6戦目
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「うちの先祖様ってどんな戦に出ても必ず負けちゃってたらしいよ」
「え、それ大丈夫なの?」
「さぁ?」
男どもは各々武器を仕入れに出ていった。
佳主馬もやることがあると言って納屋に引きこもっている。
手持ち無沙汰なおなまーえは、同じく暇を持て余していた健二と縁側に腰をかけていた。
昨日の混乱が嘘のように、ラブマシーンは今日はおとなしい。
その不気味なくらいの静けさが、嵐の前を予感させた。
「……」
「……」
二人はぼうっと空を眺める。
真っ白な入道雲が空の半分を覆い隠していて、ほんの少し眩しかった。
利き腕をあげて、形のない筆で空を描く。
「……」
「……」
「……健二さんさぁ」
おなまーえは視線と指を空に向けたまま話しかけた。
「なに?」
「夏希と本当に付き合っちゃえば?」
「え!」
「好きなんでしょ?それとも嫌気がさした?ここ数日のわがままっぷりに」
「い、嫌なんかじゃないよ」
「こんな事に巻き込まれて、普通面倒だなって思うんじゃないの?」
「ううん。思わない」
涼しい風が髪をさらう。
おなまーえは視線を落として健二の方を見た。
「ここに来れて、僕は良かったって思ってる。色々と迷惑をかけてしまったからこんなこと言うのもアレかもしれないけれど、夏希先輩には感謝してる」
どもり気味の健二は、時折びっくりするくらいはっきりと喋る時がある。
真剣に、まっすぐな目をこちらに向ける彼は覚悟を決めた顔をしていて、それは紛れもなく彼の本心なのだと感じることができた。
「……たまにかっこいいこと言うよね、健二さん」
「そ、そうかな」
「…………童貞のくせに」
「…へ!?」
「違うの?」
「え、あ…」
みるみるうちに顔が赤くなっていく。
先のかっこいい発言が台無しだ。
「そのくらいがちょうどいいと思うよ。夏希も、多分そういうの経験ないだろうし」
「え、でも夏希先輩モテるし…」
「盛りすぎな設定からわかるでしょ。理想高すぎて告白する人する人、片っ端からフってんだから、あの人」
モテない自分には理解できないけれど。
本当にあの姉のどこがいいんだか、レポート用紙にまとめて提出して欲しいくらいだ。
そんな発言をしたら、この生真面目な健二は、本当にレポートを作成してきそうだから決して言わない。
「あ、でも夏希先輩、きっと侘助さんのことが好きだって…」
「ああ、夏希の初恋相手、聞いちゃった?理想のプロフィールまんまの人だからね。逆か。侘助叔父さんの生い立ちを聞いて、それが夏希の理想になったのか」
「……」
健二は自信なさげに俯いた。
彼は数学しか取り柄がないと、以前言っていた。
きっと侘助には敵わないとか思ってるんだろう。
ふふんと鼻で笑う。
「あのさ、健二さん、恋愛はステータス勝負じゃないんだよ」
余計なお世話だとしても、言わずにはいられなかった。
彼はハッとして顔を上げる。
「例えば、デートに車で迎えに来てくれて、それが高級な車で女の人が自分でドアを開けて乗りこむのと、ファミリーカーだけどエスコートしてドアを開けてくれるの、どっちがいいと思う?」
「……」
好みの差はあれど、私なら後者の方がずっと好きだ。
なんていうか、自分のことを大切にしてくれていると感じることができる気がする。
「もちろん最低限、社会性とか経済力とかは必要だけど、それだけが恋愛の全てではないってのは知っておいてね」
おなまーえはぴょんと縁側から飛び降りた。
遠くから車の音が聞こえる。
そろそろ叔父さんたちが帰ってくる。
「……おなまーえちゃんは、佳主馬くんのどこが好きなの?」
「なにそれ」
予想外の質問におなまーえはくすくすと笑う。
どこが好きかなんて言われたら、全部と言うしかないけれど、敢えて言うのであれば。
「強いて言うなら顔かな」
「…正直者だね」
「うそうそ。そうだなぁ…」
おなまーえは一昨日の夜に想いを馳せる。
慣れないことをしながらも、一生懸命にリードしようとしてくれた佳主馬が、とても愛おしかった。
「……相手を思いやって…いや違うな……優しい?のはありきたりすぎるか……」
どうにもうまく言葉にできない。
「……困った。どこが好きなのかなんて考えたことなかった」
気がついたら好きになってたのだ。
どこが好きかなんて、一つに絞ることはできない。
「言葉にしようとすると、どれもチープに聞こえちゃって…」
「そっか…」
「参考にならなくてごめんなさい」
「いや、むしろ安心した」
「そう?良かった」
一体何に安心したのかはわからない。
恋愛というものは、好きという感情ありきで回っている気がする。
顔が好き、性格が好き、仕草が好き。
心にくるポイントはたくさんあると思うけれど、全部佳主馬だから好きだと言える。
それだけの自信がある。
他の人がいくらカッコよくたって、いくら優しかって、いくら仕草が素敵だからって、佳主馬以外の人を好きになることはない。
「おぉーい」
大きな段ボールを乗せた荷運びのトレーラーがやってきた。
「太助さん」
「ただいまー」
「ちょっとこれ乗り付けるから、そこ退いてもらってもいい?」
「どうぞ」
健二が退くと、太助はクレーンを操作して、小上がりの座敷に段ボールを押し込もうとする。
古くからあるありきたりな日本家屋だ。
廊下と天井の差は2メートルと少ししかない。
段ボールの上部が桟にぶつかった。
――ドシィーーン
家が大きく揺れる。
「あー、これ入んないかなぁ」
「もうちょっと下だよ、叔父さん」
「危ないからおなまーえちゃん下がってて」
「はーい」
太助はもう一度乗り入れようとトレーラーを前進させる。
――ズシィーン
だが今度は下過ぎたようだ。