6戦目
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一通り設備も整い、一同はスパコンの周りに集結していた。
おなまーえは珍しくモニターの前でゲームコントローラーを握っている。
佳主馬の調整及びウォーミングアップに付き合っているのだ。
「問題は冷却っすね。このうちクーラーないし」
「いいところで熱暴走なんてされたら、たまったもんじゃないですからね」
「氷なら船にいくらでもあるぞ。手伝え」
「なんでそんなに用意がいいの…」
視線は画面に向けたまま、おなまーえが答える。
おなまーえの小柄なアバターでは、ラブマシーン戦の練習にもならないが、相手がいないよりはマシだと佳主馬に無理やり付き合わされた。
モニターと、昔ながらの両手で持つタイプのゲームコントローラーを握って、おなまーえは落ち着いた指さばきで操作をする。
おなまーえが的になり、ひたすらに回避をしていくのだ。
カズマはそれを逃さないように打撃を入れていく。
万助の言葉に突っ込んだ直後、キングの力強い蹴りが、おなまーえのアバターの頭の上すれすれを通り過ぎた。
危なかった。
あと一瞬気づくのが遅かったらノックアウトしていた。
「あっぶな」
「よそ見してるからだよ。集中して」
「なにおう」
回避からのカウンターで、パーカーを羽織った小柄なウサギのアバターがカズマに一撃を加える。
「っ、いい蹴りだね」
「お褒めに預かり光栄です、よっと」
すぐに退避をしてキングの反撃を躱す。
「おなまーえの戦い方は長期戦向きだね」
「決定打がない、可哀想な戦い方でしょ」
「トレーニング相手にはもってこいだ」
「それじゃ私が成長しないじゃない」
憎まれ口を叩きながらも、二人は一切の油断をせずに闘う。
「……いいコンビだね」
「昔はああやってよく一緒に遊んでたからねぇ」
健二と太助が氷を運びながらしみじみと呟いた。
「……やっぱり液晶じゃレスポンスが。叔父さん、HGのブラウン管モニターってまだある?」
「あるあるー」
「レスポンス言うほど悪い?」
「もっと良くなるなら越したことはない」
「ふーん」
おなまーえからしてみれば十分に強いと思うけれど、佳主馬にとってはまだまだ足りないらしい。
余念をなくしてこその王者。
頂点に君臨し続けるからには理由がある。
一切の油断と驕りを排除してこその、キングカズマなのだ。
二人は手を休めて小休憩をとる。
テレビ通話の繋がっている佐久間が、奇妙なものを見たかのような目で見てこちらを見てくる。
『夏希先輩んちって何なの?』
「普通の家だよ」
『200テラフロップスのスーパーコンピューターに、100ギガのミリ波回線なんて、そのスペック全然普通じゃないでしょ』
「私もそう思う」
「ちょっとごめんね」
氷を運び終え、手袋を外した健二がおなまーえをぐいっと追いやる。
佐久間の写っているモニターの正面を押し出されたおなまーえは、必然的に隣にいる佳主馬に倒れこんだ。
「果し状を出したいんだ」
『果し状?』
「差出人はキングカズマ。今度のキングカズマは今までとは違う」
『なんでお前がそんなこと言うの』
そういえば佐久間にはまだ言っていなかった。
おなまーえを押し返し、ワイプの端に顔をのぞかせた佳主馬が、なんて事のないように答える。
「僕がキング・カズマだから」
『それ笑う』
「……」
「……」
『………ガチで?』
間も無くして、OZの中央広場に一枚の果し状が掲載された。
『本日正午(日本時間)OZ格闘広場で待つ、キングカズマ』
情報は瞬く間に拡散されていく。
きっとどこかに潜んでいるラブマシーンの目にも入っているはずだ。
++++++
マシン、システムなどの設備の調整を終え、各々は調整に入った。
おなまーえは特にやることもないので、冷凍庫からアイスを拝借して佳主馬の稽古風景を見ている。
今度は師である万助も一緒ということもあり、彼らから離れたところで見学している。
故に、二人の会話が耳に入ることはなかった。
練功法をしながら、佳主馬はポツリと万助に不安を漏らした。
「師匠、勝てるかな」
勝てるかどうかわからなかった。
どれだけ準備をして、どれだけ気持ちを高めても、侘助の言っていた『何百万という軍隊』を相手にする不安は拭えなかった。
「お前は大人だ。お前の勝負はお前次第だ」
「中学生でも大人?」
「もうすぐ兄貴になるんだろ?」
「なろうと思ってなるんじゃない。しかも妹なんて…」
どう接したらいいかわからないじゃないか。
そう言おうとして、脳裏に『身近な妹』であるおなまーえの顔が浮かんだ。
「悪くねえぞ、兄弟ってのは。おやつは半分になるし、喧嘩もしょっちゅうだし、顔みりゃ憎たらしいことばっかだな」
「ふーん」
「あとは守りたい女の一人や二人いれば完璧だ」
「ならもう大丈夫だね」
「お。コレか?」
万作は小指を立ててニヤリと笑った。
いじめられっ子だった佳主馬に、そういう人ができるのは、この上なく良いことだ。
だが佳主馬は小さく首を振った。
「まだ」
「告白しとらんのか」
「うん。この戦いが終わったら」
佳主馬は縁側にポツリと座ってアイスを食べているおなまーえを見つめた。
「……」
「……青春だな」
その覚悟を決めた視線だけでわかった。
佳主馬は、おなまーえのことが好きなんだと。
「好いた女がいるんだったら、かっこいいところを見せんとな」
「うん」
もう王者のベルトは自分のものではないけれど、キングという称号が与えられているからには、己の想い人もろとも、世界を救ってやろうではないか。
「……なんか見られてる?」
一方、アイスを食べきったおなまーえは、佳主馬と万助が揃ってこちらを見ていることに、そこはかとないむず痒さを覚える。
「あ、アタリだ」
食べ終えたアイスの棒には『アタリ』と薄い文字で書かれていた。
【続】