8戦目
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ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデートゥーユー
ハッピーバースデーディアおばあちゃん
ハッピーバースデートゥーユー
「お誕生日おめでとー」
8月1日。
朝顔柄の浴衣を纏い、ウクレレを奏でる夏希。
彼女を筆頭に、陣内家の面々は場違いなほど愉快な格好で、各々好きなように栄の葬式を行う。
喪服姿の親族なんてどこにもいない。
おなまーえも含めて、みな普段の格好で、普段通りに振る舞う。
「夏希、おなまーえ」
「お父さん!お母さん!」
「やっときた」
おなまーえと夏希は自らの両親と再会する。
たった数日会ってなかっただけなのに、まるで何年も離れていたような感覚だ。
「渋滞がすごくってねー」
「びっくりするくらい呑気な母親を持てて、私は幸せです」
開口一番、この家の惨状なんて目にも入っていないかのように、母は自身の旅路を話し始めた。
娘達がどれほどの戦いを繰り広げていたのか、今度プレゼン資料を作って見せてやりたいくらいだ。
「お父さんも大変だったんだって?」
「ああ。水圧を調整する装置が壊れてしまってなぁ。誤作動かと思ったんだけど、昨日ピタリと異常が収まったんだよ。」
壊れたわけではなくてラブマシーンが装置を勝手に弄ったから、街中の水圧が極端に上がったのだろう。
水道局員のアカウントを取り戻したのは夏希だと、きっと父は思いもしないだろう。
「ところでおなまーえちゃん、さっきからこちらに話しかけたそうにしてる男の子がいるけど、放っておいていいの?」
「え?」
振り向くと、少し戸惑った様子の佳主馬がこちらに話しかけたそうにしていた。
家族に断りを入れて佳主馬に声をかけ?。
「どうしたの?」
「おなまーえ、ちょっといい?」
「えと…いいけど」
「ふふ、行ってらっしゃい」
両親の気持ち悪いくらいに温かい視線を受けながら、おなまーえは家族団欒を抜け出す。
連れてこられたのは佳主馬の両親の前だった。
「……なに?」
「父さん、母さん。あとついでに妹」
「妹聞こえてないと思うよ?」
佳主馬はおなまーえの白い手を取る。
「僕、おなまーえと結婚する」
「はい?」
よく聞き取れなかった。
もう一回言って欲しい。
え?結婚?
佳主馬、今結婚って言った?
誰と誰が?
私と佳主馬が?
佳主馬が両親に思いの丈をぶつけた瞬間、一体どこから湧いてきたのか、陣内家の面々がわらわらと集まりだした。
「お!お!どうするんだおなまーえ!」
「いいなぁ。青春してるなぁ」
「ちっちゃい頃からお前佳主馬のこと好きだっただろ」
「両思いか!?両思いなのか!?」
「う、うるさい野次馬ども!!」
頬を赤らめたおなまーえがたまらず叫ぶが、迫力も威厳もあったものではない。
公開処刑をされている気持ちになり、おなまーえは何か気を逸らさせるネタはないかと周囲を見回す。
そして見つけた。
格好の獲物を見つけた。
おなまーえは朝顔柄の浴衣を指差して叫ぶ。
「っ、みんな!夏希が女の顔をしてる!!」
「え、なんだって!?」
「こりゃあ行かなければ」
単純な思考回路をしているから、あっという間に親類どもは夏希と健二を取り囲む。
おなまーえの作戦は成功した。
改めて、この場には佳主馬と佳主馬の両親だけが残った。
「……ふぅ」
ドクドクと早打する心臓を抑え込む。
佳主馬に握られた手が熱かった。
「結婚はまだちょっと早いかもねぇ」
聖美は困ったように苦笑いをする。
だが佳主馬はさらに食ってかかった。
「本気だよ。収入だってあるし、おなまーえを養う自信はある」
「それはそうだけど…」
「おなまーえちゃんの気持ちは?ちゃんと聞いたかい?」
アロハシャツを着た佳主馬の父がニコニコと優しい表情で問いかけてきた。
「……どう?おなまーえ」
「やっと私の意見聴いてくれた…」
どっと冷や汗が流れる。
佳主馬のことは好きだけれど、まだ結婚なんてこれっぽっちも考えたことがない。
だからおなまーえはニヤリと笑って佳主馬を見下した。
「いいけど、私結婚するなら自分より背の高い人って決めてるんだよね」
「!」
「佳主馬ってさ、今何センチ?」
「……151」
「残念、私155だからまだまだだね」
おなまーえは得意げに彼の頭をポンポンと叩く。
佳主馬にとっては屈辱だった。
「クソ…」
「ハハハ!こりゃ傑作だな!」
「佳主馬ももうちょっと大きくなって、おなまーえちゃんを追い越すくらいになってから、またその時にプロポーズしなさい」
本気で悔しがる佳主馬と、それを見て仕方のない子だと微笑む両親。
おなまーえの身長を彼が追い越すのは一体何年先のことだろうか。
そう遠くない未来に想いを馳せながら、少女は少年の頬にキスをした。
【終】