8戦目
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――ピンッ
「っ!?」
聞こえるか聞こえないかの、小さな電子音に、夏希はハッとして顔を上げた。
賭け金が一つ増えて75になっている。
一体のアバターが、夏希の背後に現れた。
『ナツキへ。ボクのアカウントをどうぞ使って下さい』
吹き出しにはそう書かれていた。
「ドイツの男の子からだ」
「誰?佳主馬のファンか何か?」
「知らない」
そのアバターを皮切りに、夏希の所持アカウントが瞬く間に増えていく。
次から次へと溢れるアカウント。
それは戦い続ける陣内家と夏希の姿に心打たれた、世界中の人たちからのエールだった。
『総アカウント数の13.837パーセント……1億5千人以上のアカウントが集まった!?』
「嘘でしょ…!?」
状況が一転する。
これなら戦える。
もう一度、ラブマシーンに挑むことができる。
『アカウントをナツキに預けます。わたしたちの大切な家族を、どうか守って下さい。』
「っ…!」
OZの守り神なんてものまでも現れ、彼らは夏希のに吉祥のレアアイテムを授ける。
白い十二単は、見るものを圧倒する美しさを誇っていた。
『Unknownさんがレートを上げました』
「い、1千万…!?」
「奴さん、とうとう決着をつけるつもりだ」
これが最終決戦。
夏希は持ち前のセンスと引きの良さで、次々に役を揃えていく。
三光、猪鹿蝶、赤タン、雨四光。
そして最後の一枚を、夏希は振りかざす。
これでトドメだと言わんばかりに。
「いけーー!」
「夏希やれ!」
「頑張れー!」
「先輩いけます!」
「お姉ちゃん!!」
「ぶちかませ!!」
彼女は光り輝く希望の札を、振り下ろした。
――タンッ
美しい五光が、彼女の手駒に並んだ。
『ナツキさんの勝ちです。アカウントが移動します。』
1千万のレートでこれだけの役を揃えたのだ。
移動するアカウントは数億に達する。
「「おぉ!!!」」
残ったラブマシーンのアカウント数はたったの2。
ラブマシーンは、巨体を維持することができない。
おなまーえは急いで自身のモニターを確認する。
慣れた手つきでログインIDとパスワードを打ち込む。
OZに入ると、スカイブルーのパーカーを羽織ったウサギが帰ってきていた。
「佳主馬!」
「うん」
佳主馬も自身のアカウントを確認していた。
直前の戦いのせいで満身創痍だが、操作は可能のようだ。
ラブマシーンは夏希を取り込もうと最後のあがきを見せる。
だが悲しきかな。
崩れゆく体で、ラブマシーンは夏希を捉えることができなかった。
愛に飢えた怪物は、家族の愛の前に敗れた。
夏希は呆然とモニターを見つめる。
原子力発電所に衛星が墜落するまでのカウントダウンは、だが確かに。
「あ…」
「と……止まった…」
時を止めていた。
ワールドクロックが示していた残り時間は14分。
「……」
「……」
あまりの出来事に、一同は声が出ない。
だが、じわりじわりと這い上がってくる喜びは、勝利を収めた証だった。
「……や、やったぁぁああ!!!!!」
一人が声を上げると、連鎖するようにみな勝鬨を上げる。
「佳主馬!」
「ちょっ!」
おなまーえも喜びのあまり佳主馬に抱きついた。
彼女がこんなにも手を放して喜ぶだなんて本当に珍しい。
佳主馬はわずかな抵抗を見せたものの、巻きつけられたおなまーえの手を振りほどくことは決してしなかった。
だが状況は手放しで喜べるほど好転はしていなかった。
「待って、何かおかしい」
「「「え?」」」
太助の言葉に、祝福のムードは一気に収まる。
「カウントダウンが、止まらない」
「「「えぇ!?!?」」」
再び動き始めたワールドクロック。
残り13分。
我々は勝ったのではないのだろうか?
『そんな、世界中のワールドクロックは止まってるのに…!』
「ここだけ!?」
ワールドクロックが止まらないのは陣内家の見ているモニターだけ。
――ワン、ワンワン
「なんで?」
「な、どうなってるんだ」
一転、陣内家には再び緊張が走る。
――ワンワンワン!
ワールドクロックの繋がっている先。
衛星写真から捉えた山肌が徐々に拡大されていく。
――ワン!!ワンワン!!
そして衛星写真に写ったのは、空に向かって吠えている、見覚えのある一匹の柴犬だった。
「「「……えぇ!!??!」」」
どこからどう見たって、今庭で吠えているハヤテだ。
「ここにあらわしを落とす気!?」
「それ以外の何がある!」
「ふざけんなあの野郎!!」
「親に似て生き汚いんだから!!」
「うるせぇ!!」
おなまーえの悪口は本人にも聞こえていたようで、侘助は大慌てでパソコンに齧り付く。
「まだ解体終わらないの!?」
「やってる!!」
『10分を切った!』
10分。
残り時間はたったの10分。
仮にラブマシーンを解体できたとしても、秒速7キロで落下する物体を止める術がない。
「もう任意のコース変更は無理だ」
軍人の理一がはっきりと告げたことにより、陣内家は取り乱す。
混乱するあまり、何をすべきか見失っているようだ。
おなまーえはすうっと息を吸い込み、これまでの人生で出したことのないくらい声を張った。
「みんな落ち着いて!!まずは落ち着くことが肝心って、ばあちゃんも言ってたでしょう!?」
「あ…」
おなまーえの一喝で我に帰ったみなは、努めて冷静に状況分析を始める。
「そ、そうよね。こういう時こそ冷静にならなきゃよね」
「まずは退避だろう!」
「近所の人達にも大至急知らせて!」
「どんな被害が出るか分からん。行くぞ!」
頼彦の言葉を皮切りに、みな動き出した。
子供と貴重品を抱え、想い想いに走り出す。