後日談
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「困らせて……ごめん…」
いつまでも私が縛っていてはいけない。先のない私などは置いていっていいから、彼には幸せになってほしい。
ぐしぐしと目元を擦る。
「ごめんね、ファイ」
「……」
「どうかこれからは自由に――」
「おなまーえ」
怒気を含んだ低い声。口角は上がっているのに、目が笑っていない。いつものファイからは想像もつかないほどのオーラが出ていた。
「っ…」
思わず息を飲む。
「流石にオレもこれ以上は聞いてられないよ」
「え?」
ファイがおなまーえの肩を押した。彼女はあっけなく横になり、白い髪がシーツに広がった。
「なんであの時のサクラちゃんと同じことを言うんだろうね」
「…あの時?」
おなまーえは知らない。『どうかこれからは自由に』。それがインフィニティでの最終戦の前、サクラがファイに伝えた言葉なんて。
「…オレが何も感じないと思ってた?」
「……」
馬乗りになった彼は徐々に顔を近づける。おなまーえはぎゅっと目を瞑った。
2人の唇が後数センチというところで――
――コツン
ファイは額と額をすり合わせた。
「え?」
キスをされると思った彼女は拍子抜けをする。蒼い瞳は切なさを映し出していた。
「オレってそんなに甲斐性ないように見える?」
「え…?」
ファイはそのまま倒れこみ、おなまーえの上に覆いかぶさった。体重はかけないでくれているので苦しくはない。
怒っていると思ったが、彼は悲しんでいたのか。おなまーえは訝しげに眉をしかめる。
「夢を見たんだ。白いドレスを着たピンク色の髪の女の子が出てきたんだけど、おなまーえちゃんはその子のこと知ってるよね?」
「!」
紛れも無い、髪色の特徴だけですぐに分かった。まどかだ。
「彼女がオレに言ったんだ。おなまーえは必ず世界のどこかにいる。だから探し出してあげてって」
「………」
「ずっと、ずっとずっと探してた」
視界には見慣れた天井と金色の髪が映っている。
「じゃあ尚更…」
「最後まで聞いて」
ファイが腕に力を入れた。
「オレは、おなまーえのことが好き。でも旅に出なくちゃいけないし、次ここに帰って来るのが何年後になるかわからない」
「…うん」
「それでも、オレが一生をかけて愛したいって思ったんだ。……それともおなまーえはオレに愛想つかした?」
「っそんな事ない!私だってずっと…!」
「なら」
彼が上体を起こす。蒼色の目と紫色の目が交差した。
「今日だけでいいとか言わないで」
「っ!」
目を瞑る暇なんてなかった。布団に押し付けられ、口づけが降ってくる。
「……んっ、ふっ」
もう随分と感覚を忘れていたが、日本国での続きのように、丹念に唇を舐め取られ舌を絡ませる。浅く深く、全身で彼を感じる。
「っ…そこ…」
「誘ったのはそっちでしょ」
覆いかぶさった彼の手が、脇をかすめる。部屋着として使っている浴衣は紐を解くだけで全身を顕にさせる。冷たい外気に身を震わせ、とっさに腕で胸元を隠せば、すぐさま首元に顔を埋められた。
「声は我慢しないでね」
「っ…」
カチコチに固まった体をほぐすように、ファイは首元から鎖骨にかけてキスを落とす。絶え間なく、会えなかった時間を埋めるように。寂しかった心を慰めるように。
「っ、ん…」
くすぐったさに身をよじれば、密着した体の隙間に、彼の熱い手滑り込んだ。自分以外が触ったことのない柔らかい部分に、白い手が添えられる。早鐘のように鳴る鼓動は、きっと伝わっていることだろう。
「っ…あ、ん…」
甘い声。普段の姿とはかけ離れた微声に、ファイの期待が高まる。執拗に鎖骨を舐められる傍で、肌の質感をなぞりあげる。
「ひっ…」
「柔らかい」
「っ……手慣れて…る!」
鳴かされてばかりでフェアじゃないから、精一杯の悪態をつく。
「んー、そりゃおなまーえより100年くらい長く生きてるからねー」
「…大人みたいなフリしてる」
「大人だよ。おなまーえも、今から大人になるんだから」
「…っ」
ゾクリとするほど低い声。
ファイは目を細め、胸を揉んでいた手を下腹部に移動させた。
「んっ!」
ビクンッと体が跳ねる。快楽に慣れていないおなまーえには、一つ一つの刺激が強い。
そんなことはおかまいなしに、ファイは濡れそぼったそこに指を這わせた。
「くっ、ん…」
「濡れてる」
「っ…」
言われなくたってわかっている。
まだ何ものをも咥えたことのないそこに、細い指が侵入する。
「っ!かっ…あ…!」
奥に奥に、中を優しく広げるように。指は縦横無尽に動く。痛みはない。ときおり突起物も触られ、悲鳴じみた微声を上げる。ぬるぬるとした感覚が恥ずかしくて、顔を背ける。
「んっ…っ…」
自分で求めたこととはいえ、羞恥心は拭えない。だからもっと奥を触って欲しいだなんて言えない。指では届かない部分に触れて欲しいだなんて。
「……かわいい」
一方、ファイは指先一つで乱れるおなまーえを見て愛おしさが込み上げていた。いつからずっとこうしたかったか。思えばピッフル国ではもう我慢ができていなかったように思う。彼女の口を蹂躙した時を思い出して、下腹部をかき混ぜる。
「……そろそろほぐれたかな」
「あ…」
指が引き抜かれる。体から抜けていく感覚に切ない声をあげれば、また一つキスを落とされた。
そうだ、これから本番が控えてる。指はあくまで慣らすためのもので、おなまーえを気遣ってのこと。あれよりもずっと太くて長いものが中に入るのだ。
「怖い?」
「…え」
「顔が強張っている」
「あ、えっと…」
怖くないと言えば嘘になる。でもそれ以上に彼に触れたい。彼に触れて欲しい。
「…大丈夫。お願い、きて」
「……優しくできるかわかんないからね」
そう宣告され、下腹部に熱い熱が押し当てられる。指とは比べ物にならないくらいの圧迫感。
「っ…はっ……あっ」
「ゆっくり入れるから、力を抜いていて」
「どう、やって…?」
「深呼吸して」
「ん…」
言われるがままに肺を満たす。嗅ぎ慣れた自分の部屋の匂いに混じって、ファイの温かな氷の匂いが広がる。それが麻薬みたいに脳を溶かすから、ぼうっとする。
少しずつ近づいてくる最奥の気配。少し痛むと感じる頃には全てが入った後だった。
「っ…は、あっ…ん」
満たされた内側。こみ上げる愛おしさ。
「ファイ…っ…」
「…くっ」
入ってきた異物を押し出そうと無意識に力むと、ファイが苦悶の表情を浮かべた。
「あ、ごめん…、いたかった…?」
荒い呼吸を整えながら、問いかける。辛そうな顔をしたから、締め付けてしまったのかもしれない。今だって苦しそうに眉を潜めている。
「…それむしろオレのセリフ〜」
「っ…?」
「気持ち良すぎて、どうにかなっちゃいそう」
「え…」
奥まで入った大きなものが半分ほど引き抜かれ、またゆっくりと押し入って来た。ノックするように奥を突かれる。
「そんっ、なっ!あ、急に…っ…いっ」
「…ごめん、もう我慢できないかも」
唇に優しく口付けて、それが合図とばかりに腰を掴まれる。ひくひくと中がうずく。その度にファイが苦悶の表情を浮かべるから嬉しくなる。余裕ぶってそれを眺めていたら、ずんっという効果音が聞こえそうなほど奥が抉られる。
「ああっ…!」
苦しくて、息が詰まるのに、これを求めていた。この幸せな苦しみを欲していた。
「んっ、あ、あっ…っん…っ」
「は…」
規則正しいリズムがだんだんと早くなっていく。
「おなまーえ、今どんな顔してるか、わかる?」
「っ、わ、っかん、ないっ…」
涙でぐしゃぐしゃで、ファイを夢中に求める。存在を確かめたくて腕を広げれば、腰の動きはそのままに、抱きしめてくれた。
肌がぶつかり合う音と、微かな水音。そして互いの荒い呼吸が判断力を鈍らせる。
「ね……はげ、しい…の…っ」
「…っ」
「ファイ、ファイ…っ」
求める腕を掴まれる。乱暴に引き寄せ、彼は熱を放つ。
「あっ…んっーーっ!」
「は、ぁ……っ」
快感が走り抜ける。震える体は情欲を吐き出し、寝台を汚す。
その日、少女は愛しい人の手で大人の女性へと変貌した。
**********
4日後。
「ごめんね。このお耳の飾りが光ったら、次の世界に行かなきゃならないの」
白モコナの耳についている飾り。これが光ったとき、別世界に移動しなければならないらしい。それが彼らに課せられた対価で、ひとところに留まることは許されない。
一行は庭に出て旅に出る支度をしていた。
「大丈夫。また逢える」
「…うん!」
白モコナと黒モコナは互いに抱きしめ合う。生まれた時からそばにいた、兄弟のような存在。次いつ会えるかわからないから、2匹は別れを惜しんで泣いていた。
「世話になったな」
「5日も居候してごめんね」
「いえ、その代わり買い物とか料理とか手伝って貰えて助かりました」
「百目鬼君にもよろしく」
ファイはキョロキョロと辺りを見渡した。5日間、ほとんどの時間を共に過ごした恋人の姿が見当たらない。
察した四月一日が声をかける。
「あぁ、おなまーえさんなら――」
「ごめん!遅くなった!」
パタパタと奥から出てきたのはちょうど今探していたその人だった。ここにきた時よりも長くなった髪を振る彼女は、数日の間で随分と大人っぽくなった気がする。心なしか、色っぽくなったというか…
「……」
「っ!?」
四月一日はチクリとした殺気を感じた。慌てて振り向くと、それを放っているのは穏やかに、だが不敵に笑うファイ。
一つ屋根の下で、自分の恋人が他の男と過ごすのだ。互いにそういった感情は一切無いにしても、気持ちの良い話ではないはず。
「…ははっ」
なんだ、ベッタベタに愛されてるじゃないか。手は出しません、という意味を込めて四月一日は両手を挙げた。
「おなまーえギリギリー。なにしてたの?」
「ちょっとね…」
モコナの問いかけに軽く返して、おなまーえはファイにスッと手を出した。
「魔力のカケラ、ください。ほんの少しでいいので」
「オレの?」
手のひらの上に乗せられているのは二本のミサンガ。蒼い糸で編まれたものと、白い糸で編まれたもの。白のミサンガには透明な石がはめられていた。
「これは私の10年分の魔力を込めた水晶」
もう魔法を使えないおなまーえは、毎日少しずつ魔力を水晶に込めていた。貯金のように、10年間欠かさずに。
「なんの足しにもならないかもしれないけど、お願いが叶うお守りです」
照れたように視線をそらすおなまーえ。
「……」
それだけで、このミサンガにどんな祈りが込められているか分かってしまった。
断る道理もない。ファイは左目に手を持っていくと小さなかけらを取り出した。
「はい、あげる〜」
ふわふわと手のひらで浮かぶそれを受け取ると、おなまーえは蒼と金のミサンガにはめ込む。
「ありがとう」
そうして彼女は紫と白のミサンガをファイに渡した。所詮はただのおまじない。けれど、離れていてもお互いを感じられるように。
「オレにくれるの?」
「あなたのためにつくったの」
おなまーえはまっすぐにファイの目を見た。
「お願いはもう決まってるの?」
再度モコナが問いかける。
「うん。ファイもきっと同じ願いだと思う」
「ん、そうだね」
二人は顔を見合わせてニッコリと笑った。これ以上ないほどの極上の笑顔。
「「また、会えますように――」」
《fin》
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