3戦目
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――ニヤリ
敵アバターは不敵に笑った。
次の瞬間、目にも留まらぬ速さで奴はキングカズマに襲いかかった。
先ほどとは明らかに動きが違う。
佳主馬の動きを真似しているだけでは無い。
それを模倣して、さらに進化している。
この短時間でここまで上達するだなんてあり得ない。
「一撃一撃が重い…」
「クソ!クソ!クソッ!!」
重いだけではなく、素早い。
単純なステータスだけでなく、操作技術も佳主馬を上回るのではないだろうか。
その予想を裏付けるように、佳主馬はただただディフェンスを繰り返していた。
防戦一方の戦い。
彼に焦りが出てきた。
「こいつ…」
薄々おなまーえも感じている。
直接対決している佳主馬は確信しているかもしれない。
――人間技ではない。
両者は飛びかかり、同じ構えで殴りかかろうとする。
だが攻撃に転ずるのは、すんでの差で敵アバターの方が早かった。
――バコンッッ
ギャラリーまで吹き飛ばされたキングカズマは目をパチクリとさせる。
今まで戦った、どんな敵よりも強い。
こちらの動きを模倣、いやそれ以上に、戦いの最中にも進化していく様子は、もはや化け物と言っても過言ではなかった。
「なになにー?」
「ゲームやってんの?」
「俺にもやらせてー」
「二人ともダメ!」
年頃の子供が、パソコンに興味を持つのは必然だろう。
真悟と祐平は佳主馬の背中を押して、佳主馬の邪魔をする。
「っ、触るな!」
「佳主馬!」
「はっ!」
佳主馬が二人を振り払うも、パソコンの画面いっぱいに握り締められた拳が映る。
――ゴキャン
キングカズマは顔面、それから腹を蹴られる。
なんとか耐えたものの、残り体力ももうわずか。
「っ!!」
――ゲシッ
最後に正面から鮮やかすぎる蹴りをくらい、ウサギのアバターは後ろに吹っ飛び倒れた。
「あ…」
「うそ…」
力なく後ろに倒れたキングカズマ。
その背面には、無情にもK.O.の文字が刻まれている。
「っ…」
どんなにこちらが不利な状況だとしても、負けは負け。
これはゲームではない。
一対一の真剣勝負。
敗者の言い訳は、見苦しい。
ジリジリと敵アバターがキングカズマに近づいていく。
リスのアバターが前に立って彼を庇おうとするが、このままでは逃げることもできない。
「き、キング!このままじゃ取り込まれるぞ!!」
「佳主馬、貸して!」
佳主馬は戦意を喪失している。
というよりもう戦えない。
すかさずおなまーえは佳主馬を退かし、自身のIDでログインする。
もちろん勝てるだなんて思っていない。
そんなのは先の戦いを見ればわかることだ。
(でも、時間稼ぎにはなるはず)
カタカタと、素早いタイピングでアバターに指示を出す。
キングカズマとお揃いの、ウサギのアバターが画面に現れる。
カズマよりは小ぶりで、目元も緩やかで、スカイブルーのパーカーを羽織ったウサギが、高速でOZの中央広場に駆け付ける。
「はぁっ!!」
おなまーえの蹴りは、敵アバターの片手で受け止められた。
微動だにしなかった。
「っ!健二さん!今のうちに!」
「え!?わ、わかった!!」
リスアバターはカズマのジャケットの襟を掴み、スタコラとログアウトしていく。
「おなまーえも!ログアウトして!」
「うるさい佳主馬」
せっかく強者のアカウントを手にいれるチャンスだったのに、それを阻止された奴が簡単におなまーえを逃してくれるはずもない。
先程カズマにくらわせた拳と同じくらい、いやそれ以上の振りがこちらに向かって飛んでくる。
それをおなまーえはギリギリのところで避けきる。
「す、すごい…」
「私は大して強くないよ、っ」
「そういえば百人組手出たいって…」
「ベスト100入れてないから、出られるかわかんないけどね…っ」
「!」
その言葉に佳主馬はハッと顔を上げた。
彼には私のアバターは教えていない。
4年間も連絡を取っていなかったのだ。
私が世界ランキングに入っていることすらも知らなかっただろう。
おなまーえの特技は回避。
小回りの効く体で相手の体力を消耗させるバトルスタイルが得意だ。
攻撃モーションも一発殴って三歩下がるくらいの慎重さ。
だが、この敵アバターには体力というものが無尽蔵にあるように感じられる。
正直このままではこちらのジリ貧で負けてしまう。
「ああ、もう!!」
どうしようもない。
これは負けるかも知れない。
(嫌だなぁ。まだ百人組手にエントリーできてないのに。)
おなまーえが諦めかけたその時。
彼女の視界の端に、黄色いフォルムが映った。
「うぉ!なんだあれ!!」
「健二さん!?」
健二の仮アバターのリスだった。
彼はおなまーえの前に割って入るとあらぬ方向を指差して声を上げた。
敵アバターは律儀にも刺された方向に首を動かす。
「今のうちに!」
「っ!ありがとう!」
おなまーえはリスのアバターを抱えて走り出す。
これは逃避の逃げではない。
次なる反撃につなげるための逃げだと言い聞かせて。
【続】