1戦目
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――ピピピピッ
目覚まし時計が鳴る。
「んん…」
ベシッと乱暴に叩けば、時を知らせるカラクリ時計はピタリと止まった。
膨らんだタオルケットがもそもそと動く。
「……んん」
4年の月日が経った。
初恋と呼ぶにはあまりにも刺激的な恋から4年。
その間に少女の体は膨らみ凹凸が現れはじめ、月のものも来るようになった。
「おなまーえー!さっさと支度してーー!」
「んー…」
一階から、姉が自分を呼ぶ声がする。
あれ以来しばらく親戚の集まりには行っていない。
気まずいというより、どんな顔を合わせればいいのかわからなくて、結局時間だけが流れてしまっている。
だが今回はそうはいかない。
なぜなら今年の夏は、おなまーえの曽祖母の90歳の誕生日。
医者からも先は決して長くないと言われているらしく、そろそろ顔を出せと両親に強く押された。
ドタドタと足音が近づいてくる。
――バァン
「もぉー!いつまで寝てるのよ!」
豪快に扉を開けてきたのは、おなまーえの姉の篠原夏希。
全然帰省しなくなった妹とは違い、姉の夏希は頻繁に顔を出しているらしい。
しかも今年は彼氏を連れてくるなんて大口を叩いたため、なんとしてでも恋人を作ると豪語していた。
錬金術でもするのだろうか。
とにもかくにも、進展があったかどうかは聞いていない。
「人待たせてるから遅刻できないの!お願いだから早く起きて〜!」
「んん…」
「というか荷物は!?玄関に置いといてって言ったわよね?」
「…荷物…それ…」
おなまーえは着替え一式を詰め込んだリュックを指差す。
「少な。そんなんで足りる?」
「服なんてしょせん布」
「…佳主馬くんもくるよ?」
「……佳主馬は関係ない」
「とか言って、ちゃっかり昨日美容院に行ってるのは知ってるんだからね」
「たまたまだよ、たまたま」
厄介なことにこの姉、私の淡い恋心に気がついている。
私から喋ったのか、姉が根掘り葉掘り聞いてきてゲロッたのか。
詳しいことは覚えていないけれど、おそらく後者だった気がする。
妹とは、姉を楽しませるおもちゃの呼称なのだ。
ツンケンとした態度をとったおなまーえに、姉は不服そうに頬を膨らませる。
「どうせ昨日も遅くまで佳主馬くんの試合見てたんでしょ?」
「違う…自分の試合の調整してた…」
今度行われるOZの格闘ゲームの百人組手。
世界チャンピョンに挑める数少ない機会だ。
世界チャンピョンとは言わずもがな、OZをプレイしている人なら誰もが知っている超有名人、キングカズマ。
契約している企業は数知れず。
OZの公式CMにも出演するほどの売れっ子だ。
そんな彼だから、百人組手なんてイベントを開けば応募者は殺到。
必然的に順位の上の人から優先的にエントリーされる。
エントリー期間は今月一杯。
それまでに少しでも順位をあげようと、毎日遅くまで試合に出場していた。
「そんなに頑張らなくても、どうせ会うんだから、直接相手してって言えばいいのに」
「乙女心は複雑なんですぅー」
「なーにが乙女心よ、いっちょまえにー」
そう返答はしたものの、実際姉の言う通り、佳主馬に直接相手をしてくれと言えば済む話なのだ。
それなのに、なぜわざわざイベントに参加して、キングカズマと対決しようとしているのか。
答えは単純。
「一緒に遊ぼう」
この一言が言えなくなってしまったから。
彼にとってOZの格闘ゲームは遊びではない。
最早スポーツの一種なのだ。
わかりやすく例えてみよう。
超一流のテニスプレイヤーに対して、なんの変哲も無い凡人が「一緒にテニスして遊びませんか」なんて、言えるわけがないだろう?
おこがましいったらありゃしない。
(……って、言い訳してるのはわかってるんだけどね)
本音を言うのならば。
自分の知らない間に、自分の知らない世界で、自分の知らない人たちから賞賛されている彼が、ちょっと遠い存在に感じたのは事実。
それに対してどう接すればいいのかわからなくなったのも要因の一つである。
本当はもっと複雑な感情が渦巻いているけれど、中学一年生の自分には、それをどう整理すればいいのかよくわからなかった。
「……で、姉ちゃんは見つけたの?理想の恋人」
「うん、それなんだけどねぇ…」
夏希は少し困ったように眉を下げ、こちらに懇願するような表情を浮かべた。
「あのさ、協力して欲しいの!」
「はい?」