
8位。なかなかな好成績に満足した顔をした。おなまーえはゴールの先にある着陸地点に向けてゆっくり高度を下げていく。
――ぱぁんっ!!!
突如、後方で破裂音が響き、会場にどよめきが起こった。
「「「!?」」」
『おおっと、どうしたー!?調整に問題があったかー!?』
急いで着陸して後ろを振り返る。ゴールの手前一帯が煙幕で見えなくなっていた。選手たちは前後不覚となり、なかなか煙幕から出てこない。それでもレースは中止されないようだ。
ファイと黒鋼の姿を探し、おなまーえは2人の元に駆け寄った。生中継のモニター映像を通して、小狼とサクラの姿を探す。煙幕からモコナ号に乗った小狼が飛び出してきた。
『11人目が入った!後9人だー!』
「「やったー!」」
あとはサクラだけだ。小狼が走ってこちらに向かってくる。
『後3人!!』
『後2人!!』
続々と煙幕を抜けてゴールに走る参加者の中に、サクラの姿はない。一同は祈る気持ちでモニターを見つめる。
『後1人ー!!』
「「!!」」
煙幕から二つの影が飛び出して来た。うち一つはサクラの乗るウィング・エッグ号である。
『ほぼ同時かー!?』
おなまーえは胸の前で手を合わせて固く目を瞑った。
『20人目はどっちだー!?』
二機のドラゴンフライはほぼ同時にゴールに入ってきた。
『カメラ判定です!!』
会場がざわめく。
モニターに、ゴール上のカメラの映像が映し出された。リプレイのドラゴンフライはコマ送りで徐々にゴールラインに向かっていき、ピタッと停止する。僅かにゴールラインを先に踏んでいたのは…
『ウィング・エッグ号だー!!』
歓声が湧き上がる。
「サクラちゃんもさっすがー」
「やったー!!」
「これで予選とやらは通ったな」
「5人ともね」
「無事にいくといいですけどね」
モニターに映るサクラは、最後ゴールを競い合った相手と握手を交わしていた。
**********
レース終了後、夜。
「5人揃って予選通過ということで」
「「かんぱーい」」
全員が無事に予選通過を果たし、ささやかながら祝賀会を催していた。
「あー黒鋼先に飲んじゃってるー。いーけないんだー♪」
「ふん」
黒鋼とファイはもちろんお酒のボトル、それ以外はコップにジュースを入れてでの乾杯だった。モコナの指摘通り、黒鋼はすでにだいぶ飲んでいる。
「でも、サクラちゃん頑張ったねー」
「ありがとうございます」
「モコナも楽しかったー。ジェットコースターみたいで」
「なかなかスリリングなジェットコースターだったね」
おなまーえはコップに入っているジュースをグイッと飲み干した。
「でもびっくりしたねぇ、途中でなんだかいっぱい墜落しちゃって」
「ドラゴンフライは調整が難しいらしいですし」
「んーでもねー、後で予選通過した人に聞いたんだけど、あんなにリタイアが多かったのはないって言ってたよ」
「なんか仕掛けでもあったってのか?」
黒鋼は頭に疑問符を浮かべる。
「それはわかんないー。リタイア続出したのオレ達がゴールした後だったしー。小狼くんは何か気付かなかった?」
「いえ、飛んでくる他の機体の破片を避けるのに…」
「集中してたもんねぇ。じゃあサクラちゃんは?」
サクラは満面の笑みを浮かべた。
「キラキラしてました!!」
「…キラ、キラ?」
小狼が思わず聞き返す。
「うふふ、キラキラ!」
彼女はガタンと立ち上がり、全身を使って話し出した。
「煙がね、キラキラしてたの!風に乗って飛んでたの!その中をびゅーんて飛んだの!!」
「「びゅーん、びゅーん♪」」
モコナと手を繋ぎ、くるくると回りながらびゅーん♪を繰り返す。
「ひ、姫!?」
「……」
黒鋼は冷汗をかき、ファイにいたっては笑顔が硬直している。小狼はサクラの変わりように戸惑っているが、背筋に何か嫌な気配が走るのを感じ取った。
「そうだ!飛ばなきゃ!!」
「飛ぼう!!」
「姫ー!?」
サクラは可愛らしい顔で宣言し、外に飛び出て行ってしまった。小狼もそれを追いかけて外に出る。
「…これ、お酒入ってるー」
「何!?小僧と姫には飲ませるなっつっただろ!!」
「モコナのにも入ってるからー、犯人はモコナかなー」
ファイはクンクンとグラスの匂いを嗅ぎ、犯人を突き止めた。
「おなまーえちゃんは大丈夫ー?」
先ほどから一言も発していないおなまーえに、ファイが声をかける。彼女は部屋の片隅に縮こまっていた。
「おなまーえちゃんー?」
おなまーえが顔を上げた。頬は赤く染まり、目が潤んでいる。再び嫌な予感がした。
「ファイ、ぎゅーって、して?」
――ピシッ
ファイの笑顔が再び固まる。
「………おなまーえちゃん、お部屋で一緒に休もっかー」
「てめぇはナニする気だ!?」
小狼の悲鳴に近い叫びが外から聞こえた。
「だめです!姫!!」
「小狼君も一緒に飛ぼう!」
エンジン音とともに元気なサクラの声が聞こえる。黒鋼の額の青筋が増えていく。
――ぷすんぷすん
「わ―――!」
――ヒュルルー
エンジンの故障音がし、そして何かが落ちる音がした。
――ガッシャーン
トレーラーが大きく揺れる。
「……押さえてろよ小僧!」
うがーー!と叫び、黒鋼はサクラ確保に向かった。
「お父さんの出動だー、いってらっしゃーい」
「らっしゃーい」
「お前もそこの小娘なんとかしろ!」
「えー」
「えーじゃねぇ!えじゃ!!」
おなまーえがファイに後ろから抱きつく。
「もー、黒様も困ったもんだよねー」
「ん…?」
「うん、おなまーえちゃんもおやすみしよー」
「うーん…」
「……今日疲れたでしょ?もう休もうよー」
「やだ♡」
「もー…」
ファイによるおなまーえの説得がはじまった。