6戦目
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おなまーえと健二は、びしょびしょに濡れたままでは流石に風邪をひくと、揃って風呂場に向かった。
だが同時には入れないため、先におなまーえがシャワーを浴びさせてもらった。
その帰り道、おなまーえは佳主馬の着替えを持った聖美と出会った。
「聖美さん、健二さん見なかった?」
「佳主馬のとこにいるわよ。一緒に行きましょ」
二人は並んで廊下を歩く。
「そういえば、何ヶ月目なんですか?」
「この子?」
聖美は愛おしげにふくらんだお腹をさする。
「9ヶ月よ」
「じゃあ後少しですね」
「そうね。予定日は9月の上旬って言われてるわ」
「子どもってやっぱ嬉しいもの?」
「そうね。佳主馬もあっという間に大きくなったけど、いつまでたっても自分の子は子どもよ」
「そうなんだ」
先ほど健二と恋愛トークをしていたから、ふと気になることがあった。
言おうか言わまいか躊躇して、おなまーえは目を泳がせながら口を開く。
「じゃあさ、聖美さん、自分の子供に恋人ができたらどう思う?」
「佳主馬?」
「え、あ…」
「昔からおなまーえちゃん佳主馬のこと好きでいてくれてるもんね」
「え、なんで知ってるの?」
びっくりした。
嘘でしょうってくらい筒抜けだった。
一体いつから…?
「ふふ、女の勘よ」
「そ、その…」
「普段落ち着いてるおなまーえちゃんがこんなに慌てるなんてね」
聖美は楽しそうにおなまーえをからかう。
「大丈夫。佳主馬には言ったことないから」
「あ…」
「私も、おなまーえちゃんなら大歓迎よ。あの子が大変な時期に一生懸命励ましてくれたでしょう」
「ま、まだ告白するとは…」
「しないの?」
「……」
年上のお姉さまに勝てない。
いや、この人の場合、母と同い年くらいなんだけれど。
「佳主馬がどう思ってるか、直接は聞いてないけれど、あの子もおなまーえちゃんのこと嫌いではないはずよ」
「だといいんですけど」
「おばさん応援してるからね」
おなまーえは口を横一文字にして俯いた。
恥ずかしいったらありゃしない。
好きな人の親にバレていたとは。
(もう、これから決戦なのに)
雑念を振り払うためにおなまーえは頭をふる。
自然乾燥で良いと、濡れたままの髪から雫が落ちた。
「佳主馬、着替え」
「あとで」
角を曲がると、稽古をしている佳主馬と、それを見ている健二がいた。
「健二さん、風呂上がりました」
「あ、ありがとう」
彼はまだびしょ濡れのままだ。
佳主馬は腰を低く落とし、蹴りや受け身のから稽古をしている。
爽やかな汗が彼の額からこぼれ落ちた。
「佳主馬君、キングカズマみたいだ」
「本当にね」
型の一つ一つがとても綺麗だ。
思わず見惚れるくらいには。
「ああ見えて、昔は酷い虐められっ子でね。名古屋から新潟の万助じいちゃんに、OZ経由で少林寺拳法を教わったのよ」
「それで師匠なんだ」
「そのあと、おなまーえちゃんにOZの中で格闘ゲームができるから一緒にやろうって誘ってもらってね。それからかな、あの子が元気になったのは」
「そうだったんだ」
「……」
以前、おなまーえが佳主馬を格闘ゲームに誘ったという話は聞いていた。
きっと彼女は佳主馬を励ましたいと思って格闘ゲームの世界を勧めたのだろう。
佳主馬が王者に拘るのは、そういう理由もあるかもしれない。
聖美は佳主馬の着替えを隅に起き、おなまーえにタオルを渡した。
「おなまーえちゃん、これ渡してきてくれる?」
「…聖美さん」
「やぁね、ただのお願いよ、お願い」
そう睨みつけるおなまーえの頬は少し赤らんでいた。
彼女はフカフカのタオルを持って佳主馬の元に駆け寄る。
佳主馬もそれに気がついて、稽古の手を止めた。
「青春ねぇ」
「え、知ってるんですか?」
おなまーえが佳主馬のこと好きだということを。
「そりゃあわかるわよ。だって親だもの」
聖美が微笑ましい目で二人を眺めた。
タオルを受け取った佳主馬は、ほんのりと香るシャンプーの匂いから、おなまーえが風呂上がりであることに気がついた。
「なんで風呂に入ったの?」
「あなたのお師匠様に水ぶっかけられて」
「ああ、災難だったね」
「やることなすこと豪快すぎるんだよ」
佳主馬はおなまーえの濡れた髪をひとふさ手に取る。
「ちょっと、聖美さんいるよ」
「大丈夫、見えないから」
佳主馬はその毛先を顔に押し当て、肺いっぱいにおなまーえの匂いを吸い込む。
一方おなまーえは、佳主馬の汗の匂いに頭がクラクラした。
情事の時を思い出し、おなまーえは思わず佳主馬を引き剥がす。
「ちょっともうフェロモンがダメだからはなして」
「嫌?」
「嫌じゃないけど、健二さんも見てる」
おなまーえはちらりと縁側に腰をかけている健二に目を向けた。
「おなまーえ」
「なに」
佳主馬は汗を拭き取り、タオルをおなまーえに返した。
「この戦いが終わったら言いたいことがある」
「その言い方はフラグ」
「茶化さないで。おなまーえって恥ずかしくなるとすぐにそうやって話そらさせようとするよね」
「よく知ってるね。私の取説でも読んだ?」
「読まなくてもそのくらいわかるよ」
日差しが眩しい。
頭がクラクラするのは日射病のせいか、佳主馬の匂いをたっぷりと吸い込んだせいか。
そっぽを向いた理由は、赤くなった頬を彼に見られたくないから。
「ねぇ。終わったら必ず言うから。その時はちゃんと答えてね」
「…気が向いたらね」
おなまーえは耐えきれずに背を向けて、健二と聖美に見られたくなくて、真っ赤な顔にタオルを押し当てる。
「っ…」
そこでようやく思い出す。
すっかり忘れていた。
このタオル、今佳主馬が汗を拭いたタオルじゃないか。
より一層クラクラする頭に、おなまーえは頬の熱が冷めることがなかった。