#09
夢小説設定
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みょーじおなまーえは、シビュラシステムの正体が免罪体質の犯罪者の脳みその集まりだとは知らない。
ましてや禾生局長の体がサイボーグでできていて、その脳は藤間幸三郎のものだとはつゆほどにも思っていない。
彼女の、模範市民的な思考で辿り着いたのは、禾生局長がシビュラシステムを動かす、全ての黒幕だという発想のみ。
故に、この目の前の人物を殺すことが解決への道だと判断した。
(私には力もないし、体術の心得もないから…)
彼女はぐっと足に力を入れた。
禾生局長がトリガーを引く、ほんのカンマ0.7秒前に、彼女は走り出した。
ただでなんて死んでやるものか。
せめて一矢報いたい、あわよくば相打ちに持っていければ万々歳だ。
「…ごめんね、縢」
エリミネーターの銃口が光った瞬間。
みょーじおなまーえは禾生局長にタックルをかまし、そのまま階段の踊り場から飛び降りた。
老朽化していた手すりは呆気なく外れ、2人は重力に従い、最深部まで落下していく。
不思議と、死の恐怖は感じられなかった。
落下する浮遊感もそんなに怖がるほどでもない。
(……ちょっと寒いなぁ)
――ゴシャン
――ベシャッ
機械が打ち付けられた音に続いて、生々しい音が辺りに響いた。
禾生局長はサイボーグで出来た体を無理やり起こす。
「全く、なんて無駄なことをしてくれるんだ」
替えがあるとはいえ、ボディも決して安いものではない。
半身が破損してしまっているから、もうじきにこの体は動かなくなってしまうだろう。
「……あと2人」
禾生局長――いや藤間幸三郎は、みょーじおなまーえの手だったものを踏みつけて、立ち上がる。
吹き飛んだ体からおもちゃの指輪が飛び出てきて、それが自身の破損したボディに引っかかっているだなんて思いもせずに。
****
縢秀星は目の前の光景を疑った。
文字通り、人の脳が入れ替わり立ち代りで移動している光景。
シビュラの正体はスーパーコンピューターや高性能の演算装置などではなく、人の脳みそだったのだ。
「こいつがシビュラシステムの正体だ!この手でぶち壊すまでもねえ。こいつを世間に公表すればこの国はおしまいだ!」
以前みょーじおなまーえを唆そうとした男、チェ・グソンは興奮気味にその光景を録画していた。
「今度こそ本当の暴動が起きる。もう誰にもとめられねえ!」
「ぁ…」
こんなものたちが、自分の将来を摘み取ったのか。
幼い少年少女を引き裂いて、ただ普通に生きたいという願いまで刈り取って。
縢秀星はただただこの光景に目を見開くばかりであった。
『対象の脅威判定が更新されました』
ふと、背後から聞き覚えのある思考性音声が聞こえた。
縢は慌てて振り向く。
『執行モード、リーサル・エリミネーター。慎重に照準を定め対象を排除してください。』
そこにいたのは半身がぐしゃぐしゃになった禾生局長。
だがその体は血肉で出来たものではなく、アンドロイドでできた機械の体だった。
「…!!」
チェ・グソンもただならぬ気配を感じ取って、すぐさま振り向き発砲したが、それよりも先にエリミネーターの光が男を吹き飛ばした。
「きょ、局長!」
ゆらゆらと前に歩いてきた彼女の体を見て、縢は目を見開いた。
「っ!!」
局長が機械の体だということに驚いたわけではない。
機械の体だというのに、彼女の全身にはべったりと血が付着していたのである。
そして肩のあたりに引っかかっているのは、おもちゃで出来た小さな指輪。
それはみょーじおなまーえが生涯大切にしていた宝物。
「……だから来んなって言ったのによ」
『執行モード……ノンリーサル…パラライ……』
ドミネーターがまるでバグを起こしたかのように変形し、おぞましい形を成した。
いつもドミネーターを使っている彼には、それが何を意味するかすぐに理解できた。
真実に近づいた者、真実を知ってしまった者は生かしてはおけないということだ。
「……やってらんねえよクソが」
青い光に包まれて、それでもこの生から脱却できるのも悪くはないと、縢秀星はニヒルな笑みを浮かべた。