肆
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
自身の刀を手にとってから2週間が経った。
「氷の呼吸 壱の型・氷室斬り」
「ギャアッ!!」
2週間も経てば体も本調子を取り戻してくる。
筋力は元に戻り、鈍っていた感覚も取り戻した。
初任務もとっくに終え、今回で6つ目の任務であった。
「ぐぁああっ!!痛い!!痛いいぃ!!」
ボトリと首が地面に落下する。
鮮やかな切り口が霜焼け、鬼の苦痛を加速させる。
氷は相手を苦しませるためにできた流派。
本流の水の呼吸は自由に形を変えられることから、相手を苦しませない慈悲の呼吸として有名だ。
氷は、それとは根本が相反する。
刀についた鬼の血を拭き取り、おなまーえは刀を鞘に納める。
鬼は最期まで断末魔をあげて消えていった。
神経障害を患っている自分にとって、この鬼の悲鳴こそが生きていることの証だった。
己が刀を振り、鬼が滅んだ。
その事実をもってして初めて、おなまーえは自分という存在を感じられる。
仕事終わりの習慣で、自分の五体が満足であるかを確認する。
「……大丈夫そう」
下手をすれば片腕が取れてても気がつかないから、こうして全身を目で見て、怪我をしていないことを確認しなければならない。
万が一傷を負っていてそれに気がつかなければ、そこから感染症を拾ったり悪化させてしまったりする危険もあるのだ。
「今日の任務は終わりかな」
鬼殺の仕事もあらかた慣れた。
鎹鴉に言われるがまま任務に赴き、現地で聞き込みをしつつ夜を待ち、鬼が出てきたところを叩く。
鬼殺隊初心者ゆえ、まだそんなに人を食ってない鬼ばかりを充ててくれているようで、おなまーえは少々物足りない気持ちを抱いていた。
まぁそんなことを言ったら不謹慎極まりないのだが、そろそろ力試しをしてみたいのも事実。
自分はどのくらい強くなっているのか。
――父親よりもつよくなっているのだろうか。
少女は月の明るい道を歩く。
長い夜はいつだって鬼にとって有利に働く。
鬼殺隊は当然人間だから、昼間に比べて視界は悪くなるし、頼りになるのは月明かりだけだ。
そういえば、鬼は日中どこに身を隠しているのだろうか。
洞窟や土の中にいるのだろうか。
もしかしたら昼間に森に入れば洞窟の奥で怯えている鬼や、タケノコのように地面から生えてる鬼に遭遇できるかもしれない。
(……タケノコ汁飲みたい)
おなまーえは空腹を抑えて藤の家に向かう。
己の体力、残り7割程度と予測。
その気になれば徹夜でも大丈夫だが、いつ次の任務が来るかわからない。
時間が余っているのであればさっさと寝るのが吉だろう。
「カァーー!」
鎹鴉が突然鳴き出し、おなまーえの肩に着地する。
時刻は深夜。
町の人々は深い眠りについている。
というかこの鳥、夜なのに目が見えているのか?
鳥目なんて訓練でどうにかなるものでもないだろう。
「カァーッ!」
「しー、夜だから静かにして」
「次は哪吒蜘蛛山!哪吒蜘蛛山!」
「え、もう次の任務?」
「カァーーッ!至急参られたし。先発隊10名からの連絡が途絶えている!」
「!!」
先発隊10名。
チームが組まれているということは、壬以上の階級の先輩方ということだ。
その先輩方からの連絡が途絶えるということは、相手は只ならぬ鬼だということ。
「……たしかに腕試ししたいとは言ったけどさ」
あまりにも急すぎるだろう。
幸か不幸か、哪吒蜘蛛山はここからそんなに離れていない。
走れば半刻ほどでたどり着けるだろう。
「……」
なりふり構ってはいられない。
今この瞬間だって優秀な鬼殺隊員が殺されているかもしれない。
おなまーえは鎹鴉を空に放ち、夜道を歩く速度を一気に上げた。
++++++
世闇にそびえ立つ哪吒蜘蛛山。
張り巡らされた白銀の糸は、獲物を狩るためのマヌーヴァー。
この森に入った者は――否、この山の付近に住んでいた者は皆、町ごと鬼に食われてしまった。
彼ら家族にとって、鬼殺隊などただの餌。
この山に入った瞬間から、彼女の糸には絡まっているのだから。
「……陰気臭い」
むしむしとしていて陰気臭い。
あ、これは水蒸気の"蒸し"と大量にいる蜘蛛の"虫"をかけた言葉です。
言葉通り、辺りにはそこかしこに蜘蛛の糸が張り巡らされている。
鬼殺隊の姿も見られない。
「腐臭もだんだん強くなってきてるし、こっちが正解かな…」
かきわけようとした草木にも蜘蛛がくっついているものだから、おなまーえは眉を顰めて木を叩く。
虫は嫌いだ。
足が6本以上あるとか正直理解ができない。
蜘蛛に関しては8本もある。
毛虫やダンゴムシ、ムカデに至っては、もう生きてる意味がわからない。
気持ち悪いと思いながらも、これも仕事だから進まなければならない。
「あぁ、もうやだ…」
みょーじおなまーえは生まれながらにして触覚が鈍い。
故に、草木を分けたその手に蜘蛛が咬みついたことに気がつかなかった。