第9章 ピッフル国
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――ポン
――ポン
――ポポン
あちこちで、小さく花火が打ち上がる。とうとうレース初日になった。
会場には多くの人が足を運んでいる。おなまーえは、ファイと小狼とモコナとともに受付でエントリーをしていた。
「ドラゴンフライの名前は何になさいますか?」
「自分で考えてもいいんだー。じゃあ、この黒い人のは『黒たん号』でー」
「ファイ、また怒られますよ?」
「かしこまりました」
受付のお姉さんがサラサラと綺麗な字で書いていく。
「サクラちゃんのは卵っぽいので『ウィング・エッグ号』とかどうですか?」
「イイね。空飛ぶ卵って感じするー」
「小狼くんは何か希望ある?」
「おれは特に…」
「ねぇねぇ。アイドルがここにいるよ?♡」
「じゃあ耳がモコナっぽいから『モコナ号』ねー」
おなまーえとファイのセンスでぽんぽんと名前がついていく。
「おれのは適当に『ツバメ号』でいいやー」
「それ、見本まんまじゃないですか」
「ファイつまんなーい」
名付け例の一覧を見せてもらい、ファイは見本の一番下に書いてある名前をセレクトした。
「おなまーえちゃんはどうするのー?」
「私はもう決まってますよ。」
「あいらぶモコナ号とかー?」
「残念だねモコナ。『キュウべぇ号』だよ」
**********
「エントリーして来たよー」
「よー」
人混みをかき分けて、なんとかサクラと黒鋼の元に戻る。
「なんかねー、レースって2回あるみたいー」
「あぁ?」
「予選と本戦の二回ですわ」
ボディーガードを従えた知世が人混みの中を悠々と歩いて来る。これで会うのは二回目である。
「まず今日行われるのが予選。その予選に勝ち残った方が本選に進む事が出来ます」
知世姫はレースのポスターに目をやる。
「そして本選で優勝した方が、あのエネルギーバッテリーを手に入れる事が出来る」
私たちの目的、そしてレースに参加する人たちが求めるもの。それがサクラの羽根である。噂ではこの街の電力を全て賄えると言うのだから、参加者が増えるのも当然であろう。
「と、いうわけで…」
真剣な空気から一転して、知世はビデオカメラを構える。
「さっそく撮らせて頂きますわー♡」
「わわっ」
「モコナも撮ってー♡」
彼女はハートを撒き散らしながら、サクラにシャッターを向けている。サクラも満更でもない顔だ。
「あはははー。知世ちゃん面白いねぇ。おなまーえちゃんも行かなくていいの?」
「いいんです。あんな可愛いポーズできませんし」
おなまーえがそう答えた瞬間、知世がこちらに向かって声をかけてきた。
「おなまーえさんもご一緒に!!」
「いや、私は……」
「さぁさぁ!」
「ちょっと待ってって!」
「まぁまぁ行きなって」
「ファイまで…!」
**********
『さぁ!始まります!ドラゴンフライレース!!』
歓声が上がる。会場内は外とは比べ物にならないくらい賑わっていた。実況者を乗せたドラゴンフライが大きく旋回した。あたりには紙吹雪が舞い、花火が上がっている。
もう間も無くレーススタートだ。
知世に散々写真を撮られて満身創痍なおなまーえは目を瞑り、黒鋼との特訓のときの感覚を思い出していた。
『今回は豪華賞品の為か、参加者も過去最高!しかし、この予選で20位以内に入らなければ、本選には進めません!』
「何か、見たことある顔いっぱいだね」
「え、ええ」
モコナとサクラの声に目を開けて周囲を見渡した。参加者の中には、今までの国で見たことのある顔ぶれがちらほらいる。しかし、皆顔が自信に満ち溢れていて相当な猛者であることが伺える。
『お待たせしました!皆様!時間です!!』
一際大きい歓声が上がった。
おなまーえは頭につけていたゴーグルを装着する。
『チェッカーフラッグを振るのは、我がピッフル国が誇る総合商社「ピッフル・プリンセス社」の若き社長、知世=ダイドウジ嬢!』
大きな飛行船の頂上に立つ知世に注目が集まる。
彼女がチェッカーを大きく振った。
『ドラゴンフライレースのスタートだーー!!』
――ゴオッ
ドラゴンフライが轟音をたてて一斉に飛び立つ。
おなまーえもアクセルをぐっと踏み込み、好調なスタートを切った。
『さあ!豪華賞品を手に入れるのは一体誰なのか!?ドラゴンフライが綺麗に飛び立ちま…!』
実況の声が途切れる。
『さっそく一機失格か――!?』
振り向くと少しずつ高度を下げる、サクラのウィング・エッグ号が見えた。小狼がそれを追いかける。
「サクラちゃん…」
「のっけからかよ」
「……」
この高さから落ちたらまず無事では済まない。下にクッションを用意してくれているとはいえ、100%安全とは言い切れないのだ。
恐怖からおなまーえは硬直する。それを見た黒鋼がすかさず声をかけてきた。
「おまえ、何のために今日まで練習してきたんだ?」
「あっ…」
「姫は大丈夫だ。いいから前を向いてろ」
おなまーえは気を取り直し、正面をしっかりと見据えた。黒鋼について行くことだけを考える。
『いや!持ち直しましたーー!!』
実況者のアナウンスでおなまーえはホッとする。黒鋼は彼女を一瞥し、サイドミラー越しにサクラの様子を伺った。
――ブォオン
「サクラちゃんとおなまーえちゃんのこと心配してるんだー!やっさしー!」
「ファイ!」
「やっほー」
「……」
ファイが黒鋼とおなまーえの元に追いついた。黒鋼はそれに答えず、アクセルを全開にしておなまーえとファイを突き放す。
「待ってよーぅ」
「黒鋼さん早いです!」
「これは勝負だろうが。無駄口たたくな」
「んー、それもそうだねー。んじゃ…」
――ブォォン
今度はファイが2人を突き放すようにアクセルを踏み込んだ。
「……最初から真面目にやれ」
「ちょ、ちょっとまってよー!」
おなまーえも出来るだけアクセルを踏み込みスピードを上げた。
『混戦模様のこの予選。おーっと、飛び出して来たのはーー!?』
先頭組みが雲の中から飛び出す。
『やはりドラゴンフライレース上位入賞常連組だー!』
実況は興奮して身を乗り出す。
『っと、続いて飛び出して来たのはー!?今回初エントリーの二人!』
すぐにその2人が誰かわかり、おなまーえは雲の中アクセルをさらに強く踏み込む。
『「ツバメ号」と「黒たん号」だー!』
おなまーえは視界が急に明るくなり目を細める。雲から出て最初に見た光景は、少し遠くを走る黒鋼とファイだった。
『それを追いかけるは、またもや今回初エントリー!「キュウべぇ号」ー!』
前から黒鋼とファイの会話が聞こえてくる。やはり『黒たん号』と言う名前はお気に召さなかったようだ。
『突風でーす!!ドラゴンフライは非常に軽量です!その為風の影響を受けやすい!!』
実況の緊迫した声とともに強い風がドラゴンフライに襲いかかった。
おなまーえは大きく左に旋回することでなんとか凌ぐ。
この風で多くの機体が脱落している。直撃してしまえば操縦不能となり、下手したら命を落としかねない。そして突風は小狼にも襲いかかった。
『よけられるかーー!?!』
彼は機体を一気に上昇させ、風を回避した。
「『ひゅー』さすが小狼君。いつもみたいに"まだまだ"とか言わないの?」
「ふん」
「サクラちゃんは!?」
おなまーえの声に3人とも後ろを振り向く。
『これはすごいー!初エントリーのウィング・エッグ号、見事なターンです!!』
彼女は持ち前の直感で風を読み、難なくターンして注目を集めていた。
「サクラちゃん、かっこいー」
「よかった」
「……」
黒鋼が安心した表情を浮かべたが、それに気づいたのはおなまーえだけだった。
『おお!知世社長にスポットが!?』
賑やかな会場がさらに盛り上がりを見せた。実況の声に、選手たちは視線だけ知世に向ける。彼女の手のひらには見覚えのある方羽根が乗っかっていた。
『こ…これは!今回の優勝賞品、エネルギーバッテリだー!!』
羽根は球体に守られており、一筋の光を放っている。
『あの光の指し示す塔が、予選のゴールだぁ!』
おなまーえはハンドルを握る手に力を込めた。
『さあ!あのバッテリーは一体誰の手にー!?』