8戦目
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ラブマシーンはアカウントを食い漁る。
知識という名の愛を求めて、次々と無辜の民を蹂躙していく。
「あなた、そんなにアカウントがほしいの!?」
それに待ったをかけたのは、鹿の耳が生えた、夏希の可愛らしいアバターだった。
「いいわ、私のをあげる。ただし……私との勝負に勝ったらね!」
『花札が選択されました。このステージではカジノルールが適用されます。』
『花札 こいこい』がセレクトされた。
ステージは瞬く間に和風の背景へと切り替わる。
「賭け金は…私の家族!!お互いのアカウントを賭けて勝負よ!」
先ほどまで佳主馬が座ってた位置に夏希が正座をしている。
それを背後から見守るのは、各々の端末を手にした陣内家の総勢21名。
「みんなのアカウント、私が預かったわよ」
「頑張れ、お姉ちゃん。これに勝ったらもう金輪際バカって言わないからさ」
アカウントのないおなまーえと佳主馬は端の方に座って夏希を見守る。
先ほどに比べて佳主馬は随分と落ち着いていた。
「花札とは、うちらしい戦い方じゃないか」
「侘助さん、同時平行で解体作業お願いします」
この作戦のポイントは、夏希がアバターを奪還しつつ、同時にラブマシーンの生みの親である侘助が奴を解体するプログラムを組むこと。
どちらも、たった1時間でできることではない。
けれどできるとかできないとか、そんなのは些事だ。
陣内家はいつの時代も、勝つとか負けるとかそんなことは関係なく戦ってきた。
――これは戦争だ。
手に取ったものは火薬やナイフなんてものではないけれど、その心意気は戦と変わらないものだった。
「しかし、勝負に乗ってくるか。佐久間君含めて20人。いくらなんでもこんなチャチな賭け金じゃ…」
「黙ってろ。どんなにチャチでも俺達の命だ。」
「勝負しろー!!」
翔太の掛け声につられて、皆「かかってこい」と
血気盛んに、士気を上げるために。
おなまーえも負けじと声を張る。
「私と佳主馬のアカウントを返せー!」
幼い頃に、お揃いにしようと言って一緒に作ったアバターだ。
ウサギに難色を示していた佳主馬は、それでも数年間、キングカズマのフォルムを変えることはしなかった。
アカウントなんてまた作ればいいと言った。
けれど、やはり思い入れのあるアバターを盗まれるのは許せなかった。
「乗ってくる。必ず」
「間違いない」
ラブマシーンは好戦的。
賭け金に関わらず、ゲームには絶対に乗ってくる。
そのようにプログラムが組まれている。
『Unknownさんがゲームに参加しました』
程なくして奴がこちらの誘いに乗ってきた。
「勝て夏希!世界の運命はお前にかかっている!」
皆、祈るような気持ちで戦況を見守る。
このステージでは、カジノルールが適用される。こいこい一回ごとに得点が倍になるしシステムで、最後にあがったプレーヤーが、得点の総取りになる。
最初のレートはたったの1。
『それでは、ゲーム開始です』
夏希が親に決まり、ゲームがスタートした。
開始早々、夏希は果敢に攻めていく。
青タン、三光、タン。
『ナツキさんの勝ちです』
出だしは好調。
ホッと息をつく夏希。
アカウントが移行し、次のゲームが始まる。
「こいこい!」
僅かずつではあるが、確実にアバターは解放されていった。
「こいこい!」
こちらのアカウントが増えると、夏希はレートを一気に引き上げる。
「こいこい!!」
陣内家で一番花札が強いのは夏希だ。
おなまーえも、ただの一度だって彼女に勝てたことはない。
『夏希先輩すげえ。こんな短時間で30万以上のアバターが解放されてる』
「バカな姉でも、たまには役に立つんですね」
『バカってもう言わないんじゃなかったの?』
「勝負に勝ち続けることができたらですよ」
そう厳しい言葉をかける、おなまーえは祈るような気持ちで夏希を見守る。
「佐久間!どうだ!?」
『まだ危機回避に有効なアカウントが解放されていないみたいだ』
40億分の30万。
そうやすやすと、衛星システムを弄る権限を持つアカウントは手放してくれなかった。
49戦目のレートは1万。
ワールドクロックのカウントダウンは残り32分。
間に合うだろうか。
焦るあまり、夏希はほんの一瞬、自身の試合から意識を逸らした。
だがその一瞬。
ほんの一瞬が、命取りだった。
――パァン
札を打つ音とともに、気がつけばラブマシーンが役を揃えていた。
「っ、しまった!」
ラブマシーンはこいこいを選択せずに、夏希が稼いだ役を総取りしていく。
今まで稼いだ全てのアカウントが奪われていく。
『夏希さんの持ちアカウント74です。現在のレートに対して、賭け金が不足しています。ここでゲームを終了しますか?』
無機質なアナウンスがこだまする。
「っ…っっ…!」
74という無情な数字に、夏希の鼓動は早まる。
レートに対しての掛け金が足りない。
アカウントを奪い返すことすらもできない。
後ろで見守るおなまーえたちも、どうしようもなかった。
「バカ姉貴…」
おなまーえはうつむき、絞り出すように声を出した。