#02
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
お昼時。
工場内の食堂にお邪魔させてもらい、一同は休憩を取ることにした。
当番の人から渡された皿をトレーに乗せていく、いわゆる給食形式である。
「おなまーえちゃんはあの現場を見てどう思った?」
ケロリとした顔で食事を受け取る常守朱が問いかけてきた。
「どう…って、ひどいなーとか、ご遺体苦しそうな顔してるなーとか?」
「あ、いや。私が言うのもなんだけど、あんな現場ばかりでよくPSYCHO-PASS維持できるなって。」
「ああ…」
正直に言うと、現場を見た時、おなまーえの色相はほんの一瞬濁った。
当然だ。
それが正常な反応である。
むしろこれっぽっちも色相が濁っていない朱の方こそ、一体どんなストレスケアをしているのか甚だ疑問だ。
配膳トレーをテーブルに置き、おなまーえは席に着く。
狡噛と常守、おなまーえと縢が隣同士で座った。
「PSYCHO-PASSを維持できる理由ねぇ」
おなまーえはたっぷり5秒考えて、ほんの一瞬隣の男に視線を移した。
唐揚げを美味しそうに口に運ぶ縢。
「……絶対潜在犯になれない理由が、私にはあるから、かな」
「……なんでこっち見んの」
「いやぁ?バ縢と同類になりたくないなーって思ったら、ほら、なんとなく前向きな気持ちになれなくもない?」
「最っ低な思考回路だな!?」
「やだ照れる…」
「褒めてねーし!」
食堂の隅っこが、まるで学生食堂のように一気に賑やかになった。
「あんなご遺体見たあとによく普通に食事できるわね」
「ありゃホログラムだろ!?あの程度でモノ食えなくなるならこの仕事向いてないんじゃないの、監視官!?」
「ふ、2人とも――」
「ほっとけ、常守監視官」
仲裁に入ろうとした常守朱を狡噛が制した。
「で、でも」
「いつものことだ、この仲良しコンビは」
「「仲良しじゃないし!!」」
「ほらみろ」
「ほ、本当だ…」
「まぁコイツら幼馴染だしな」
「え?そうなの?」
それは初耳だ。
縢は確か5歳で潜在犯判定されていたはず。
それより前からの付き合いなら、相当昔から2人は仲が良いのだろう。
「あ!」
おなまーえはハタと思い出す。
「私本部に送らなきゃいけない追加資料が…」
「職務怠慢〜」
「アンタよりはまともにやってる!っと…あー、オフラインだっけ、ココ」
腕時計型のデバイスの『圏外』という文字を見て思い出す。
ネット環境があって当たり前の生活をしていたため、オフラインという環境になかなか慣れない。
最近は山奥でも電波が入るというのに。
「ほんと、嫌な職場だよね」
「…きょうび、ネットに接続できない環境で缶詰とはね」
隣の縢も自身のデバイスが圏外になっていることを確認した。
先程共有された職員のデータを見ながら、常守が不思議そうに首を傾げる。
「でもここの人たちのサイコパス色相、わりと安定してるよ?」
「ハッ、どんな場所でも気晴らしの方法は――」
縢の言葉は続かなかった。
「いかがです?何か不審な点はみつかりましたか?」
食事中の4人の元に、郷田主任が声をかけてきた。
相変わらずニコニコと、愛想笑いがお上手だ。
「いえ…頂いたデータからは特に…」
「…これ、個人データの秘匿とかはされてないんですか?」
「はい。色相結果はここの職員であれば誰でも見られるようにしてあります。」
「…そうですか」
例えば、身体測定の結果が職場ないしは学校の生徒全員に公開されるのはどうだろうか。
視力ならまだしも、身長や体重はなかなかにセンシティブな項目だ。
色相の色もこれに該当するのではないかと、おなまーえは眉をひそめた。
――ガシャーーン
誰かがトレーを落とした音がした。
一同の目がそちらに向く。
「よう黄緑野郎。今日もまた優雅に個室でランチか~?」
「ハハハッ!」
ひとりの男性を、複数人が寄ってたかって囲んでいた。
彼らが男性のトレーをひっくり返したのだろう。
床に這いつくばった男性は、縮こまりながら散らばったものを集めようとする。
たが茶碗に手を伸ばされた手は残酷にも蹴飛ばされてしまった。
朱は郷田主任を睨みつけた。
「なんですかあれは。ひどい。」
「ああ、あれはいいんです。放っておいて。」
「は?」
「よくあることですよ。なにぶん娯楽の少ない環境ですからね。一人ああいう立場の人間が必要なんですよ。」
要はみんなして彼をストレスの捌け口にしているということだ。
オフラインの要塞の弊害、人類の凶暴性の証である。
生贄のサイコパスが濁れば即座に配置換えという名の首切りを行い、新たなる生贄が出てくるのを待つ。
郷田主任の頭には、オフラインでもできる娯楽の設備という発想はなかったようだ。
おなまーえと縢は興味なさげにお茶を飲む。
彼には悪いが、ここの方針(要は経済省の方針)に口を出して捜査に支障を来すのは避けたい。
君子危うきに近寄らず。
アレは我々で解決できる問題ではない。
「彼は彼で役に立っている。ああいう役回りがふさわしいからこそシビュラにこの職場をすすめられたんじゃないですかね。」
とどめの一言。
上に立つ者とは思えない言葉を聞いても、二人は動じなかった。
だが常守朱と狡噛慎也はその限りではない。
狡噛は静かに箸を置いた。
「それを笑って見過ごせるあんたもここの責任者がお似合いってわけだ。シビュラシステム様様だな。」
彼はおもむろに立ち上がると、蹴り飛ばされていた男性に手を差し伸べる。
朱が主任に対して、得意げに笑ってみせた。