7戦目
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時計の針が11時59分を指し示す。
『あと一分だ』
佐久間の言葉に、全員自分の配置についた。
「準備完了」
「こっちもいける」
「今度は勝つよ」
「気合い入れろ」
「……」
佳主馬は一人一人の顔を見て、最後におなまーえの祈るような視線と目を合わせ、頬を引き締めた。
佳主馬は最後に着席して、キーボードにそっと手を置く。
手の震えや緊張はなかった。
王者たるもの、そんなものは不要だ。
「しまっていこう」
二度目の戦争が始まる。
カチリと佳主馬はエンターキーを押して、OZの世界にログインした。
++++++
12時。
時を知らせる音。戦場には場違いな軽い音がOZ全体に鳴り響く。
OZ闘技場でただ一人立つキングカズマは、微動だにすることなく視線だけを周囲に向ける。
5秒。
6秒。
7秒。
しんと静まり返ったOZ。
見物に来たアバターたちも固唾を飲んで彼を見守る。
一秒一秒がやけに長く感じる。
10秒。
15秒。
20秒。
――ヒュッ
ピクリと佳主馬が反応を示した。
彼が見上げた先には、こちらに向かって一直線に飛んでくるラブマシーン。
姿形は以前見たものと変わらないが、奴の蓄えた情報と権限は膨大なものだ。
――ドゴォン
フィールドにクレーターができる。
砂煙が収まる前に、ラブマシーンはカズマに向かって殴りかかった。
「来やがった」
カズマはおなまーえの動きを真似て、全ての拳を回避していく。
まだ。
まだだ。
後ろに下がりつつ、機会を伺う。
そしてラブマシーンが蹴り技を繰り出し、ほんの一瞬できた隙をついて、カズマは反撃の回し蹴りを食らわせた。
ラブマシーンがよろめき、動揺する。
奴は先ほどのようにキレのある拳ではなく、隙だらけの回し蹴りを繰り出してきた。
それを難なく避けて、カズマはもう一撃を食らわす。
「よっしゃー!」
「速い、凄く速い」
皆のアバターが、リングの外で固唾を飲んで見守っている。
出だしは好調だった。
カズマは全ての攻撃を回避、ないしは受け流し、確実に敵にダメージを加えていく。
その戦法はおなまーえの戦い方をヒントに、彼が自己流にアレンジしたものだ。
パワーでは確かに劣るかもしれない。
けれどスピード、技術、そして判断力はカズマの方が一枚上を行っていた。
「いける」
確信したカズマは、ラブマシーンに向かって手招きをして挑発する。
「……」
「……」
ラブマシーンは空高く舞い上がった。
すかさずカズマもそれを追いかける。
「逃がすな!」
「ポイントに誘い込んで!」
今回の作戦は敵をこちらのテリトリー(スーパーコンピューター)にわざと引き入れ、閉じ込めて出られないようにするもの。
奴を倒すのではなく、捕獲することが一番の目標だった。
「こんな奴、僕一人で…!」
逃げ惑う見物のアバターにぶつかるラブマシーンはバランスを崩す。
すかさずそこにカズマが長い足で蹴りを食らわす。
――ガシャーン
打ち付けられたラブマシーンは、手当たり次第近くにあった障害物をカズマに向かって投げつける。
頭身サイズの文房具、そして次は車とバス。
それらを蹴り飛ばしたカズマは、再びラブマシーンに近づこうとした。
その瞬間。
――ヒュッ
――ドシャーン
突如大きなビルがカズマを挟み込んだ。
サンドイッチ状態になった彼は身動きが取れない。
ビルを抱えているのはラブマシーンではなく、普通のアバターだ。
「盗まれたアバターを操ってる」
「そんなことまでできるのか」
「…ヤラシイ能力」
おなまーえはコントローラーを握り、自身のアバターを動かす。
「いけない!カズマくん逃げて!」
「っ…!!」
ビルは脆く崩れているため、抜け出すこと自体は難しいことではないが、今はラブマシーンが目の前に迫っている。
悠長なことをしていれば、その間に奴に食われてしまう。
足元をすくわれた。
まさに絶体絶命。
佳主馬は焦りが表情に現れる。
「とりゃー」
次の瞬間、なんとも間抜けな叫び声とともに、ものすごい速さで何かがラブマシーンに激突した。
「っ!」
水色のパーカー、揃いのうさ耳。
カズマの窮地を救ったのはおなまーえだった。
ラブマシーンはおなまーえの足を掴もうとするが、彼女はそれをするりと交わす。
最初の攻撃は交わせた。
だが次もうまくいくとは限らない。
「っ!……っ!」
「おなまーえ!」
「くっ…!」
嫌がらせのように、おなまーえはラブマシーンの行く末を邪魔する。
集中を途切らせたらすぐに捕まってしまいそうなギリギリの戦いだ。
最早言葉を発する余裕もない。
というより、カズマですら五分五分のラブマシーンと渡り合ってる時点で、もうなんか讃えられてもいいと思う。
これは絶対にかなわない、不相応の戦いだ。
――パシッ
とうとうおなまーえのアバターの拳を掴まれた。
「っ…」
ラブマシーンが、小柄なウサギのアバターを飲み込み始める。
水色のパーカーが徐々に淡く消えていく。
「おなまーえ!」
「これは、もうダメだな」
おなまーえが気を惹きつけている間に、カズマはビルの狭間から抜け出した。
だがおなまーえが飲み込まれようとしているのを見て、彼の指がほんの一瞬躊躇する。
「いいから行って!なんのための時間稼ぎだと思ってるの!」
「っ!!」
カズマは悔しさに唇を噛み締めながらも、ビルを踏み台に空高く舞い上がった。
そうだ、それでいい。
こいつはカズマにしか誘導できない。
おなまーえの使っていたモニターに砂嵐が発生する。
コントローラーはまるで死んだように静かになり、どんなにスティックを動かしても、どんなにボタンを操作をしても、反応が返ってくることはなかった。