第5章 ジェイド国
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お伽話はいつだってハッピーエンド。お城に囚われたお姫様は、きっと王子様に助けられてめでたしめでたし。
けれど自分自身のしがらみに気がつかないお姫様のことは、王子様は助けてくれないのでした。
ジェイド国
「おいしー」
とろりとしたミルキーなシチューを頬張る。口いっぱいに程よい甘みが広がり、おなまーえは口元を綻ばせる。この旅の良いところは、世界各地の美味しい料理が食べれるところだ。
「呑気なもんだな」
「食べるものと寝るところがあれば大体の人間は生きていけるんですよ」
「それおまえの言葉か?」
「いえ、友だちの受け売りです」
一行はレストランで食事をしている最中である。そこは雪がしんしんと降り積もる冬の国であった。
「なんか注目されてるねー」
「やっぱりこの格好がいけないんでしょうか」
「んー、全然違うもんねぇ。ここの国の人達と、特に黒たんとおなまーえちゃんがー」
「あー?」
「結構痛い視線感じます」
おなまーえの着ている服は制服だ。決してスカートを短くしてるわけではないが、他の人に比べれば脚を大きく露出している。国や時代によっては女性の脚の露出はだらしがないとされていたようだが、ここもその風習があるようだ。男性客からはアツイ視線が、女性客からは冷たい視線を感じる。
ファイがおなまーえに上着を着せた。
「この国の人たちにとっておなまーえちゃんの格好は刺激的かもー」
「複雑な気持ちですけど、ありがとうございます」
最近慣れ親しんでいるもこもこのコートに袖を通す。相変わらず服装は浮いているが、突き刺さるような視線はこれで遮ることができた。
カタッと小狼がフォークの手を止めた。
「あの…大丈夫なんでしょうか、この食事」
「んん?」
「この国のお金ないんですけど」わ
「大丈夫だよー。ねっ!サクラちゃん」
「え?」
「?」
ファイは何か策があるようで満面の笑みをサクラに向けた。
**********
夜も一層深まり、お客の酔いは最高潮に達しているはずだった。だが店内はいつもと違い、にわかに騒ついている。その騒めきの元凶であるサクラはけろっとした顔で手元の大金を見つめていた。
「サクラちゃんお疲れさまー。これで軍資金ばっちりだよー。この国の服も買えるし食い逃げしないでオッケー」
「サクラちゃんこそ普通の女の子仲間かなって思ったのに、違った。何そのチートな能力…」
おなまーえがゲンナリするのも訳ないだろう。そのくらいサクラが見せた豪運は凄まじいものだった。
ポーカーでお金を賭けて勝負したのだが、この店にいるありとあらゆる客から全てを巻き上げるファイブカードの連発。もちろんイカサマでもないし、そもそもサクラはポーカーのルールすら理解していなかった。神の愛娘と春香が評していたのも、今ならよくわかる。
酒場の店主がソフトドリンクをサクラに差し出す。
「変わった衣装だな。旅の人だろう?」
「はい。捜し物があって旅を続けています」
「行く先は決まってるのかい?」
「いえ、まだ」
「ふぅむ……だったら悪い事は言わん。北へ行くのはやめた方がいい」
「なんでかなぁ?」
「北の町には恐ろしい伝説があるんだよ」
「どんな伝説なんですか?」
男は一つの物語を語り出した。
昔、北の町の外れにある城に、金の髪ほそれは美しいお姫様がいた。
ある日姫のところに鳥が一羽飛んできた。鳥は輝く羽根を一枚渡してこう言ったそうだ。
「この羽根は『力』です。あなたに不思議な力をあげましょう」
姫は羽根を受け取った。そのすぐ後に、なんと王様とお妃様が突然亡くなって、姫がその城の主人となったのだ。そしてその羽根に惹かれるように、次々と城下町から子どもたちが消えていって、二度と帰ってこなかったという。
「……それはおとぎ話とかいうヤツかなぁ?」
「いいや、実話だよ」
「実際に北の町にその城があるんですね」
「もう三百年以上前の話だからほとんど崩れちまってるがな」
「で、そんな怖い話があるから北の町には行っちゃいけないのー?夜寝られなくなるからー?」
「ちょっとファイさん、私ホラーはダメなんですけど…」
「…いや」
店主は首を振った。
「伝説と同じように、また子供達が消え始めたんだよ」
**********
「『力』をくれる羽根ですか…」
「なんだかサクラちゃんの羽根っぽいねぇ」
北の町に行くために、一行は服と馬を買い揃えた。サクラが稼いでくれたお金は十分すぎるほどあって、頭から足の先までこの国の人に扮することができる。
「モコナまだ強い力感じない」
「でも羽根がないとは言い切れないよねぇ」
「何か特別な状況に置かれてるのかも。正義くんときとそうでしたもんね」
紺色のドレスを着たおなまーえは、白い立髪の馬をそっと撫でた。
「…というか、私の馬はどの子です?」
ふと疑問に思った。お金は潤沢にあったものの、流石に馬まで買ってしまえば三頭分しか用意ができなかった。小狼とサクラが同じ馬に乗って、黒鋼とファイがそれぞれ一頭ずつ乗ったとしても明らかに自分の分が足りない。
「おなまーえちゃんスカートでしょー。おうまさん扱えないよー」
「え、私徒歩?」
「サクラ姫のように、腰をかけてください」
見るとサクラは小狼の前で横向きに腰掛けていた。
「…じゃあ、どなたのところに乗ればいいんですか?」
「おなまーえちゃんはオレか黒ぷーのどっちがいい?」
「えっ」
そりゃあ小狼の馬に三人乗りなんてできないだろうから、必然的に残り二人のどちらかと相乗りするのは分かっていたけど、車や自転車と違って馬の背中は決して広くはない。相乗りなんてしたら体がくっついてしまうことは目に見えてわかっていた。
「えっと…」
これでも年頃の学生だ。どのくらい進むかわからないけど、長い時間何も意識せずにいられる訳もない。回答に困っていると、おなまーえが答えるよりも早く黒鋼が口を開いた。
「俺ぁ乗せねぇぞ」
「え」
「ん?おなまーえちゃん黒ぷーのとこがいいの?」
「いや、そういうわけでは…」
「じゃあおなまーえちゃんはオレんとこで、モコナは黒ぷーの方ね」
黒鋼が拒否をしたから、選択肢なんて実質なかった。ファイにエスコートされて、自分の胸より高い馬の背に乗る。ファイが後ろに乗り、手綱を握るために手を前に回す。
(ひっ…)
背中から感じる温もりが熱い。抱きしめられているような錯覚に陥り、どうしても心臓が高鳴ってしまう。
(平常心……平常心よ、おなまーえ)
免疫がないから些細なことで一喜一憂してしまうのだ。サクラを見てみろ。なんの気もなしに小狼とふたり乗りをこなしている。おなまーえは自分自身を諫めるように手の甲を抓り、赤くなった頬を見られないように真っ直ぐ正面を向いた。
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