8戦目
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「お家吹っ飛んじゃうのー?」
「吹っ飛ぶくらいで済めばいいけど」
この中で隕石を見たことのあるものはいない。
だから落下体がどの程度の被害を及ぼすのか、誰も全く検討がつかない。
だが慌てふためく陣内家の中でただ一人、まだ諦めていない男がいた。
健二は誰よりも真剣な表情で腰を下ろした。
「管理棟に奴のログは残ってる?」
『え、の、残ってると思うけど…』
「まだ何かやる気?任意の変更はもう出来ないって…」
「理一さん、あらわしはGPS誘導だって言いましたよね?」
「あ、ああ…」
カタカタとキーボードを打ち、ただ一人現状打破を画策する健二。
その雄姿に、思わず理一も言葉を詰まらせる。
「昨日の奴みたいに、GPSの電子時計に偽の補正情報を送れば…」
「は!位置情報に誤差が生じて…」
「少しでもコースが変わるかも!?」
「でも上手くいく保証はないので、先に退避を。」
「……健二くんは?」
「ここに残ります」
夏希の弱々しい問いかけにも、彼はキッパリと答えた。
「死にたいの?」
「っ!」
おなまーえの冷静すぎる言葉に、夏希は息を詰まらせた。
「死にたいわけじゃない」
「でもここに残るってそういうことだよ」
「でもまだ諦めたくはない」
結果はわからない。
わからないからこそ、悔いのない選択をしたいと彼は答えた。
その結果、たとえ命を落とすことになったとしても。
「そう」
健二の返答に満足そうに笑ったおなまーえは、その場にどかっと腰を下ろした。
「おなまーえなにしてんの!?」
「私もここに残るよ。侘助叔父さんも残るだろうけどさ、一人で戦うより、誰かが見ててくれた方が気合入るじゃん?」
「そんな…」
言葉を失った一同とは反対に、おなまーえはいつもより饒舌に喋る。
おなまーえと健二と侘助を、残して行けるわけがない。
最悪の場合、ここで死ぬかもしれないのに。
そう思ったら佳主馬はいてもたってもいられなくなった。
「っ、僕も残る」
「佳主馬は行って」
「なんでさ!!」
「聖美さんと妹を守れるのは佳主馬しかいないから」
「じゃあおなまーえのことは誰が守るのさ!」
「私はほら、夏希よりは精神年齢大人だからさ。自分の身くらいは自分で守れるよ。」
嘘だ。
おなまーえは弱くて、小さくて、まだたったの14歳の女の子だ。
だというのに、なんでそんな大人みたいに綺麗に笑うんだ。
いじめられていた日々。
毎日が辛くて仕方がなかったあの頃に、手を差し伸べてくれたのはおなまーえだった。
脆く崩れそうだった自分を守ってくれたのは、紛れもなく彼女がいてくれたからだった。
何気ない日常。
ひさびさに出会って、たった二日間だったけれど、その二日間は宝石よりもキラキラと輝き、それ以上の価値を持つ宝物になった。
それもこれも全部全部、佳主馬がいてくれたからだ。
おなまーえがいたから、佳主馬は立ち上がることができた。
佳主馬がいたから、おなまーえは恋を知ることができた。
「私さ……佳主馬のことが大好きだよ」
「…っ」
少年は、己が言いたかったことを、先に言われてしまった。
「っ…!」
どうして自分はいつも肝心な時に言葉が出てこないんだろう。
歯を食いしばり耐える。
己には守らなければならない人が三人いる。
母と妹、そしておなまーえ。
けれど彼女はここに残ると決めてしまった。
「それだけだから」
おなまーえは佳主馬を突き飛ばし、悔いのない晴れやかな顔で手を振る。
未だにモニターから離れようとしない中高生達に、万理子はしびれを切らして声をかける。
「あんた達も早く…!」
「っ、まだ負けてない!!」
「「「え…」」」
妹を残して、のこのこと逃げられる姉が一体どこの世界にいるというのだ。
おなまーえだけではない。
健二もまだ諦めていない。
ならば自分も残ると、夏希は声を張った。
「……これだ!」
健二が声を上げる。
昨日ラブマシーンが残したログを頼りに、GPSのシステムを発見した。
これが起死回生の一歩になると信じて、健二は震える手でコードを入力しようとする。
――ガシャン
だが入力しようとした矢先に、ロックがかかって健二は締め出された。
「な…なんで?」
『パスワードが変更された!奴が邪魔してるんだ!』
「そ…そんな…」
ロック画面とともに現れた数字の羅列は2056桁の暗号だ。
それはわかる。
わかるけれども、これを解ける気がしない。
「しゃんとしろ!!」
動揺する健二を叱咤したのは誰よりもバカで、誰よりも愚直な翔太だった。
「これは健二さんにしか解けないんだから」
「頼む!!」
「っ、はい!!」
手に取ったのはボールペンとレポート用紙。
10枚に渡るその数式は、おなまーえも含めて大人である陣内家の人間にも全く理解ができない。
「っ!!」
数字を書きなぐった健二は、導き出された答案を素早く打ち込む。
『開いた!』
「は、早い…」
だが喜ぶのも束の間。
――ガシャン
健二はまたすぐに締め出されてしまった。
ラブマシーンはおそらくこの管理棟の制御室にいるのだろう。
『締め出された!』
「クソ!もう一回解きます!!」
拳を地面に打ち付け、健二は今までのレポート用紙を引きちぎった。
己自身を業火にさらすような状況に直面してこそ、彼はその真価を発揮する。