参
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「どうもどうも。私鉄井戸と申します。みょーじおなまーえさんでお間違いないですか?」
「はい、私で間違いございません」
宿を出ると、ひょっとこの仮面をつけた男が待ち伏せをしていた。
「……」
「……」
「……素敵なお面ですね」
「ありがとうございます」
一瞬理解が追いつかなかったが、顔を隠す決まりでもあるのだろうとさして深くは追求しなかった。
ここは人目につくということで、ふたりは町外れの茶屋に向かうことにした。
今は大正時代。
本来ならば刀など持っていたら銃刀法違反で捕まってしまう。
鬼殺隊は政府非公認の組織なので、警察もその辺りの配慮はしてくれないのである。
茶屋の一番奥の個室を借り、ふたりは腰を落ち着ける。
「よくここがわかりましたね」
「あなたの鎹鴉が優秀だったもので」
風呂敷をほどきながら、鉄井戸はホクホクしながら話してくれた。
「ご要望では、鞘に特殊な加工をしてほしいということでして」
「はい。私氷の呼吸を使うので、"鞘の中はなるべくマイナス100度に保っていてほしいのです"。」
氷の呼吸 壱の型・氷室斬りは、居合の技である。
鞘の中を液体窒素で満たして刀を凍らせ、斬り付けた相手の細胞や血液を凍らせ凍傷を負わせるのである。
一時的に麻痺や再生不能状態を付与することも可能だ。
ただし液体窒素の特性上、この技は最初の1回のみ最大の効果を誇る。
また、刀を鞘に収めた形だと密閉状態なのだが、刀を抜いてしまうと鞘の中の液体窒素が空気中に霧散してしまう。
それを防ぐためにバネの機能を使って、彼方を抜いた瞬間に蓋が現れるように細工してもらったのである。
木の箱から、黒い鞘に収まった刀を取り出す。
水筒のように真空の壁で挟まれた特注品である。
刀は通常の打刀よりやや短めの、脇差くらいの長さだ。
「わたくし、10年前の文献を片っ端から調べ上げましたよ」
「お手数おかけしました」
「いえいえ。氷の使い手なんて本当に珍しいですからね。色々と勉強させていただきました。」
スッと刀を差し出される。
柄の部分は淡い藤色と白色の糸が編み込まれている。
――カチャ
おなまーえはそれを受け取り、刀を鞘から取り出した。
一見鈍い色を放つ普通の刀に見える。
だがここからが色変わりの刀の真骨頂。
鍔元から徐々に色づき始め、刀は瞬く間に淡い水色を放つ。
それは水よりもずっと冷たい色で、鏡なのではないかと思うほどに透き通っていた。
「水色ですか」
「氷なので…」
鉄井戸の残念そうな口ぶりに申し訳ない気持ちになる。
きっと期待に沿うことができなかったのだろう。
「ああ、勘違いしないでください。水の呼吸と差があるのかと勝手に期待していただけだったので。」
彼はふるふると首を振ってフォローする。
店の人が来る前に、おなまーえは刀を鞘に戻す。
「刃こぼれをした際は遠慮なく私に連絡をくださいませ」
「嫌じゃないんですか?」
「まさか。まぁ一部の刀鍛冶の中にはそういう考えを持つものもいますが、そんなのは横暴というものです。物はいつか壊れるのですから。」
「…そう割り切れるんですね」
「あなたが刃こぼれするほど、それだけ私の打った刀が鬼を滅殺しているということです。これほど誇らしいことはありませんよ。ですから自信をお持ちになって、存分に刀を振るってくださいませ。刀が傷ついたときに修復するのが私達の仕事です。」
刀鍛冶にはアタリハズレがあると聞く。
性格しかり、腕前しかり、隊士と刀匠の相性も大きく影響してくる。
「……私の刀鍛冶があなたでよかった」
「それはこの上ないほどの褒め言葉でございます」
「!」
ハッと口元を抑える。
なんて小っ恥ずかしいことを口走ったのだ。
心で思うだけで、口に出すつもりはなかったというのに。
試練を終えてからというもの、どうにも調子が出ない。
体に力も入りにくいし、体力の残量を見誤るなんて私らしくない。
(修行、しなおさなきゃ)
任務が来るまで素振りをしよう。
落ちた筋肉を元どおりくっつけなければ。
みょーじおなまーえは一層鍛錬に励んだ。
【続】