7戦目
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戦って勝つことが好きだった。
おなまーえに教えてもらったゲームで、一番になりたいと思った。
誰よりも強くなって、他の誰にもできないくらいにおなまーえを守りたいと思った。
だが結果はどうだ。
おなまーえのアバターは奪われ、己はすくみ上がり手も足も出なかった。
(どうしてこうなってしまったのだろう。どうして…)
タイミングが良いのか悪いのか。
氷を持ち去った犯人である翔太が皆のところに戻ってきた。
「この暑さでばあちゃんが腐っちまうってときに、お子様は呑気にゲームかい」
彼は俯く佳主馬の背中に向かって嫌味ったらしく言葉をかける。
だがそれは今一番言って欲しくなかった言葉だった。
その言葉は、世界の命運を掛けて戦っていたカズマを逆上させるには充分すぎるものだった。
「…の、せいだ…」
「あ?なんだって?
「っ!!お前のせいだ!!」
声を張り上げた佳主馬は、怒りに任せて拳を振るう。
振り向きざまのそれは、翔太の顔面にヒットした。
「い゛っ!?」
「佳主馬!」
「佳主馬くんやめなよ!」
殴られた翔太は鼻血を出して尻餅をつく。
佳主馬はまだ足りないと再び殴りかかろうとしたが、太助と健二に押さえつけられた。
「っ、何なんだよ!お前が来てからろくなことがねえ!」
翔太も負けじと声を張った。
だがその怒りの矛先は佳主馬相手ではない。
「夏希はバカだしよ、ばあちゃんは死ぬしよ、佳主馬には殴られるしよ!!」
「翔太兄…」
「うぅ…!!」
翔太もバカだが決して悪い人ではない。
心の奥底に抱えた悲しみに触れたような気がして、健二は思わず佳主馬を抑える手を緩めてしまった。
「あああっ!!」
「佳主馬くん!」
拘束を振り解いた佳主馬は、怒りの感情のままに、翔太に向かってもう一度殴りかかろうとする。
「佳主馬!」
「!!?」
だが佳主馬の拳が翔太に当たることはなかった。
二人の間に割って入ったのはおなまーえだった。
拳の勢いは止められても、前傾姿勢になった佳主馬の体はそのまま前につんのめる。
おなまーえはそれを真正面から受け止めた。
「離せ!」
「だめ…!」
しっかりと彼をホールドして離さない。
おなまーえとて、翔太に言いようのない怒りを抱えている。
けれども彼も悪いことはしていないのだ。
曽祖母の遺体を気にして、冷やそうとしていただけなのだ。
「ぅ…あぁ!!」
「だめ、佳主馬。佳主馬の手は人を傷つけるためのものじゃない」
「うああ!!」
まるで獰猛な獣だった。
ラブマシーンを倒す、千載一遇のチャンスを不意にされた。
おなまーえのアカウントを取り戻すチャンスを無下にされた。
それが、彼の怒りの原点だった。
『な、なんだこれ…!?』
だがその怒りは佐久間の声によってなりを潜めた。
「「!?」」
振り向いた佳主馬と健二は、まるでバグを起こしたかのようにせわしなく数字が入れ替わるワールドクロックを目の当たりにした。
意識がそれたことで佳主馬が落ち着き、おなまーえも手を緩めて画面に目を移した。
『ワ、ワールドクロックが…』
「狂ってる…」
何が起きているのかわからない。
無機質な電子音が反響する。
何が起きるのか、どうなってしまうのか。
ただただ固唾を飲んで見守ることしかできない。
やがて時計は徐々に定まっていく。
ゼロ、ゼロ、ゼロ、イチ、ニ。
『02:10:00:00』
それがワールドクロックの示した時間だった。
程なくして、数字が逆に回り始め、徐々にカウントダウンが始まった。
「何の…カウントダウンだ…?」
「……」
誰も答えない。
誰もなんのリミットかがわからない。
だが残り2時間。
残り2時間で、何かが起こることだけは確かだ。
――ピッ、ピッ、ピッ
――ポーン
再び場違いな時報がなり、ワールドクロックから無数の吹き出しが現れた。
その一つ一つは細かい違いこそあれど、同じ何かの施設ののようにみえる。
「衛星写真…?」
「もしかしてこれって…」
「原発…?」
「な…なんで原子力発電所が…」
なぜ原子力発電所が映っているのだ。
困惑が収まらない一同に、さらに追い打ちを立てる自体が起きる。
「大変だ」
自衛隊の理一が、この上ないほどの緊迫した声をあげた。
「米軍の秘匿回線でアラームが上がっている。日本の小惑星探査機あらわしが、制御不能のまま地上へ落下中」
「「「えぇ!?」」」
「今!?」
「あぁ」
あらわしが落下中。
しかも制御不能の、暴走状態で。
一体なぜ?
理一は冷静を装いつつも、絞り出すようにして状況を説明する。
「あらわしはGPS誘導で任意の場所に落下できる性能がある。もし奴があらわしを操ってるとしたら…!」
「じゃあ、このカウントダウンは…!」
「……世界500ヵ国以上の核施設のどこかへ、あらわしが墜落するまでの時間」
「「っ!!」」
みな、息を飲んだ。
原子力発電に、音速を超える速さで衛星探査機が落ちてみろ。
その国だけでなく、全世界に核物質がばら撒かれ、やがて人類は滅ぶだろう。
――世界が終わるかもしれない。
たまらず佳主馬は声をあげた。
「っ…遊びだって?人間を滅ぼすことが遊びだって…?そんな…嘘だろ…」
「っ…」
本当に嘘のような話だ。
人工知能AIが、人類を滅ぼそうとしているだなんて。
「……奴にとって、これはただのゲームだ。何らかの思想や恨みでやってることじゃない」
理一曰く、ラブマシーンを放った張本人である米軍内でも、この状況にはかなり混乱しているらしい。
ただの実証実験が、こんな事態を招くとは想定していなかったのだろう。
「秒速7キロで落下する直径1メートルの再突入対は、隕石や弾道ミサイルそのものだ。仮に原子炉を突き破り、核物質が広範囲に撒き散らされた場合、被害は検討もつかない」
「……じゃあ、どうすれば…」
「今まで奪われたOZアカウントは全体の38%。4億1200。その中からGPS管制を司るアカウントを取り戻すこと……2時間以内に」
ワールドクロックが2時間を切った。
佳主馬は弾かれたように抗議をする。
「っ!4億人分のOZアカウントなんて取り戻せるわけないだろ!」
「しかし、他に方法が…」
大切な人のアカウントたった一つですら、取り返すことができなかったというのに。