第7章 偶像の国
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ひとまず害がないことは分かったため、事情を聞いてから判断をすることになった。一行は小狼に倣って火を囲む。
「魔物がいるんだそうです」
「魔物?」
「この森を抜けて更に奥の樹海に。突然現れてこのひと達の住んでる所を荒らし廻って…」
「みんなで戦った」
「けどぜんぜんダメ」
モコモコは耳を垂らしながら続ける。
「あの恐ろしいもの、イケニエささげろっていった」
「おいしそうなイケニエ渡したら、もう森、荒らさないって」
「で、おいしそうな小狼君を捧げようとしたとー」
「モコナも美味しそうなのにーぃ♡」
「誰かさんに饅頭呼ばわりされてるもんね」
その誰かさんが口を開いた。
「で、焼いて捧げられそうになったっつうのに、何のんきに飯食ってんだよ」
「その魔物、話を聞いてると本当に急に現れたらしいんです。そして圧倒的な力を持っている」
「今までのサクラちゃんの羽根が絡んだ事件と似てるね」
可愛らしい声が続く。
「あの恐ろしいものが現れないように出来るかもしれないって、これいった。だからほどいた」
「これ、くわしいことが聞きたいといった。だから座った」
「いっしょに座ったら仲間。仲間ならいっしょに食べる」
「なるほどー」
「謎理論だなぁ….」
小狼は頭の上に載っているモコナに話しかける。
「モコナ、羽根の気配は?」
「…うん、感じる。近い」
「魔物退治ってわけか」
黒鋼の口角が上がる。
「黒様、嬉しそー」
「不完全燃焼、解消できますね」
「ふん」
先ほどより明らかにテンションの上がった彼に、一行は苦笑した。
「わたしも行きます」
「姫…」
「足手まといにならないように、頑張ります。一緒に行かせて下さい」
彼女の真剣な目に小狼は優しく頷いた。
「みんなで行くのだめ!」
「だめ!」
「え?え?」
だが、いざ出発というところでモコモコ達が抗議してきた。彼らはおなまーえの服の裾を掴む。
「みんな行って帰ってこなかったら、イケニエがいなくなる」
「ひとり残って!」
思わぬ言葉に、一行は面食らう。この可愛い容姿から生贄という物騒な単語が出てくるのはなかなか不釣り合いだ。
「しっかりしてるー」
「こいつら…」
「可愛い顔してなかなかな要求しますね」
誰が残るべきか、顔を見合わせる。
「モコナを残しちゃうのは、問題かもー」
「あ、じゃあわたし残りますよ」
あっさりとおなまーえが手を挙げ、注目を集めた。
「どうせ私、戦力になりませんし」
「それを言うなら私だって…」
おなまーえはサクラに笑いかけた。
「サクラちゃんは行きたいんでしょ?わたし特別に行きたいってわけでもないですし。お留守番してる方が気が楽なので」
サクラはしぶしぶ納得してくれた。実際ついて行って何かの役に立つ気もしない。ここでおとなしく人質になっていた方が、黒鋼にもファイにも余計な負担をかけさせないだろう。
だがおなまーえの立候補は満場一致では可決しなかった。
「えー、おなまーえちゃん1人残すのは不安だなー。じゃあオレも残っていいー?」
「え、ファイさんもですか?」
「うん。ほら万が一何かあった時に、ね」
万が一ここが魔物に襲われる可能性もある。確かに戦力は均等に分担した方が良い。
「じゃあファイ、おなまーえとお留守番しててね」
「うん。ここで応援してるよー」
3人と一匹は鬱蒼としたジャングルを進んでいく。2人はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
退屈しのぎに、情報収集も兼ねてモコモコ達と交流を深める。彼らはとても愉快な生活をしているらしい。
彼らの文化に触れ、おなまーえは少し疑問を抱いた。こんな熱帯雨林なのに、なぜこの子達はモコモコしているのだろう。マフラーまで巻いてるし。
「みんな今頃なにしてるかなぁ」
ファイがポツリともらした。
「黒鋼さんが大活躍してるんじゃないんですか?」
モコモコが怯えた目で話し始めた。
「あれ、すごく強い」
1匹集まるとワラワラと近寄って来る。
「そばにいけない」
「いけないくらい強い」
「すっごく強いんだね」
「ねぇねぇ、なんでその魔物はあなた達を襲うようになったか、心当たりはあるの?」
「こころ?」
「あー、えーっと……いいや。最近この近くで最近鳥の羽根みたいなの落ちてなかった?」
回りくどい言い方はやめて、単刀直入に聞いた。
「鳥の羽根、ある」
「みせてみせて」
綺麗なものを見つけたらそれを集めていると彼らは言っていた。実に動物らしい習性だ。色とりどりの宝物を運んできたモコモコはそれらを石のテーブルの上に並べる。
――ズラァ
青色の羽根、赤色の羽根、紫色の羽根…彼らは綺麗だったから、とたくさんコレクションしていた。仲間の証に1個くれるという。先ほどまでイケニエと言っていたのに、その次にはナカマなどと、この生き物はかなり矛盾しているようだ。
「あ!」
コレクションの中に見覚えのある羽根が一枚あった。
「やったー!ファイさん見つけましたよー」
「!」
モコモコ達から魔物について詳しく聞いていたファイは、こっちを向いて少し目を見開いた。
「おなまーえちゃんさすがー」
ファイはにへらっと笑って言ったが、すぐに怪訝な顔をしてしまった。一体どうしたのだろうか。
「ねぇ、おなまーえ嬉しい?」
「ん?わたし?嬉しいよー」
「じゃあ踊ろう」
「おど?」
「踊るの。お祝い」
**********
――ドンドコドコドン♪
――ドコドコドンドン♪
「あの、なんでわたしこんな重労働を…」
モコモコ達は火の回りを囲うようにして踊り始めた。彼らの伝統的なお祝いの踊り。くたびれ顔のおなまーえに対し、ファイは楽器まで身につけて彼らに積極的に参加していた。
――ガサガサっ
「ファイさん!おなまーえちゃん!」
「「 あ 」」
おなまーえが呼ばれた方を見ると、魔物退治に出かけた3人がこけていた。大方、煙が見えて私たちが生贄にされていると思ったのだろう。
「お帰りー」
「お帰りなさい」
「何やってんだよ、てめぇらは」
「あははは。教えてもらってたのー」
「お祝いの踊りなんですって」
「どうしてお祝い?」
モコナが首を傾げる。
「それはですねー」
「じゃじゃーん」
ファイがポケットから手を出すと、そこにはサクラの羽根が握られていた。
「羽根!?」
――めきょ
「ここにあったのかよ」
黒鋼が面白くないというようにため息をついた。 そういえば行きの時とイライラ度が変わっていない気がする。
「この子達が持ってたんだー」
「羽根コレクターの子がいるらしくて、落ちてたの拾ったんですって」
「それって魔物が現れた頃じゃないですか?」
「そう?」
「そうかも」
相変わらずモコモコ達は話し方までふわふわしている。小狼が探索の成果を報告する。
「魔物は竜巻だったんです」
「あーやっぱり。この子達から話し聞いてたらそうかなって」
「え、ちょっと私それ聞いてないです」
ファイさんのケチーとおなまーえはファイの背中をポコポコと叩いた。
「生け贄寄こせなんて、竜巻が言ったのかよ」
「それがねぇ、ハイもう一回」
ファイの言葉にモコモコ達が一斉に話し出した。
「あの恐ろしいもの、凄く強い」
「住んでる所、飛んでった。いっぱい倒れた」
「戦っても勝てない」
「勝てないなら、イケニエを出すのはどうか」
「いいかも」
「おいしそうなイケニエ渡したら、もう大丈夫かも」
「きっと大丈夫だ」
「大丈夫って言った」
「誰が?」
「あの恐ろしいものかも」
「あの恐ろしいものだよ」
――せーのっ
「「「「「魔物がおいしそうなイケニエ渡したら、もう荒らさないって言った!」」」」」
「言ってねぇだろ!」
黒鋼のツッコミが華麗に決まった。おなまーえは頭を抱える。 ファイが羽根を小狼に渡し、そのままサクラへと渡る。羽根が彼女の胸に取り込まれた直後、あたり一帯に激しい風が吹きこんだ。
「た、竜巻だーっ」
モコモコたちが慌てふためく。衝撃に備えて、一同は身を低くした。
――ふわっ
しかし、いつまでたっても衝撃は来ず、頭に何かが乗っかる感触がした。
「なに?これ」
触れてみると花が乗っかっていた。キラキラと、陽の光に白い花弁が反射する。
「これは……竜巻のお礼かもしれませんね」
小狼が呟いた。
《第7章 終》
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