1戦目
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「……」
「……」
姉に急かされ、なんとか駅に辿り着く。
私の前には、うだつの上がらないもやしのような男が立っていた。
へなへなしてて、正直頼り甲斐がない。
「健二くん、こちら私の妹のおなまーえ。おなまーえ、こちら私の後輩の健二くん」
「彼氏役の間違いでしょ」
「しーーっ!ちゃんと台本通りにやって!」
「別に今はいいじゃん。向こうに着いたらちゃんと茶番には付き合ってあげるから」
「彼氏…?」
「な、なんでもないの!」
あ、まだ彼氏役として呼びつけたとは言っていないのか。
それは意地が悪い。
この青年、どっからどう見ても夏希に惚れてるのに。
はっとして青年がこちらに顔を向ける。
「よ、宜しくね、おなまーえちゃん…?」
「宜しくお願いします、健二さん。姉の向こう見ずな責任のない発言のせいで付き合わせてしまって申し訳ないです」
「い、いや、僕こそ本当についていっていいのかなって…」
「姉にとっては救世主だと思うのでご安心ください」
3歳年下の女子相手にめちゃくちゃ緊張している青年は、小磯健二と言う名前らしい。
礼儀良し。
謙虚さ良し。
人当たりもそこまで悪くはない。
平凡な高校生だが、突出した何かがない分、当たり障りのない振る舞いはできそうだ。
おなまーえはちょいちょいと手を招いて彼をしゃがませる。
そして耳元にそっと手を当てると小さな声で「姉と二人きりじゃなくて落胆しました?」と囁いた。
「なっ!?そ、そんなことは…!」
「あ、図星ですね。顔だけはいいですからね、この人」
「え、なんの話?」
「お姉ちゃんには内緒。ね、健二さん」
「う、うん!夏希先輩は知らなくて大丈夫です!」
「ずるーい!そうやってお姉ちゃんのことハブにするのー!?」
「いや、本当になんでもないから!!」
「健二くーーん?」
夏希がぐいっと迫れば、健二の顔が赤く染まる。
本当に、相性は悪くない二人かもしれない。
天真爛漫が服を着たような姉には、彼くらいからかいがいのある人がお似合いだ。
「教えなさいよー!」
「い、言えません!!」
二人は新幹線に乗っても相変わらずイチャイチャしていた。
三席並んだ通路側に座ったおなまーえは、付き合ってられないとため息をこぼす。
いい加減に眠い。
昨夜遅くまで試合してるんじゃなかった。
おなまーえはウトウトと時折船をこぐ。
「おなまーえも!あんまりお姉ちゃんに意地悪するなら好きな人のことバラしちゃうよ?」
「別に構わないよ。隠してないし」
「え?好きな人?」
「そ!この子、好きな子がいて気まずいからって全然おばあちゃんち行ってないの。昨日だってその子が出るからってずーっとOZの格闘ゲームの試合?みたいなのをしてたんだって」
「格闘ゲームって、あの最近よくCMで流れてる…?」
健二が言っているのは百人組手の告知だろう。
うさぎのアバターが縦横無尽にステージを駆け回り、襲いかかってくる敵を次から次へと格闘技で倒していくCM。
屈強なアバターも、武器を持ったアバターも、ものの数秒で倒されていく。
流れるような操作さばきは彼の弛まぬ努力の賜物なのだ。
最後に『挑戦者を待つ!』という文字が現れ、百人組手の告知は終わる。
「うん、あれの」
おなまーえは少し目を細めて嬉しそうに答えた。
「おなまーえちゃんはどのくらい強いの?」
「136位」
「え!」
「イマイチ凄さわかんないんだけど、それってすごいの?」
「格ゲー総人口がわかってないからなんとも言えないけど、でもめちゃくちゃすごいのはわかる」
健二に褒められて、ほんの少し鼻がむず痒かったりする。
「あ、でもあれに出れるのって世界ランキング上位100人って聞いたけど…」
「一応応募は誰でもできるようにはなってる。でもその後の選考ではランキング順にエントリーされていくから、実質上位100人ってなってます」
「え?どういうこと?」
「OZの格ゲーランキング上位者が、チャンピョンに挑める機会に応募しないわけがないってこと」
「あー、そういうこと…」
だから確実に安全圏の100位以内に入りたいのだ。
136位なんて、中途半端な順位ではダメなのだ。
「おなまーえちゃんの好きな子もあれにエントリーするんだね。その子は出れそうなの?」
「うん。確実に出ます」
「そっか、強いんだね…」
「……」
だって主催者だもの。
「負けたくないの?その子に」
「負けるのはわかってる」
「あ、そうなの?」
じゃあなんでという心の声が聞こえてくる。
健二の疑問に答えたのは夏希だった。
「ふふ、面と向かって一緒に遊びたいって言えないのよ、この子。不器用だから」
「夏希お姉様??」
「ほんとのことでしょー」
先ほどの腹いせと言わんばかりに夏希はニヤリと微笑む。
唇をとんがらせる妹と、不敵な笑みを浮かべる姉。
間に挟まれた健二はオロオロと左右を見回していた。