第6章 桜都国
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小狼の説明が終わった。黒鋼と小狼がペアを組んで、昨夜現れた鬼児と呼ばれる異形を倒すのだという。通称、鬼児狩り。この世界ではメジャーな役職らしい。もちろん安全な職業も豊富にあるが、この鬼児狩りが手っ取り早く資金や情報を集めるに都合が良いらしい。
黒鋼はいつになく嬉しそうに笑った。
「なるほど、鬼児狩りか。退屈しのぎにはなりそうだな」
「黒鋼ノリノリー」
「ほらねー」
「はい」
「どの国でもマガニャン読んでる人のセリフとは思えませんね」
「るせぇ」
だが機嫌が良さそうな顔はすぐになりを潜めた。鋭い目で小狼に振り向いたかと思うと、黒鋼は少し怖い声で問いかけた。
「けど、おまえはいいのか」
「え?」
「鬼児ってのがどれ位強いのかわからねぇが、それを倒す仕事があって金が支払われてる。って事は素人じゃ手が出せねぇって事だろ」
「……」
黒鋼が小狼の髪を掴み上げ右目を露わにさせた。突然の暴力におなまーえは間に割って入ろうとする。
「ちょ、乱暴はダメで…」
「おまえ、右目が見えてねぇな」
「「!」」
「え?目…?」
小狼はひどく驚き狼狽た。その様子を見るに図星だったということだ。
普通に生活してるし身体能力もそれなりに高いから、まさか目が見えていないだなんて思いもしなかった。ただひとり黒鋼を除いて。
「初めてお前が戦うのを見た時は巧断とかいうのを使っていた。ありゃ精神力で操るものだ。目が見えていようがいまいが関係ない」
「……」
「その次の国、高麗国だったか。あそこに着いた途端領主の息子とやらに姫が腕を引っ張られただろう。おまえあの時それを全く見ずに反応したな」
あのとき、領主の息子は本気で姫を痛めつけようとしていた。それに間髪入れずに蹴りを入れて、皆感嘆の声を漏らしていたのを覚えている。もし小狼が反応に遅れていたら、サクラは鞭で叩かれていたかもしれない。
「殺気とでも言えばいいのか。お前は見えないからこそ、その殺気に反応して先手を打って息子を吹っ飛ばした。あとは昨日の鬼児だ。右からの攻撃への反応が僅かだが遅かった。もっと強い鬼児相手だと怪我するだけじゃ済まねぇぞ。」
「だから肩を…」
鬼児の刃物のような腕の攻撃を避けているときに、わずかに右からの反応に遅れ、肩に傷を負った。アレは小狼の反射神経が鈍ったのではなく、そもそも目が見えていないから反応できなかったというのが正しい理解なのだ。
戦場では四方八方から攻撃が飛んでくる。あの程度の敵に遅れをとっていて、今後やっていけるのかと黒鋼は問うているのだ。
「……出来るだけ迷惑をかけないようにします。お願いします。」
だが小狼も、その程度で引き下がるほどの生半可な覚悟で望んではいない。最前線でサクラの羽根を探すために、鬼児狩りは好都合だ。
「おっけーだよね、黒様ー」
「…ふん」
真っ直ぐな回答は黒鋼の気に召した様子。ぶっきらぼうだが、彼なりに小狼のことは認めたようだ。
「ありがとうございます」
小狼はぺこりとお辞儀をすると、首をそっと回し、寝ているサクラを優しい目で見つめた。
**********
黒鋼と小狼以外はカフェを経営して情報収集に努めるらしい。ファイらしい選択だった。
おなまーえとファイはカフェの間取りを決めた後、2人で買い物に出かけた。すでにテーブルや食器は注文済みで、しばらくすれば家に届くだろう。小狼と黒鋼にはその受け取りと設置をお願いしてある。本日最後の買い物は服屋だった。
「んー、どれがいいかわかんないねぇ」
「すごい、色んな国の服が揃ってますよ!」
郷に入っては郷に従え。服は慣れない土地に馴染むためには必要不可欠な要素だ。だが思いの外古今東西の衣装が揃う服屋に少し胸が躍った。
「黒鋼さんと小狼くんは戦いやすい服がいいですよね」
「これとかはー?くろ様似合いそうだよね」
そう言ってファイが指さしたのは甲冑だった。確かにドンピシャで似合いそうだが、いかんせん動きにくそうだ。何より黒鋼の服で全財産がなくなってしまう。苦笑しながら別の棚を眺める。ふと目に入ったのは隅の方に並んでいる和服。
「あ、これ」
「これもくろ様似合いそうだねぇ」
「袴って言うんですけど、黒鋼さんなら着れそうですね」
「なんかこれ、紐がいっぱいあって難しいね」
「そうですねぇ。ちょっと着るにはコツがいるかもしれません。まぁだからこんな端っこに追いやられてたんだと思うんですけど」
続いて小狼の身の丈に合った服を探す。
「ねぇねぇ、これとかどうかな?」
ファイが選んだのは学ラン。真っ黒で大きさもちょうど良さそうだ。
「いいですね!小狼くんの真面目な性格に合うかなって思います。じゃあサクラちゃんはこれですね!」
迷わず選んだのはセーラー服。学ラン同様真っ黒で、セーラー部分の赤いラインがアクセントになっている。プリーツスカートはは丁寧に織り込まれていて、長さもちょうどいい。
「なんだかおなまーえちゃんの今の格好に似てるね」
「わたしのも制服なので確かに似てますね。でもセーラー服はわたしの国でも結構珍しいんですよ」
3人の服装は案外あっさりと決まった。モコナのために子供用の小さなエプロンも購入するので、残るはおなまーえとファイの分のみ。
「ファイさんのはどうしましょう」
「オレのはなんでもいいよーぅ。袴ってやつ以外ならなんでも着れるし」
「なんでもって言われても……でも何着ても絶対似合うからなぁ」
「おなまーえちゃんがオレのために服選んでくれてるー」
「真面目に選んでるんですから茶化さないでください」
スーツは固すぎるし、ラフな格好も似合わなくはないがカフェの雰囲気には合わない。
「カフェ…デザート…パティシエだとホールにいるのは変だし…」
「……」
次々にハンガーを右から左へとスライドさせ、ぶつぶつと呟くおなまーえをみて、ファイはそっと目を細めた。一生懸命に服を選ぶ彼女の姿はどこにでもいる普通の女の子で、その身の運命に同情の眼差しを送らざるを得なかった。
「あ!ファイさんこれどうですか!」
名案とばかりに顔を綻ばせ、おなまーえが持ってきたのはバーテンダーの服だった。カフェにはカウンターも置いてあり、雰囲気はピッタリだ。
「いいと思うー!じゃあおなまーえちゃんはこれね」
「え。」
「色もオレとお揃いだしどうかなー?」
ファイが取り出したのはクラシカルなロング丈のメイド服だった。昔ながらの屋敷に仕えていそうな大人しいデザイン。現代でメイド服と言ったら、ミニスカ半袖が思いつくところだが、これならまだマシだ。
「……まぁロングだし、大丈夫です」
「短い方が良かった?」
「ロングがいいです!」
「じゃあこれで決まりね」
さくさく会計に向かうファイを見送る。
荷物を全て持ってくれて、道中常にエスコートしてくれたファイ。時折り頭も撫でてくれて、歩く速さも合わせてくれて、意識したくないと思うほどに胸が高鳴って。それを自覚したくない思う自分にたいして、ちょっぴりイライラする気持ちがあった。
だからこの時はまだ、素直になれなかったのだ。