陸
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「いいですか、絶対安静ですからね?次動いたらベットに縛り付けますから」
「は、はい…」
おなまーえでも思わず敬語を使ってしまうほど高圧的な態度。
戻ってきたアオイは、善逸の脳震盪と頬のもみじを見て心頭に発っした。
ちょっとこの子とは、素直になれない天邪鬼同士仲良くやれるかな、なんて甘いことを考えていたので、おなまーえは残念そうに眉を下げる。
アオイには「それだけ動けるなんて、おかしいです。あなた痛みとか感じないんですか?」と嫌味たっぷりに言われた。
もちろんその通りだ。
痛覚がないからこうして善逸を懲らしめることができているのだ。
幸い後遺症は残らないようで、おなまーえは全治3ヶ月を言い渡された。
「これからは毎日この薬を飲んでください」
そういって渡されたのはとってもとっても苦いお薬。
こういう時に限って味覚があるのが残念に思われる。
鬼の毒を浄化し、蜘蛛化の際に縮んだ手足を元に戻す特殊な薬なので仕方ないといえば仕方ないが、やはり苦いものは苦い。
この苦い薬を三ヶ月、毎日五回飲まなくてはならないのだそうだ。
善逸もイヤイヤ言いながらも、一応ちゃんとこの薬は飲んでいる。
だがおなまーえは彼の飲んでいる薬の倍の量を処方されているのだ。
倍だぞ?倍。
もう食欲が失せるどころの話ではない。
吐き気がする。
ああ、もう嫌だ。
触覚はないくせに味覚だけはきちんとあるのだから。
アオイが立ち去ってから、おなまーえは憂鬱そうに頭を抱えた。
「……ところで、炭治郎」
「なんだい?」
「さっきからずっと気になってるんだけど。そこの箱はなに?」
「えっと、あ、これは…」
おなまーえは桐の箱を指差す。
子供一人は入りそうな木の箱で、普段なら気にも留めないなんの変哲も無い荷物なのだが、その中から感じる気配が異質だった。
気配そのものは鬼なのに、敵意も殺意も一切感じられない。
気配を消そうとする様子もなく、寝ているのかと思うくらい静かで無防備だし、そもそも鬼がここにいるというのに誰も騒いでいない。
人とは違う、正真正銘の鬼だ。
だがただの鬼とは少し様子が違う。
おなまーえは炭治郎に説明を求めた。
「その、まだうまく説明に慣れてなくて。この中にいるのは俺の妹なんだ。鬼になってしまっているけれど、でも人を食べたことは一度もない。」
「…上はそれ知ってるの?」
「この前裁判にかけられた。認めてもらえたかはわからないけれど、でも柱の人たちは禰豆子を殺さないでおいてくれた。」
「……じゃあ私からはひとつだけアドバイス」
上が認めているのであれば余計なお世話になるかもしれないが、でもこれだけは言っておがなければならない。
「あのね、私も含めてね、鬼殺隊に入ってる人たちって多かれ少なかれ、なんかしらの理由があって鬼を滅殺したいと思っている人たちなのよ。その理由は様々だけど、例えば恋人を殺されたとか、家族を殺されたとか。」
家族という単語に、炭治郎はピクリと反応した。
「そういう人たちがその妹を見て、なんて思うか、炭治郎はいつも考えなくちゃいけないよ。説明が十分じゃなかったら私、妹の首を刎ねてたかもしれないしね。」
「……うん、気をつける」
彼女のいうことは最もだった。
事実、柱の前に突き出される時も、最初は鬼というだけで禰豆子は殺されかかった。
別に柱の人たちも悪意があるわけではない。
ただ己の任を全うしようとしているだけだ。
この先何度だって禰豆子は疑いの目をかけられるだろう。
それに反論できるだけの技量と実績を自分は積んでいかなければならない。
親方様にも言われた。
皆に納得してもらえるように、十二鬼月を倒さなければならない。
そして必ず、あの男にたどり着かなくては。
炭治郎はひとつ挟んで隣のベッドのおなまーえに微笑みかけた。
「ありがとう。おなまーえは優しい匂いがするな。ツンケンして厳しい口調をしてるが、俺と禰豆子のことを思って話してくれてる。」
「は?」
「俺、鼻が効くからそういうのはわかるんだ」
「善逸の耳みたいなもの?」
「多分?」
「うん」
「…はぁ〜」
人畜無害そうなのほほんとした顔をして。
この少年も私の天敵だ。
おなまーえは重い溜息をつく。
なんなのだ、どいつもこいつも耳とか鼻とか。
音とか匂いなんて、そんなに情報量って多いものなのか?
というか耳ならともかく、鼻とかあなたは犬ですか?
犬なのですか?
炭治郎じゃなくて犬治郎なんですか??
鬼の妹とともに旅をする竈門炭治郎少年、意識を失うと人が変わったように強くなる我妻善逸、森育ちで猪突猛進なところのある嘴平伊之助。
おなまーえと4人の出会いは、彼女にとって大きな転機となるのであった。
【続】