弐
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「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです。」
「…どうも」
鳥居では、おかっぱ頭の座敷童子のような風貌の双子がおなまーえを出迎えてくれた。
この試練の案内役。
整えられた髪は片方は白、片方は黒。
それ以外はそっくりそのまま同じ容姿をしていた。
おなまーえは辺りを見回す。
生き残ったのは自分を含めてたったの5人。
蝶と戯れている、唯一無傷の少女。
顔の横一直線に傷のある、鋭い目つきの少年。
赤みがかった髪と目をした、純朴そうな少年。
そして黄色い髪で己が生き残ったことを憂いている我妻善逸。
「死ぬわ。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。ここで生き残っても結局死ぬわ、俺。」
腑抜けっぷりは相変わらずのようで、彼はおなまーえに気がつく様子もなく、ぶつぶつと呟いていた。
運がいいのか、悪いのか。
「で?俺はこれからどうすりゃいい。刀は?」
目つきの悪い少年が問いかけた。
童が淡々と抑揚なく応える。
「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、そのあとは階級を刻ませていただきます。」
「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸。今現在皆様は一番下の癸でございます。」
「刀は?」
「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで10日から15日となります」
「さらに今から皆様には鎹鴉をつけさせていただきます」
――パンパン
白髪の座敷わらしが手を二回たたくと、空から羽ばたきの音が聞こえて、鴉の群れが降りてきた。
――バサァ
おなまーえが腕を出すと、鎹鴉は行儀よくひじに着地する。
「え?鴉?これ」
ふと隣の善逸を見ると、彼の手のひらには可愛らしい雀が鎮座していた。
「え?ねぇこれ雀じゃね?」
「…よく似合ってるよ」
「いや似合うとか似合わないとかじゃなくてさ!?ねぇ!?」
座敷わらしたちは善逸の言葉を気に止めることもなく話を進める。
「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます」
要はお目付役だ。
この鎹鴉を通じて任務が来たり、招集がかかったりするという、なんとも優れた鴉なのである。
おなまーえが頭を撫でれば、鎹鴉は心地好さそうに目を細めていた。
――バシィッ
不意に何かを振り払う音が聞こえた。
「ギャアッ!」
間も無くして、鴉の叫び声が聞こえる。
顔を向けると、先ほどの目つきの悪い少年が鎹鴉を突き飛ばしていた。
「どうでもいいんだよ、鴉なんて!」
彼は、白髪の座敷わらしの胸ぐらを鷲掴みする。
「刀だよ刀!!今すぐ刀よこせ!鬼殺隊の刀!"色変わりの刀"!!」
なんとも短絡的な思考回路の少年がいたものだ。
よくこの試練を生き残ることができた。
いや、生き残るだけなのだから、実はそんなに難しくはないのか?
氷のような目で少女は事態を見届ける。
「あわわ!」
少年に叩かれ、地面にうずくまった鴉に善逸が駆け寄る。
「だ、大丈夫?」
「…カァ…」
鴉を拾い上げ、叩かれたであろう部分をさする。
どうやら我妻善逸は心根が優しく、こういったことは放って置けないタチの少年らしい。
(私とは正反対…)
おなまーえはわずかに首をふると、着物の裾にしまっていた包帯を取り出し、善逸に投げつけた。
「え!?」
彼は困惑したようにそれを受け取った。
「いらなかったら捨てて」
自分用に持っていたものだ。
この試練では出番がなく余っていたから、ちょうど使い道ができてよかった。
おなまーえは視線を目つきの悪い少年に戻す。
「……」
「君は…」
この時、善逸の中ではひとつ確信したことがあった。
この少女は悪い子ではないと。
一方そんな善逸の確信など露知らず。
彼女は膠着状態の少年二人を再び眺める。
横暴な態度を取る少年を見ていられないと思ったのだろう。
赤目の純朴そうな少年が、目つきの悪い少年の腕を掴み、その手を折った。
――ゴリュ
鈍く痛々しい音が辺りに響く。
「ぐっ…」
赤目の少年の、どこまでも真っ直ぐで力強い視線に、もう1人の少年は文句すらも言わなかった。
「お話は済みましたか?」
「っ…」
「……」
「……」
黒髪の座敷わらしの言葉に、あたりはしんと静まりかえる。
一時騒然としていた会場は仕切り直された。
「ではあちらから刀を作る玉鋼を選んでくださいませ」
促されて、祭壇のようになっている机の上に目を向ける。
「鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです」
玉鋼。
そう言うと輝かしいものが思い浮かぶが、その実はゴツゴツとした岩の塊である。
選ぶも何も目利きの才など持ち合わせてはいない。
「…見分けるポイントとかは?」
「特には。いつも皆さま直感で選んでいただいております。」
「そう…」
困った。
全然わからない。
他の受験者は何か感じるものがあるのかと思い、横に目をやる。
「…やべぇ、わかんねぇ」
「……は?」
「……」
「どうすれば…」
各々困惑している様子だった。
そりゃそうだろう。
いきなり選べと言われても、知識もなく、まだ成人もしてない私たちは適当に手に取るしかない。
「……」
おなまーえは一番奥にあった、一番小さな鋼を手に取った。